ほんとうのたべもの

 前日までの激しい雨も、どこにいったのかと思うほど素晴らしい秋空の下、実習指導クラスの1年生110人と、千刈キャンプでの合宿に行ってきました。自然の中での体験学習や自分を見つめる時間、またサポーターとして手伝ってくれた2年生や3年生の先輩たちから聞く実習の話や本音トーク、グループでディスカッションを重ねてまとめ上げていくワーク、どれをとってもどのシーンを思い出しても、若さあふれる充実した時が流れていたように思います。
 
 110人が集うことは、大きな楽しみや喜びを導いてくれることと想像できましたが、それと同時に大きな不安もありました。110人がひとりも欠席することなく、また中途棄権することなく最後までいっしょに行動をともにできたことは、奇跡にも近い思いがしています。この科目を申し込んだときから、合宿の日程を空けていたスケジュール管理能力や健康管理の力は、授業に臨む姿勢そのものが伺えて本当に花丸ものでした。
 そして、グループでの様々なワークは、いっしょに考え悩み話し合い、励ましあい助け合いながら「今ここで」の関係性を大切にしながら、学びのプロセスを歩むものでした。
 秋の風を感じながら自分と向き合った時間は、きっといつまでも自分のこころの奥のほうで、自分自身を支えてくれる力になったのではないでしょうか。
 
 
 わたしは、千刈の森の中を歩きながら、宮沢賢治の『注文の多い料理店』の「序」に書かれた一節を思い出していました。それは、こんな風な文章です。
 
「わたくしたちは、氷砂糖をほしいくらいもたないでも、きれいにすきとおった風をたべ、桃いろのうつくしい朝日をのむことができます。
 またわたくしたちは、はたけや森の中で、ひどいぼろぼろのきものが、いちばんすばらしいびろうどや羅紗や、宝石いりのきものに、かわっているのをたびたび見ました。
—中略— わたくしは、これらのちいさなものがたりの幾きれかが、おしまい、あなたのすきとおったほんとうのたべものになることを、どんなにねがうかわかりません。」

 ここで集えた学生さんが、この経験をほんとうのたべものに感じるまでには、まだまだ時間がかかるのかもしれませんが、少しずつ少しずつともに成長していけるよう、歩みを続けたいと思っています。

支援室:110人の母となった N.N