塩分は高血圧の元凶…自然塩を使った質的減塩

デキる人の健康学】

塩分は高血圧の元凶…自然塩を使った質的減塩

産経新聞 12月4日(水)11時30分配信

白澤教授が監修した新刊「カラダとココロが喜ぶ 塩選び&ごちそう塩レシピ」(写真:産経新聞)

 塩分は高血圧の元凶と言われている。

高血圧による脳出血が死亡原因の第1位だった戦後の日本では、食事で摂取する塩分が死亡原因の大きな要因を占めていた。 

東北地方などの寒い地方では特に漬け物など塩分が多い食品のために、高血圧から脳出血を発症する人が多かったのである。これを理由に日本では減塩運動が始まった。

 様々な降圧剤が開発され臨床現場に登場した時代背景もあったが、日本の食事が塩辛い食事から薄味の食事に次第に移行したことが日本が世界一の長寿国になった直接の理由であると考えられる。

 しかし、この減塩運動には大きな落とし穴もあった。その中で最も大きな盲点であったのが減塩運動が「塩の量」のみに注目して、「塩の質」に関しては無頓着であった点である。 
塩の質を考えるときに塩の原材料が最も重要である。塩を大きく分類すると精製塩と自然塩に分類されるが、自然塩はさらに岩塩や海塩に分類される。

 精製塩と自然塩の大きな違いは塩化ナトリウム以外のミネラル成分が含まれているかどうかである。

自然塩はマグネシウムやカルシウムが豊富に含まれ健康的な塩と考えられるが、精製塩には健康に必要なマグネシウムが欠如している。

 従って減塩運動は本来、減精製塩(減塩化ナトリウム)運動であるべきであったと考えられる。

つまり、精製塩は限りなく塩化ナトリウムに近く、マグネシウムやカルシウムやカリウムといったミネラル成分がほとんど取り除かれているので、精製塩を過剰に摂取すると健康上の問題が発生するのである。

 マグネシウムは我々の体の中の300種類以上の酵素反応に補酵素として働いていて、ほぼすべての生合成反応や代謝反応に必要不可欠のミネラル。

欠乏により高血圧や細胞老化の原因になることが知られている。

 また、脳内の神経伝達物質であるセロトニンの合成にはビタミンBのみならずマグネシウムが必須でマグネシウム不足はうつ病を引き起こす可能性がある。

 一方、カルシウムも不足しがちなミネラル成分で骨や歯の重要な構成成分。

乳製品の摂取が少ない日本人はカルシウムが不足しがちで骨粗鬆症の予防を考えると塩に含まれているカルシウムは重要な摂取源となるだろう。

 さらにナトリウムだけが過剰摂取される精製塩には調理上のデメリットもある。ナトリウムには微生物の増殖を抑える働きがあるので発酵による旨味成分がでにくいという難点だ。

 ちなみに最近、流行している塩麹は麹菌に塩を加えた発酵調味料だが発酵速度を抑えるために塩を加えている。

興味深いことに、平均寿命が男女共に日本一となった長野県は減塩運動に力をいれている県の一つだが、従来の減塩運動には必ずしも成功している訳ではない。

 長野県は味噌の消費量が日本一で塩分の中に占める味噌の割合が大きいのだ。

実際、味噌の摂取は必ずしも高血圧の発症には連動しないことも知られているので、長野ではまさしく質的な減塩運動には成功したとも考えられる。

 この長野モデルを考えると味噌や塩麹や海塩に含有されているミネラル成分のおかげで逆に病気の予防効果も期待される。

実際、調味料として精製塩を塩麹にかえると塩の摂取量を減らすことができる。

塩麹には旨味成分が含まれていているので調味料として使用する量が自然に抑えられ料理には旨味や風味が付加される。

 最近、自然塩をつかったレシピ本『カラダとココロが喜ぶ 塩選び&ごちそう塩レシピ』を日本文芸社から刊行したが、単なる量的減塩ではなく質的減塩、つまり味噌や塩麹や自然塩を上手に使うことにより健康的に塩を摂取する質的な減塩運動を心がけたい。

■白澤卓二(しらさわ・たくじ) 1958年神奈川県生まれ。1982年千葉大学医学部卒業後、呼吸器内科に入局。1990年同大大学院医学研究科博士課程修了、医学博士。東京都老人総合研究所病理部門研究員、同神経生理部門室長、分子老化研究グループリーダー、老化ゲノムバイオマーカー研究チームリーダーを経て2007年より順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座教授。日本テレビ系「世界一受けたい授業」など多数の番組に出演中。著書は「100歳までボケない101の方法」など100冊を超える。グロービア(http://www.glovia.net/)でも連載中。