22年度第2期「脳いきいき元気アップ教室」を終えて(福知山市)

福知山市 認知症予防の会〜スリーAチャレンジ〜
村岡洋子

京都府福知山市では、平成22年11月2日〜23年2月22日に平成22年度第2期スリーA増田方式認知症予防教室「脳いきいき元気アップ教室」(以下教室と略記する)を実施しました。

 教室は、福知山市中央包括支援センターの事業として平成21年度に福知山市認知症予防の会が協力して開催することが決定しました。

認知症予防の会(以下会と略記する)は福知山市に教室を導入することを目的として21年4月に結成され、7月に「NPO法人認知症予防ネット」のご協力を得て、「ゲームリーダー養成講座」を開設して60名のゲームリーダーボランテイアグループ(愛称スリーAチャレンジ)を養成していました。

教室の主催者は福地山市、会は協力団体として参加し、協働で教室を運営します。

会と市の役割分担

市の役割
①住民への周知・広報(市の「広報ふくちやま」にて、周知・募集)、参加対象者への連絡、教室の会場提供

②教室に関する講師派遣依頼、講師謝礼の支払い(市の依頼した者に限る)

③参加者の健康チェックや緊急事態への対応、参加者の個人情報の保管・管理と記録

④教室参加者(お仲間さん)の変化を評価するためのMMSテストやアンケートの実施

⑤ゲームの道具の保管・管理

⑥教室終了後のお仲間さんへのフォローアップ(訪問指導、関係機関の連絡など)

⑦苦情処理及び事故発生時の実施主体としての責任を負う。

会の役割

①教室で使用する道具の貸し出し(市の倉庫に保管、教室には、市の職員が持ち込む)。

②教室でのリーダーやゲームの補助、参加者への支援(お出迎え・お見送り、受付、所持品の預かり、お菓子代(200円)の集金、お茶の提供、お菓子の準備・茶話会のお茶。お菓子の接待など)。

③会場設営、教室での道具の準備、後かたづけ

④事前・事後カンファレンスに参加

教室の流れ

①12:00 会員による会場設営(第1図)

②事前カンファレンス お仲間さんの情報伝達、教室での役割分担を決める。

 出迎え係、受付:出席チェック、ファイル(健康チェックをしている保健師の所へ持参)など必要物品の手渡し、名札の貼り付け、お菓子代の集金、荷物や上着の預かり、開始までのお仲間さんへの対応(お茶、話しかけ)、ゲームに一緒に入るメンバーを決める、道具準備係、茶話会用のお茶・お菓子の準備・お運びなど

④お見送り(後片付けは送り出してから)
当然のことですが、役割分担は、一応その役割に責任を持って当たる人として決めますが、それに固定するわけではなく、スタッフ総掛かりで何でもこなしていきます。 

⑤道具・食器の後かたづけ、ゴミの始末、教室の復元

⑥事後カンファレンス:お仲間さんの名簿を渡して気付いたことを記録報告(名簿は回収する)、次回のプログラムの決定

注:教室は無料ですが、お菓子代を200円頂いています。もちろんボランテイア達も払います。
市内のお菓子屋さんが自家製のお菓子を毎回届けてくれます。お菓子の下に敷く紙と小さな紙袋がついてきます。お菓子は2個あるので、余ったら持ち帰って頂くためです。
お仲間さんのお一人が、お菓子代200円を集めて頂くのは、余った分を遠慮せずに持って帰れるので嬉しいです。といって下さいました。お菓子代を頂こうかどうしようかと少し迷ったのですが、それで、頂くことに踏ん切りがつきました。

22年度の予防教室の特徴

教室の回数がふえました
今回は16回開けたことです。目標の20回まであと一息です。

・お仲間さんの人数が20人から13人へ 

21年度の第一期「脳いきいき元気アップ教室」ではお仲間さんの募集人数は20人でしたが、今回はきめ細かい対応とコミュニケーションを図るためには、と募集人数を15人に減らしました。

2人が辞退され(ご家族が申し込まれたのですが地域包括の職員が伺ってもご本人が拒否されました)13人になりました。

特に、お仲間さん同士の細やかな心の交流が増え、スタッフもお仲間さんの顔と名前をすぐに覚えることができて教室の空気は回を追う毎に和やかになって一応この人数設定は成功のようでした。

 改めて、増田先生の”13人が最適”と仰っておられたことに思い至りました。

お仲間さんの特徴

市の広報にご自分で応募されたお仲間さんは、欠席の理由が、ボランテイアに行くから、講演会を聴きに行くから、というお元気な方が多くスタッフも最初の頃は??という気持ちもありましたが、何度もお出合いしている内にそれぞれ何らかの事情や悩みを抱いておられることが分かってきました。

