「人権の視点から考える認知症予防」講演会報告

平成23年1月27日(木)午後1時半〜3時
楽しくしく学ぶ人権講座「高齢者の人権(人権の視点から考える認知症予防)」
主催:宇治市教育委員会 人権啓発課
会場:宇治市生涯学習センター第2ホール
講師:NPO法人認知症予防ネット
 理事長 高林実結樹

講演要旨
○ 認知症患者の人権、昔と今
○ スリーA増田方式認知症予防とは?
—1:発病した方→「重度化予防」と「在宅生活への引戻し」
—2:MCIの段階→「二次予防」と「在宅生活への引戻し」
—3:一般の方→「転ばぬ先の予防」

○ スリーAの予防ゲーム三原則
—1:優しさのシャワー(癒し)
—2:脳活性化リハビリ(楽しい予防ゲーム)
—3:笑いの効用

○ 在宅介護でも応用できる
○ 医療と生活の改善で車の両輪
○ 脳活性化リハビリの体験
○ 認知症患者の尊厳を守るとは?
—本人・家族の究極の願い

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テキスト販売が許されたので、売り子として福井が手伝い、講演の様子などを記します。
高林理事長は講演に先立ち、FMうじ パーソナリティ竹田さんの取材を受けたので、同席させてもらった。
講演の内容や、NPOのこと、挙句・・・「母の認知症引戻し」の話も出て、こちらに振られて、慌ててしまった。
竹田さんは、小さな録音機に会話を取り込み、編集して夕方の番組に乗せるとのこと…講演が終るのが3時。それから作業をされて放送される!早業のお仕事だと感心させられた。

・・・あまりの早業で、仲間にも宣伝する時間がなく、誰も聞けないという残念なことになりました! 

講演内容は、
「患者の人権、今と昔」

昔は裕福な家では「座敷牢に閉じ込められる」、農村などでは農機具小屋などに閉じ込める、平安時代にも書物に、長生きして認知症になったであろう人のことが書かれている。

昔も今も、認知症患者の人権は守られていないし、介護者の人権も守られていない。介護者が介護疲れの果てに病人を殺してしまうという、追いつめられる人の人権もない!

他の病気であれば、介護家族が要介護家族を殺すなどという事件は起こらないが、認知症という病気は介護者を追いつめてしまう、という意味で、とても辛い恐ろしい病気だと言うことが出来る。

「昭和50年代の実母の話」

「頭がボーッとするからお医者に連れて行って欲しい、頭を治してほしい」と訴えた。近所の昔からのかかり付け医に、姉妹で両脇から抱えるようにして連れて行った。

医者の質問「お幾つですか?」自分の年齢も忘れたと、慌てるが思い出せない母。 「ご主人は亡くなられて何年ですか?」自分の夫が亡くなったことも忘れ、いよいよ混乱する母。

医者は「家族が優しくしてください。血管が切れたらきてください」と如何にも家族が優しくしていないかのように言い、優しくしなかった自分たちが母を追い込んで病気にしたのだという情けない思い、家族で優しくするとは何だろう、と途方にくれた。

下駄を履いていた時代なので、帰る時に下駄を履こうにも履き方が解らなくなった母。足の指を広げ、下駄の鼻緒を押し込む始末。

どんどん病気は進み、お椀を口にではなく、耳に持って行き傾けかけたのにはビックリしてしまった。何もするすべもなく、家族介護の末、自宅の畳の上で息を引き取った母。

母の願望「頭を治して欲しい」を叶えられなかったことが心に残り、悔しく、いつも気になっていた。

「ボランティア」

家族の会のSOS電話のボランティアをしていた。真夜中のSOS電話…「もう耐えられない、姑に手をかけそうだ」…「お母さんの顔の見えないお部屋で待っていてね」…急いで着替えて、タクシーで駆けつけて、話を聴いておさまったこともあった。その活動中、自分の手に届かない、見えないところの大多数の方たちが気になっていた。

10年ほどボランティアを続けたある日、福祉関連雑誌の創刊準備号に「カーデガンを裏向けに着て、両肩パットがVの字になっている後姿の写真」を見つけた!これは?とむさぼるように読んだ。それは増田末知子さんという看護婦(当時の呼び方)さんがされている「痴呆(当時の呼び方)予防教室合宿型の成果」が書かれていた。

「これだ!」
「これこそが母の望んでいたことだった!」

スリーA=あかるく あたまをつかって あきらめない

三つのあ=A スリーAと呼び、患者本人にも職員・介護者にも通じる心得を示している言葉。

合宿の教室は、散歩以外に、絵画・大正琴・習字ほか教養的なものも多く、月曜日から金曜日まで共同生活をして、土日は家庭に戻り、三ヶ月で卒業という形だった。

この教室が京都にも欲しい!と電話で訴えたが、経歴を聞かれて、貴女では出来ませんとの答えだった。それなら私には何が出来るだろう…と考えて、増田先生の講演会の追っかけをして、その教室の素晴しさの実際面を学び、広報に務めた。

