不登校・・・佐和子の場合 神戸フリースクール 田辺 克之
学校が楽しい場所になればいいのに、と子どもたちはいつも考えている。朝起きて着替えをしながら、教室で今日起こるであろう出来事をイメージする。
佐和子(仮名)は、最近廊下から教室に入ろうとすると、身体が小刻みにふるえる。他人に知られたくないから、必死でふるえを抑えて教室に入る。いつもの席について、自分の自由な空間が机の周囲1メートルしかないことに気付く。男の子達はたわいもない冗談を飛ばしあって楽しんでいる。女の子たちは数人ずつグループになって、芸能人の話やテレビの話題に黄色い声をあげたりしている。どのグループにも属さず、佐和子はひとり静かに読書をしながら教師の来るのを待っている。お弁当を食べるのも一人だ。たまにふざけた男の子が、隣に座って、ちょっかいを出してきたりするが、無視するしかない。うざい。なにもかもが幼稚に見えて、早く1日が過ぎてしまわないかと何度も時計の針を見る。
教室のあのふざけた気だるい空気がたまらなくいやだ。身体のふるえの原因を佐和子はこの空気にあるのだと自覚する。終業のベルがなると、だれにも声をかけず、しずかに佐和子は教室を離れる。そんな毎日のくりかえしの中で、ふと佐和子は気付く。最近学校の中で笑ったことがないなと。私もそろそろ不登校かと自分に言い聞かす。きっと親は驚くだろうな、なにも理解できないだろうな、それが心苦しいと佐和子は思う。
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佐和子は中学1年生のしっかりした女の子です。はじめてフリースクールに来たとき、不登校になった原因を聞くと、「男の子の悪ふざけに、つきあいきれなくなったから」と答えていました。上の文は、彼女が体験した教室の風景です。精神年齢の高い彼女には、男の子たちの遊びや会話が幼稚で野蛮に思えたようです。小学校高学年ぐらいから、ずっと耐えてきたので、もういいかなと決意したというのです。しかし、彼女が望むような、ひとりひとりの個性が豊かに保障される学び舎なんて、この広い日本のどこにあるのだろうと、面接をしながら考え込んでしまいました。すると、彼女が「フリースクールって、そんな所だと思って来ました。」と明るく笑顔で話し、まるで彼女から我々がめざすべき方向というかミッションを再確認させられた気がしました。そして、もし彼女を失望させるフリースクールなら、続ける意味がないんだと自覚させられました。