未来遺産キビタキ調査(平成21年5月9日10日)

ありもと@孟子です。。 みなさんこんばんは。。。

5月9日6時。
孟子不動谷到着です。
今日は日本ユネスコ未来遺産のキビタキ調査の日です。
数日前、向陽中学の川久保君から「当日の集合時間は
7時ですが、みんなより早く行って鳥を見たいんで、6時
からつきあってもらえませんか?」という電話をもらって
いたのでした。

川久保君が、向陽高校で物理の先生をされているお父さ
んと二人で、参道入り口に立っています。

簡単な挨拶をすませ、お父さんは帰途につかれ、二人で
調査を開始します。
当初この鳥類調査は、中学生には難しすぎるのでは?と
いう躊躇がありました。
なので、調査メニューも、単純にキビタキの繁殖状況調査
のみにしていたのですが、川久保君がいるので、少し調査
の手を広げることにします。

ラインセンサスで出現した鳥類はすべて記録しリスト化し、
その中で環境省・和歌山県RDB指定種は確認地点を図面
に落とし記録することにします。

とにかく川久保君の「鳥を見たい!知りたい!」という情熱
はものすごく、鳥キチガイという点ではだれにも負けない自
信のあるありもとが少々おされぎみなのです。
こういう子がいる限り、こちらもできる限りのデータ取得をめ
ざさねばなりません。
未来の鳥類調査の「担い手」になりそうな子を、ありもとので
きるかぎりの「もてなし」で伸ばそうと思いました。

水路道を行くと、キビタキの囀りに交じって、オオルリ、サン
ショウクイの囀りが聞こえます。
川久保君は次々に確認地点を図面に落として行きます。

2年ぶりにギンランに出会います。
和歌山県レッドデータブック絶滅危惧ⅠB類に指定された、
里山を代表するらん科植物です。
孟子不動谷には少数開花しますが、植物体が小さいのと、
花期が短いのとで、なかなか開花株に出会うことができま
せん。今日は朝からラッキーです。
川久保君も、興味深げに観察しています。

ギンランを見送ってしばらく行くと、川久保君がありもとを
呼びとめます。
「ありもとさん。あの岩の間にあるコケの塊って、オオルリ
の巣じゃないんですか?」
彼が指さす方を見ると確かにオオルリの巣です。
残念ながら昨年の古巣ですが、まだ緑色の苔にコーティ
ングされた、見事な皿型の巣が岩の隙間に掛っています。

「この雰囲気がオオルリの巣の雰囲気よ。この感じを覚え
ておけば、そのうちヒナのいる巣を見つけることができる
と思うよ」

そういうと川久保君は嬉しそうに笑って古巣の写真を撮っ
ています。

センダイムシクイの囀りが近づいてきます。
「ほんまに焼酎一杯グィーッって聞こえますね!!」
前回のフクロウ調査の折のことをしっかり吸収して自力で
センダイムシクイの囀りを確認しています。
中学生といえば、スポンジのような記憶力を持つ時期なの
で不思議でないのですが、いくらスポンジの記憶力を持っ
ていても「熱意」がなければこうはいきません。

「この子、ホンマに鳥が好きなんやな」
嬉しくなってきます。

天堤池にさしかかると、川久保君に「リクエスト」されていた
鳥が漸く登場します。

ギギッ ギッ チッチョーホイ ホイホイホイ!!
サンコウチョウです。
ありもとも今季初記録です。
孟子不動谷の夏鳥の代表ともいうべき30cmにもなる飾り
尾羽を持つ美麗なヒタキ類です。

