スリーA実践報告 〜お手玉とAさんと子供達〜

福知山からの、“幸せ” 今日いただいた寄稿です。

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 私の勤務している、認知症対応型通所介護「グループデイやすらぎ」では、同じ法人内の「やまもも保育園」と1年前から、定期的に同じ御利用者を対象に長期的な世代間交流を図っています。
 御利用者は、可愛い子ども達の姿に癒されておられる反面、子どもたちにとっては始めて訪問したときは、見知らぬお年寄りの訪問に、少し戸惑っているようでした。回数を重ねて、訪問する度に馴染みの関係となっていき、今では、お互いに交流の場を楽しみにしています。

 世代間交流での、相乗効果を考察していくと共に、スリーAを取り入れ、認知症予防ゲームの中から、子どもたちと一緒に楽しめそうな項目を選択し、実践しています。

風船バレーは、子どもたちも、大喜びで参加してくれました。輪になって始めたものの、御利用者は、最初は何とか風船に手が届いていたのですが、子どもたちが風船に夢中になってエキサイティングしてしまい、走りまわりだし、ぶつかり風船が次々に割れていくというハプニングが起き、御利用者も、その子どもたちの姿にただ見とれてしまう状態となってしまいました。体力的な面を考えると、少し難しかったかもしれません。

 次に、今回の交流を通じての事例を1つ紹介させて頂きます。
Aさんという方は、作話を繰り返し、人の話に耳を傾けることなく一方的に話すだけで「人」への関心があまりみられませんでした。重度の御利用者に対しては、必要以上に攻撃的な発言が見られたりと、周囲との関係が築きにくい状態でありました。
しかし、交流を重ねていく度に、Aさんは、交流を心待ちにされるようになり、自分の子育ての経験から、手先を使うことは脳に刺激を与えるので、おじゃみ遊びを通じて子どもたちが賢くなるように・・・という話をよく聞くようになりました。

 Aさんは、和裁が大変得意であり、88歳という高齢にして、自分で針に糸を通し、心を込めて、たくさんのおじゃみを縫ってくださいました。
 出来上がったおじゃみを、手紙を添えて手渡され、遊び歌を歌いながら、子どもたちの前で披露されました。子どもたちは初めて見るであろうおじゃみを、不思議そうにながめ、手にとって見よう見真似でやってみている子もいました。
 その時のAさんの表情は、真剣そのもので、今までに見たことない、優しい眼差しで微笑んでおられました。Aさんは、「人の役にたった」また周囲から褒められた嬉しさから自信と自立心が芽生えられたように感じました。それからというもの、普段も他の御利用者と少しずつ関わりをもたれるようになりました。おじゃみの話題が出るたびに「子どもたちのために役にたちたい」という気持ちと、満面の笑みが出て会話にも花が咲き、時間があれば、少しずつおじゃみを縫っておられました。

 先日の交流では、Aさんの作ったおじゃみを使って、お手玉ゲームをしました。たくさんのお手玉がたまったり、1つもなくなったり・・・と「お金持ちになりましたね〜、人にたくさんあげて優しいですね〜」等と声をかけさせてもらい、盛り上がって楽しむことができました。
 関わりを通じて、Aさんが今まで「人」への関心がみられなかったのは、人一倍、人との関わりを求めていて「寂しい」という思いがあったのかもしれません。それを周囲に悟られまいと作話をすることによって、取り繕ってきたのではないかと考察しました。そして、おじゃみ作りや遊びを通じて、自分の居場所ができ、人生経験を生かし、これから未来ある子どもたちのことを思うと「おばあちゃんの知恵袋」を伝えたかったのかもしれません。
 認知症になると、コミュニケーションが図りにくくなる場面もありますが、子どもたちは「高齢者」としてあるがままの姿で受け入れてくれたからこそ、御利用者にとって、普段見られない笑顔や、何を伝えたいという思いが芽生え、生きがいの1つとなっておられるように感じています。
訪問時に、お互いに出る明るい笑顔や笑い声、触れるぬくもりは、冷えきった心も解けて温まる瞬間であり、「優しさのシャワー」の最大の効果だと感じます。スリーAの真髄は、やはり「優しさのシャワー」にあると思います。

 今後も、世代間交流を続けていくにあたり、1人ひとりが、求められているニーズや役割・能力への気づきを個別のプランに反映させながら、私たち職員は、その可能性を引き出すお手伝いをさせて頂き、「痒いところに手が届く職員」でありたいと、日々研鑽を重ねていくことが目標です。

 認知症対応型通所介護施設 グループデイやすらぎ
 松尾 奈緒美

Aさんの紹介
 報告の中で出てくるAさんという方について、もう少し紹介させていただきます。
 Aさん・・・88歳 介護度1 認知症日常生活自立度Ⅱa
 Aさんは、おじゃみをすると頭がよくなると持論をもっておられます。実際、孫さんも国立大を卒業されています???。・・・が、しかし、家族との関係も息子夫婦と一緒に住んでおられるもののほとんど関わりもなく、孫とも何年も会っておられずといった状況です。

また、保育園交流においては、Aさんにとってひ孫のような存在で可愛くて、また楽しみで本当に生き生きされるようになり、自称「おじゃみのおばあちゃん」と言っておられるぐらいです。今は、おじゃみを縫う布がなくなったので、お掃除に使ってと、雑巾を縫っておられます。

 核家族化が進む中で普段、祖父母と離れて暮らす子ども達にとってもお年寄りとの世代間交流以来、「おじいちゃん・おばあちゃん」と普段出たことのない会話を耳にするようになったと、保育士からも報告を頂いています。また、昔の遊びを知ったり、子どもたちができるようになったことを「見て欲しい」と、よい学びの場として効果がみられているようです。

 この交流がきっかけで、子どもたちが将来、福祉の仕事に興味をもってくれればと願っています。
 (文責 松尾奈緒美)

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 この事例では、グループ・デイのお年寄りのほうから子供達の保育園を訪問しておられる点、普通の交流では、子供達が、ステージで、歌ったり踊ったりするのをお年寄りが見ていると言う状況が多い中で、おとしよりがスリーAのゲームではむしろ一日の長で、指導的な立場を持っておられる点が、異なっていると思います。お手玉を沢山縫って子供達にあげて、それを使ってゲームをする、等と言うことも、異例のことで、お年寄りが、慰められるだけでなく、道具を創ってあげ、ゲームを教えるという、立場に立っておられるのが、素晴らしいです。これこそが、癒し・自信・役に立ったという満足感——優しさのシャワーそのものだと思います。そのことでAさんに起こった変化は、ある意味では当然のこととは言え、貴重な実践的証明だと思います。
 
(文責:村岡洋子)