昨日の記事では、ルールについての話をしました。簡単に言えば、デモクラティックスクールでは集団のルールを守る意識が非常に高いこと。それは、ルールの源泉が子どもたち自身の決定にあることが理由です。
逆にいえば、自らがルールの源泉でないかぎり、ルールは人にとって束縛としか感じられず、またそれを自ら作り変えようとする意思も生まれないのです。
わたしたちがこの社会を民主主義的なものにしたいのであれば、「ルールとは自分が作り出すものである」という経験をする機会を子どもたちが持てるようにした方がよいと言えます。
もうひとつ、集団のルールの創造と遵守以外で、デモクラティックスクールで経験できる集団生活について。
わたしたちは既存の学校に通うことで、多くの人と関わっているように思いこんでいます。だからこそ、1000人近くの子どもが通っている学校に自分の子供を通わせる方が、大人になってから無理なく集団生活に溶け込んでいけるのではないかと思います。デモクラティックスクールに見学に来て、そう疑問を呈される親御さんもいます。
それに対して私自身は次のようにお答えしています。既存の学校では、まわりの人と関わることが著しく制限される、と。
学校に行けばたくさんの子どもが確かにいます。しかし、学校でのほとんどの時間を占める授業中に、生徒たちは他の生徒たちと話すこともままなりません。
まわりの子どもと楽しくおしゃべりをするという愉しみは禁止され、その禁を破る子どもは教師に注意され、叱られます。
しかし、人と関わることは、人とおしゃべりすることを介してしかなされません。
学校でほとんどの時間を割かれている授業では、そこには子どもがたくさんいますが、子どもはまわりの子どもと関わることはできません。
また子どもたちは、教師と関わることもできません。教師は子どもたちに関わるよりも先に、授業をしなければならないからです。教師にとっては、自分が下す指示を子どもが呑み込んでいるかどうかが大切となり、子ども自身がどういう関心をもっているかは二の次とされます。
実際、学校で子どもが関わっているのは、人でもなく、先生でもなく、“指示”“命令”“規則”であると言えます。
授業、運動会、演奏会、合唱会、修学旅行… すべて集団を一つの方向に動かす指示があり、まずその指示を守るように子どもたちは求められます。
学校での経験を楽しいものと思い出すとき、実は私たちはその集団に対して下された“指示”を楽しいものとして思い出すことは稀です。
私たちが学校での楽しい経験として思い出すのは、授業と授業の間のたった10分ほどの休み時間だったり、学校が終わり解放された気分を味わった放課後の帰り道だったり、修学旅行で自由に行動することを許された時間だったり…
実は、学校の活動から解放されている時間を、私たちは楽しい経験として思い出します。そして、そのわずかな時間こそ、私たちはまわりの人間と関わることができるのです。
デモクラティックスクールに通っている子どもが異口同音に言うのは、そこでは友達と無限におしゃべりできることの素晴らしさです。
よく、社会に出てからは人づきあいが上手くできることが大切と言われます。相手に媚もせず、傲慢にもならないこと。そのように人と接することができて初めて、その人は社会でうまく人と接することができると言えます。
他人に対して傲慢な人が社会でうまく生きていけないのはもちろんですが、媚びへつらうことしかできない人もまた、他人に軽んじられるだけで、自分の望む人生を構築できない場合が多いでしょう。
人と対等に接する機会、それを無限に持てるのがデモクラティックスクールです。またそういう空間だからこそ、デモクラティックスクールの子どもたちは、おしゃべりの才能を限りなく磨きぬきます。
「会社で役に立つのは雑談力」という言葉を聞いたことがありますが、デモクラティックスクールの子どもの雑談ほど聞いていて面白いものはありません。場の空気を読み、ウィットが効き、ユーモアに充ち溢れているのです。
それは、「子どもは無垢・無邪気で礼儀正しいものでなければならない」という大人の幻想を容赦なく剥がします。しかしそこには、うわべだけを取り繕り、笑いながら生気を失っているような会話はありません。
大人になっても生き生きと働き、また生きている人も、同じようなのではないでしょうか。そういう人たちは、他人に対して失礼なことをせずに、かつ自分自身に対して正直でいて、自然な対等さで人と接しているのではないでしょうか。
そして、本当に人と関わる能力というのは、そのように自然な対等さで、人とおしゃべりできる能力なのだと思います。
だから私は、デモクラティックスクールに見学に来られる親御さんに言うのです。むしろデモクラティックスクールだからこそ、人と上手く関われる人間になります、と。
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