「スリーA合宿型で蘇ったお坊さんの話」

村に一つしかないお寺のお坊さんが認知症になられて、村人は困ってしまった。スリーAの噂を聞いて、お坊さんを「合宿型の教室」に入れてもらった。散歩・教養課程・楽しい脳活性化ゲームなどをして過ごし、その方は卒業の時に「頭の中が青空のようになりました」と書いている。村に帰るとお経をスラスラ唱えられるし、お葬式も立派に執り行なうことができ、本人も村の人も大喜びです!

「折り梅のモデル(忘れても幸せ)」

一人暮らしが出来なくなったお母さんを息子の家に引き取ったが、暴力も振るう手につけられないほどの方で、施設入居を考えたが、藁をも掴む思いでスリーA合宿型予防教室に入られた。
入った当時は「殺すぞ〜」などととても混乱されていたそうですが、散歩・教養課程などで、絵画に変化が出てきた。暗い色から明るい色になり、ご本人もニコニコしてきた。

三ヶ月の卒業時に、増田先生は「色遣いが綺麗なので、是非絵画教室に通ってください」とのアドバイスをされ、絵の教室に通ったところ、展覧会で入選して、個展を開くようになった。その準備中「私の大事な人」という讃入りの肖像画があるので、「それは何方ですか?」「貴女のことですよ〜いつも美味しいものを食べさせてもらっているから、よいしょしているんだ」と嫁姑の間で冗談ぽく言い合うように家庭円満になっていた。

「忘れても幸せ」とお嫁さんが本を出版され、松井久子監督の目に留まり「折り梅」という映画になった。デイサービスの施設長のモデルが、増田末知子さん。

「通所型のスリーA認知症予防教室」

合宿型の教室は、発病した人でも生活改善が出来るのだから、発病前の脳機能低下段階でも出来ないのか?放っておいたら発病しそうな方々を定員13人、通所型で出来ないかと始められた。レベルを揃えて、1週間に一回を20回、30点満点のMMSテストで「22〜27」が2点高くなると、家庭生活が改善される。4点・6点アップする人も出る。

「みんなが優しくなる」

教室やサロンでは、特定高齢者の中で、ちょっと変ねと言う人の傍には座りたくないと距離を置く人も居るが、ちょっと変ねという方が、言葉集めなどで、昔の言葉「なた・なんど・かまど」などを言うと、皆が「ちゃんと覚えている」とその方を見直すようになり、教室でも家庭でも優しく変わってくる。ボランティアも優しくなってくる。

認知症になると相手を傷つけるような言葉を言ったりして、病が人を追い込んでしまう。脳機能が落ちかけの人が、引き上げられて、人柄が良くなり、優しくなり、認められるようになる。

「スリーAの予防教室・ゲーム」

・一般の頭の健康な方
・機能低下段階の方(放っておくと発病する可能性が高い)
・ 発病した方

どのレベルにも有効!

2004年のアルツハイマー病国際会議で、5年間発病を遅らせることが出来れば、世界の認知症患者が半減できる!と内外研究者が発表していた。ポストの数ほど教室を作れば、もっと大きな効果が出るはず!

「スリーAの予防ゲームの特徴」

1:優しさのシャワー
2:脳の活性化ゲーム(脳の機能を何種類も同時に使う)
3:笑うゲームが沢山ある

医療と予防が車の両輪のように整えば、5年間引戻すのも夢ではない。

「ゲーム体験」

・ 優しさのシャワー
・ やり方
・ ものの言い方
・ かかわり方
・ 言葉のかけ方
を注意して覚えてほしい

「尊厳」

施設などでは「希望を叶える」ことと言われるが、
本当の尊厳は「ボーッとしている頭を治してほしい」・・・
本人の切なる願いに応えることだと信じている!

と締めくくられました。

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以上、講演を聴きながらの メモを頼りに書きました。
高林理事長に修正添削してもらい、掲載しています。

「人権の視点からみた認知症」のテーマの講演会、どのような話が出てくるのか とても関心がありましたが、認知症の病気の特徴など、まだ良く知られていないので、「人格が変わった」「変人扱い」「介護者もついつい乱暴な口をきいたり、無視をしたりしている」…これは人権問題・・・きつい言葉や無視は虐待に当たりますから、家庭内での人権問題は 日々発生していると 認知症の母を介護している私は、自分自身を振り返る良い機会だったと感謝しています!

スリーA認知症予防ゲームテキストは、講演に感動して、買い求めてくださった方が多かったです。ありがとうございました!
テキスト詳細
 福井恵子(文責)