もしかしたら、教室は本当の意味での”予防”になっていたのかもしれませんね。

・お仲間さんからの教室への積極的な参画

そのせいもあってか、前回に比べて、お仲間さんからの教室への積極的な参画が増えました。

○いつも素敵な手編みのセーターやカーデイガンを着て来られるAさんに伺うと全てご自分の作品だとのことです。すごーい!と感心した翌週、「もし使って下さる方があったら」と編み方の設計図をいただきました。恥ずかしながら、スタッフの多くは編み物に設計図があることも知らなかったのです。設計図をコピーしたところ何人かがもらって下さり、双方が大喜びしました。

○「言葉集め」で大好きな花は「蝋梅」とお仲間さんの一人が言われたので、「あーこの時期に盛りを迎える珍しい花ですねー。いいにおいがしますよね」と、話題になリました。その翌週、どなたかから、壷一杯の庭の「蝋梅」が届きました。本当にいい香りがして、みんな”幸せ”になりました。

○最終回のお別れパーテイーには、お仲間さんのお一人から「これからも皆さんがまめでいて下さるように」と黒豆ご飯の大きなおにぎりを28個も頂きました。

近隣の各市町から見学のお客様が

今回のもう一つの特徴は近隣の各市町から5回にわたって見学のお客様が来られたことです。

見学は、お仲間さんが教室になじまれてから、ということで、6回目以降と言うことにしています。

「ゲームについては皆さんの方が先輩ですから面倒を見てあげて下さいね」とお仲間さんに紹介してゲームの輪の中に入って頂きました。お仲間さんも最初はちょっと緊張気味だったのですが、回が進むにつれて年長者としてのゆとりと余裕ができてきて、貫禄たっぷりに「ここへお座り」、「こうしたらうまくいくよ」、「間違っても気にせんでもよいんやで」など、優しくお世話を焼いておられ、「優しさのシャワー」さながらの本当にほほえましい雰囲気が醸し出されていました。

長岡京市からのお客様は、涙が出ました、というご感想でした。見学に来られた市町は、綾部市、長岡京市(2回)、舞鶴市、丹波市です。

 嬉しいことに綾部市では、23年度には「認知症予防教室」を開くことが決まりました。運営スタッフの養成講座(7〜8月)および教室の開催について、協力の要請を頂いています。どれだけのことができるか分かりませんが、一生懸命お手伝いをしようと思っています。

最終回のイベント
最終の22日(16回目)に塩見芳朗顧問(お出迎えの時に市役所の玄関前を偶然通りかかられたのをスタッフが教室に拉致してきました。産婦人科のお医者さんで地域包括連絡協議会の会長であり、この教室の誕生に大きなご尽力を頂きました。)と高齢者福祉課の山根課長が見学に来られました。

“お手玉”と”泥鰌さん”の大笑いにびっくりしたり、リーダーさんの巧みな誘導で太鼓の合奏の指揮を引き受けさせられたり、茶話会で、「地域包括支援センターのモットーは、『毎日楽しく生き甲斐を持って』です。今日ここでもう一言”フォーエバー”を付け加えます」とのコメントを頂き、いささかの緊張感と晴れがましさを演出してお仲間さんとスタッフをともに満足させていました。

最終回は昨年と同様、デコレーションケーキを奮発してお別れパーテイーを開きました。デコレーションケーキはお仲間さんが1/6、スタッフは1/8にカットしました。

最後の週だから、とボランテイアがいつもより沢山集まったからです。その上今年はお仲間さんから、前述のように、黒豆ご飯のおにぎりを頂きましたし、市内の緑風苑という病院付属のデイサービスに来ておられる方を対象にした、予防教室のスタッフが、スリーAチャレンジからのボランテイアの応援への感謝の気持ちに、と、素晴らしく美しい折り紙のお皿に可愛い飴を入れて、一人一人に配って下さったのでテーブルの上は満載、賑やかになりました。

スタッフはメッセージカードにそれぞれ思い思いのメッセージを書いてケーキに添えていました。お仲間さんからもメッセージを書いて頂きました。整理ができたら、お仲間さんの承諾を得て、またご紹介します。

夢の旅行顛末記——

今回の教室の最大のトピックスはなんと言っても夢の旅行でした。その中から3題をピックアップします。

①行き先は尖閣諸島。
おみやげの一番目は撮影された衝突の映像の全て。
50時間ぐらいもかかる長いものと言うけれど、全てを持ち帰ってこの教室で見てみたい。ただしいつも見ているテレビ放送の最後にぬっと出てくるおじさんの大きな後頭部は本人もいやだろうから削除してもらいましょう。