サンコウチョウと妍を競うように、キビタキの声の響きます。
それを追いかけてオオルリも歌っています。

オオルリは、那賀寺に植栽されたモミの樹頂で、青い背中
をこちらに向けて朗々と歌っています。

3種の「名歌手」たちの「混声合唱」の奥に、ひときわ声量
豊かな名歌手が歌っています。

クロツグミです。

キョコ キョコ ホイヒーロ ホイヒーロ ピジッ!!
本当に目の前で歌っています。
「むちゃくちゃ近い!!けどどこで鳴いてるかわからん・・・」
川久保君も昨日新調した双眼鏡で必死で姿を探しますが、
結局確認できません。

「向こうからはこっちが見えてるんよ。せやから見えないよう
に枝の間に隠れて、囀ってるんやで。
この谷では、昨年クロツグミが繁殖してね。谷に仕掛けた無
人カメラに巣立ち雛が写ってんで。今年もこの谷で、営巣す
るに違いないと思うよ」

川久保君は熱心に頷いています。

キビタキのひととおりの勢力図を図面に落とし終え、その上
オオルリ、キビタキ、クロツグミ、サンコウチョウといった貴重
種の確認もでき、7:30山案山子に戻ります。

山案山子には前川先生、樋上先生率いる理科部2年生たち
が集合しています。

ありもとから、川久保君の早朝調査の成果と、今後の調査予
定を説明し、いよいよ全体調査の開始です。

谷のキビタキの分布は、川久保君との早朝調査でほぼ確定
したので、全体調査では馬路峠の個体の確認と、その他貴重
種の解説を行います。

川久保君以外の生徒諸君は、野鳥観察ははじめてなので、や
はりいきなり川久保君のような調査は無理です。
ですから今後のために、できるだけたくさんの鳥を見る練習を
してもらいます。

まず天堤池に向かいます。
見晴らしの良いところで猛禽を確認するためです。
堤に立った瞬間、2羽のタカが上空に姿を表します。

ハチクマです。
♂が2頭
ナワバリ争いをしています。
昆虫類を専門に狩る大型のタカで、東南アジアから5月初旬に
孟子に渡ってきます。
今年も例年通りの「御帰還」です。
ゆっくり、ゆっくり輪描くハチクマは彼らにも少し遠いものの観察
しやすいようです。

ヒリリ ヒリリ・・・
サンショウクイが、鳴きながら上空を通過します。
「セキレイみたいや!」
川久保君が言います。

ピックィー ピックィー!
震えるような大きな声で鳴きながら、サシバが上空に姿を現しま
した。
♀と思われる個体が上空を旋回し、♂と思われる個体が鉄塔に
止まっています。
このタカも、ありもとが中学生のころは至る所の谷で見られたご
く普通のタカでしたが、近年では減少し環境省絶滅危惧Ⅱ類に
まで指定されています。

確認したいと思っていた猛禽2種を確認しおえ、馬路峠に向か
います。
道すがらもシジュウカラやヤマガラ、メジロ、ウグイス、ホオジロ
センダイムシクイ等が次々に姿を表します。

馬路峠では、珍しい花を3種確認します。

まずはシソバタツナミ(しそ科)。
タツナミソウの仲間の青白い花で、和歌山県では記録が少なく、
確実な自生地は竜門山と孟子のみのようです。

次はシライトソウ(ゆり科)。
白いブラシのような花をいっぱいにつけて、暗いスギ植の中で輝
いています。

最後はキンラン(らん科)。
ギンランが白い花ならこちらは黄色い花。
こちらはまだ孟子には結構自生がありますが、これも和歌山県
レッドデータブック絶滅危惧Ⅱ類の植物です。

一通りの未来遺産調査を終えて10時
これからは彼ら恒例の「孟子生物調査」です。
「昆虫班」はとんぼ池で昆虫調査、「鳥類班」はありもとと一緒に
天堤池から鶴者峠に向かいます。
とんぼ池の「昆虫班」の「同定会」が11時にあるので、鳥類班も
それまでにもどらねばなりません。