2つ目のおみやげは、
昔は日本の領土と言うことで日本人が住んでおられたそうなのでその方を招いて講演会を開きお話を聞きたい。

3つ目のおみやげは?
の問いにはしばらく声無し、の後、島と言うからには海岸もあるだろうし、そこで貝殻を拾ったら—-とおずおず出された提案にみんなが急いで賛成しました。実現したかったですね。

②行き先はアメリカのナイヤガラ。
おみやげの一つに瀑布に架かる虹の橋。
うーんどうして持って帰れるの?と思いきや、次週の茶話会の始まる直前、先週の夢の旅行は—–と話しているちょうどそのとき、朝からの陰気な小雨が止んで曇り空に薄日が射し窓の外にうっすらと淡い虹が—-期せずして起こった歓声と拍手。

ついにナイヤガラから福知山に虹を持ち帰ってしまいました。この教室ってスゴイ!!気紛れな今年の天候がくれた、何よりの優しい贈り物でした。

③11回目の行き先は「宇宙」。
“ばら星雲”というのがあるそうだけどそれを見たい!
何と次週には薔薇星雲に住む友人から、夜空に花開く世にも稀なばら色の美しい「ばら星雲」の写真がとどきました——–
実は村岡のPCのインターネットから写し取った映像でしたが皆さん”きれい!”と一応納得して大事にしまって下さいました。

 全てYさんの発案でした。
“とてつもない無責任な思いつきを本気で 取り上げて頂き嬉しかった”Yさんの最終回の茶話会のコメントでした。ビバ!!

≪Yさんのこと≫

 Yさんはまっすぐ前を見て口元を固く結び、口数の少ない、笑顔のない”孤高の人”でした。何かを話そうとしても短い簡単な答えしか返ってこないので、若い人たちは恐いという感じを持っていました。この教室に来ませんかとYさんを誘って下さった方から、昔は○○をしておられた偉い人やったんやで、と聞いていましたが、茶話会の時に伺うと「いいえ、ちがいます」と決して以前のお仕事のことには触れられません。

 ゲームでは、なかなか変化についてこられないことも多かったのですが、少しずつ楽しんで頂けるようになり、同時に笑顔も増えてきました。笑われるとすごく可愛い晴れやかなお顔になり、あー笑顔って素敵だなとつくづく思わせました。

 茶話会などで1対1で話すととても話題の豊富な方で、最初の2回ぐらいは最年長のスタッフSさん(88歳)と村岡(78歳)が話し相手になっていました。しかし、みるみるうちに皆さんと親しくなられ、花が開いていくのを見るようでした。Sさんとは最後まで、”大親友です”と腕を組んできめ細やかな心の交流がありました。

夢の旅行に対する発言は後半の7回目の頃から、活発に出してこられるようになりましたが、11回目の宇宙旅行の後は、私ばっかりでは厚かましいから、といってみんなの提案を笑って聞いておられました。

この教室をしていて思ったことの一つですが、リズムを始めとした、いくつかの軽いタッチがお仲間さんの文字通り自然な触れ合いの機会を促進しているように見え、お仲間さんは、来たときもお見送りの時も、失敗したときも、極く自然に笑いながら、たがいに軽いタッチを繰り返されるようになられ、それが、ここでしか表せない親密さをますます深めていく原動力になっているようです。

 でもYさんは太鼓の合奏の指揮だけは、絶対にいやです、と最後まで受けて頂けませんでした。お仲間さん全員が一巡して終えられて、少ししつこく薦めたりもしたのですが。最後には、これもYさんのステータスの一つかも、ということで、必ず「していただけます?」の声掛けはしながらも無理強いはしないことにしました。「とうとう最後まで太鼓の指揮はしませんでしたよ!」となんだか嬉しそうに見えたのは、私の欲目でしょうか。

 最後の茶話会の時に、
「認知症の世界に、半歩も一歩も踏み込んで迷っていたのに、おかげで、そこから戻ってくることができました本当に嬉しい」 
といわれて、私達を感動させて頂いたYさんでしたが、後日、地方新聞の投書欄に下記のような投書が掲載されていました。