上空をまたハチクマが舞っています。

谷の奥では、クロツグミが依然朗々と歌っています。

そんな中、鶴者峠に行く前に「エビネの谷」に降りて行きます。
まだ多分花は残っているはずです。
はたして、見事な花をつけた数株を確認できました。
和歌山県レッドデータブック絶滅危惧ⅠB類。
園芸植物としても人気で、盗掘が心配なので、ありもとも「極秘」
でモニタリングを行っていますが未来を担う「彼ら」には見せてお
こうと思いました。

11時
とんぼ池に戻ると、嬉しい客人の到着です。
はるばる新宮市から、トンボ調査のため、南先生夫妻、山口さ
ん夫妻がご来園です。
現在改訂中の和歌山県レッドデータブックの調査で、指定対象
種であるコサナエ属3種(フタスジサナエ、オグマサナエ、タベサ
ナエ)の調査に来られたのです。
先生方お住まいに南紀ではコサナエ属のサナエトンボはコサナ
エ1種だけで、フタスジ・オグマ・タベは観察できないのです。
ですから4人とも、孟子では「普通種」の3種のサナエトンボを
嬉々として観察し、1頭ずつ採集しては、三角管に入れています。

中学生たちも、「サプライズ」の大先生の登場に、ヤマサナエや
ハラビロトンボ、クロスジギンヤンマ等の識別法のレクチュアを
受けていました。

昨年夏以来の南先生との再会を喜び、先生に今回の紀北調査
のもう1種の「目当て」のニホンカワトンボの生息場所の図面を
渡します。
ニホンカワトンボは大阪府などではごく普通種ですが、彼らが遺
伝子を置く平野部の緩やかな中流域のごく少ない和歌山県では
極めて分布が極限された種で、孟子不動谷、海南市野上中等の
貴志川水系と、高野町花坂等の高野山麓でのみ記録されていま
す。
孟子で確認できればよいのですが、発生が不安定なので、なか
なかたくさんの個体が出現しないので、確実な生息地として花坂
をおすすめしました。

「じゃ、これから花坂に向かいます。そしてその足で高野山に行
き、ムカシトンボ、クロサナエ、ヒメクロサナエ等を探します」
南先生たちはそう言って、孟子不動谷を後にしました。

南先生たちを笑顔で見送り、水槽の中にいっぱいの水生動物の
同定を終えて12時
「そろそろ貴志川線の時間なんで帰るぞ!」
前川先生の言葉とともに、「居残り組」の川久保君、林君たち3名
を残して、帰路につきました。

3人でテラスで昼食をとります。
「ありもとさんはこれからどうされるんですか?」
「1時ころまでは君たちと一緒に観察して、わんぱく公園に戻るよ」
「じゃ、サワオグルマを一緒に見に行ってくれませんか?」

昼食を食べた後、3人でサワオグルマの池を目指します。
丘のような山とはいえ、1つ山を越えて行かねばなりません。

キビタキの囀りの響く雑木林を、3人で進みます。
最後は両手両足を使って、斜面を登ります。

汗を拭き拭き登った斜面の向こうに、満開の黄色い花が見えました。
サワオグルマ(きく科)です。
和歌山県RDB準絶滅危惧種
海南市ではかつて亀池で記録がありましたが絶え、今はここが唯一
の産地です。
「先月はまだほとんど咲いてへんかったけど、きょうは綺麗やなぁ」
口ぐちに感動の言葉を発しています。

こんな池まで行きたいという彼らのような熱心な若者に、未来遺産を
引き継げたらどんなに良いだろう・・・
そんな感慨を胸に描きつつ、愛おしい彼らの別れ、わんぱく公園に
向かいました。

明けて5月10日6時
孟子にやってきました。
今日は雨になるというので、朝の間だけ、やってきました。
狙いは1つ。
天堤奥のクロツグミです。

ありもとはまだ、孟子不動谷でクロツグミにレンズをむけたことがあ
りません。
谷間に仕掛けた無人カメラに巣立ち雛を捉えたものの、自分でフレ
ームを覗き、自力でピントを合わせ、シャッターを押さないと、やはり
「撮った!」という気分にはならないものです。

抜き足差し足で、クロツグミの囀るコナラの樹下に到着します。

キョコ キョコ ホイヒーロ ヒオヒーロ。。。
しめしめまだ歌っています。
声のする方を必死で凝視します。

すると・・・
1羽の小鳥がヒョイと葉の中から枝先に飛び移りました。

あわててカメラをむけて、ピントを合わせます。

やった!!
若いけれども確かに♂のクロツグミです。

黄色い嘴をいっぱいに開けて、朗々と歌っています。
カメラのシャッター音も、軽快に響きます。

キョコ キョコ ホイヒーロ ホイヒーロ・・・

遠い昔、鳥仲間とともに、はるか富士山麓にこの鳥を見に行ったこ
とを思い出します。

時が流れ、里山の植生遷移が進み・・・
里山でこの鳥が繁殖をはじめてくれたおかげで、自宅からバイクで
数分の地点で、黄色い口を大きく開けて歌う「名歌手」に、こうして
出あうことができるようになりました。

いつまでも、いつまでも、ここで歌っていてほしいものです。

そのためにも「未来遺産」の「使命」は重いものです。
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<鳥類>
カワウ、カイツブリ、サシバ、ハチクマ、ヤマドリ、キジバト、コゲラ
アオゲラ、キセキレイ、ビンズイ、ツバメ、ヒヨドリ、サンショウクイ
クロツグミ、オオルリ、キビタキ、サンコウチョウ、ウグイス、セン
ダイムシクイ、エナガ、ヤマガラ、シジュウカラ、メジロ、ホオジロ
カワラヒワ、スズメ、ハシボソガラス、ハシブトガラス
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<両生爬虫類>
ニホンアマガエル、シュレーゲルアオガエル、トノサマガエル
ニホンアカガエル、ツチガエル、ヌマガエル、ウシガエル
ニホントカゲ、ニホンカナヘビ、ニホンイシガメ、ヤマカガシ
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<昆虫類>
ホソミオツネントンボ、アサヒナカワトンボ、ヤマサナエ、タベサナ
エ、フタスジサナエ、オグマサナエ、クロスジギンヤンマ、シオヤト
ンボ、シオカラトンボ、ハラビロトンボ
クビキリギス、ヤブキリ幼、カマドウマ、トゲヒシバッタ、ヒシバッタ
フキバッタ幼、ツチイナゴ
マルカメムシ、シラホシカメムシ、マツモムシ、コマツモムシ、アメ
ンボ、オオアメンボ、ヤスマツアメンボ、ヒメアメンボ、オオヨコバイ
ツマグロオオヨコバイ、シロオビアワフキ幼
クロヤマアリ、クマバチ、セイヨウミツバチ、ニホンミツバチ、コガタ
スズメバチ、オオスズメバチ、セグロアシナガバチ
マガリケムシヒキ、ホソヒラタアブ、キリウジガガンボ、オドリバエの
一種
ヤマトシリアゲ
モンシロチョウ、スジグロシロチョウ、モンキチョウ、キチョウ、アオス
ジアゲハ、アゲハチョウ、ナガサキアゲハ、モンキアゲハ、クロアゲハ
カラスアゲハ、キアゲハ、ヤマトシジミ、ルリシジミ、ベニシジミ、コチャ
バネセセリ、テングチョウ、コミスジ、ツマグロヒョウモン、キタテハ
アカタテハ、ヒメウラナミジャノメ、クロヒカゲ、クロコノマチョウ、サトキ
マダラヒカゲ、タケカレハ幼、キマダラツバメエダシャク、チャドクガ幼
ナナホシテントウ、ヒメカメノコテントウ、カシワクチブトゾウムシ
クロコガネ、ジョウカイボン、カクムネベニボタル、オオミズスマシ
マメゲンゴロウ
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