<掲載新聞の写真を掲載予定>

 また、Yさんは教室の期間中に地方新聞に掲載された、予防
教室の記事をA4の大きさに引き伸ばして丁寧にラミネートして「はい、プレゼント」と私に下さいました。さらに教室終了一月後の同窓会の日には、宇宙行きの夢の旅行の時にインターネットから取り込んでお渡しした薔薇星雲の写真も、きれいなカラーコピーをラミネートしてお仲間さんに渡して下さいました。壁につるして毎日見られるね、とみんな大事に持って帰って頂きました。

Yさん、貴方は本当にユニークで素敵なお仲間さんでした。励まして頂いたのは、私達の方でしたよ。

≪Sさんのこと≫

 もう一人、Sさんは一人っ子のお嬢さんが、長女と同級生の親同士としてお知り合いの方でした。娘達は二人とも本が好きで暇さえあればどちらかの家で、本を読んでいる——おしまいには、相手がいなくてもさっさと部屋に上がり込んで夕方になると「おばちゃんありがとうさよなら」と帰っていくようなおつきあいでした。

お嬢さんは高校の教師になられて、京都住まい、お子さんが2人、Sさんご本人もまだまだしゃっきりとして、何の問題もないように見えました。

 しかし、何度目かの教室の後、
「私、時々穴が空いたようにいくつかの記憶が消えてしまって、いくら思い出そうとしても出て来なくなってしまうのです。それが一つ一つ増えてきて本当に恐くて」
といわれました。

お嬢さんは、結婚されて長い間子供が生まれなかったのに、10年目に続いてお二人のお子様に恵まれました。夫さんのご両親は大喜び、子供ができても教師は辞めたくないと言うお嬢さんのために近くに転居されて、付ききりでお世話をされているそうです。

「これまで、年に数回は実家に来て一緒に旅行にも行っていたのに、ぱったりと足が遠のいて、もう寂しくて寂しくて
——-」。

 そのSさんが14回目の教室の後、
「どうしても出てこなかった記憶を2つも思い出したのですよ。もう本当に嬉しい」
といわれていたといつも一緒に来られる方からお電話で知らせて頂きました。

 これが、教室の効果だと言うほどの都合のよい自信は持てませんが、Sさんの一見贅沢にも見えるけれど本人にもどうしようもない寂しさや記憶が消える淵を覗く恐ろしさ、思い出したときの喜びなどをいくつか共有できたのは、紛れもなく毎週お出合いしてゲームと笑い、お互いの優しさのシャワーを交換する機会を持てたからだと思います。

一ヶ月後同窓会でお会いして本当にまたお出会いできてよかったですね、と痛いほどしっかり手を握って心から喜び合いました。

これが、認知症予防ネット理事長の高林さんが、最近とみに強調されるようになった、一見全く問題ないようにみえる”一般の方の予防”なのだと気付きました。

≪おわりに≫

第2回目の教室を終えて、つくづく思ったことは、増田先生の「お仲間さんの数は13人、教室の回数は1クール20回」という数字の、根拠のある的確さでした。

前回の教室と違うところは、お仲間さんの人数と教室の回数からも来ているのだとつくづく思いました。今度は何が何でも20回やらなくては、と改めてスタッフ一同、決心しています。

そして、スリーAの教室を終えた方同志が、本当にお互いを思いやる”優しさのシャワー”を身に付けられ、交換されて、自分たちが作り出した和やかな雰囲気を楽しまれるようになっておられたことでした。

このことは心身の深い部分で、人への信頼感と生きていくことへの自信に結びつく、一生消え去らないスリーAならではの体験に基づいた特徴であり、何より認知症予防に繋がるのではないでしょうか。

これからのスリーAチャレンジ〜
“ポストの数ほど”の教室実現を願って〜

スリーA増田方式認知症予防教室を立ち上げた時の私達の願いは

①脳活性化訓練のゲームと優しさのシャワーで、認知症の予防・食い止め・引き戻しを実現し、お仲間さんに自信と意欲を取り戻して頂くこと

②地域の市民が認知症のことをきちんと理解して認知症の方を支援し、予防教室をポストの数ほど作って、福知山を「認知症になってもその人らしくいきいきと生きていけるまち」にすることでした。

3年目となる来年度は少しずつでもそれを具現化していく年にしていきたいと思います。

 せっかく沢山育ったボランテイア達が自分たちで教室を開催できるようにその力量を磨いて、各町内で気になる方の手を引いて集まり、ミニ予防教室を始める、さらに、いきいきサロンや老人会にスリーAを取り上げて頂いて教室の数を増やしていきたいと思います。

地域包括支援センターの「脳いきいき元気アップ教室」を頂点として、各グループが、市内のあちらこちらで自分たちの教室を展開していく−そんな町を作っていきたいですね。