積極的に推進されるドローン技術実証
同市が取り組むドローン事業は、輸送・計測事業にとどまりません。
同市は「近未来技術体験プログラム」や「SEMBOKUドローンスクール」と銘打ったイベントを開催。2016 年には 7 回の体験プログラム・講習会が実施されました。
これは「ドローンの知識と操縦を学ぶ機会を提供する」という目的で、イベントは市内に限定せずさまざまな企業の協力・支援のもと、市内外から集めた有志により開催されました。
ほかにも、最近全世界で人気沸騰中のモータースポーツ「ドローンレース」を開催しています。
2016 年 7 月の「Drone Impact Challenge ASIA CUP 2016」には、中国、韓国、マレーシアなどアジア 7 カ国、計 50 名のドローンパイロットが参加し、国際レベルのドローンレースが繰り広げられました。無線免許の関係で海外選手がドローンレースに参加するのはそれなりの手間が必要となるところ、「特区」として即日での解決が可能となりました。
会期中、ドローンに高い興味を持って集まった観客に向けて、ドローン入門講座や操縦体験会なども開かれました。
また、「指定ドローン飛行エリア」を田沢湖高原スキー場跡地に設置。交通の便もよく、簡単な申請さえあれば自由にドローンを操縦できる環境を整えています。すでに、操作研修や飛行実験を行う企業などがこのエリアを利用しているとのことです。
仙北市は、ドローンに関する事業を特区事業の中でも「シンボル事業」に掲げながら、単に自治体関係者がドローンを運用するだけではなく、レースを開催したり体験会を開いたりして、実際に「ドローンに触れる」機会を作ることで市民へのドローンの浸透を図っています。
さらに、市外からも有志を集めることでドローンを扱う人材の育成を狙い、それに伴う企業誘致も視野に入れ、事業展開を図っているというわけです。
ビジネス展開だけでなく、教育への取り組みも積極的に推進しています。仙北市内の小学校では、児童を対象としてドローンを用いたロボット・プログラミング学習の授業が実施されています。
同時にタブレットやパソコンを使いながら Scratch や Tickle といったプログラミング言語も学んでいます。前述したドローンによる図書運搬実験も、児童たちの眼前で実験が披露されたことでインパクトを与える結果となったようです。
ドローン以外でも進む、近未来技術実証への取り組み
仙北市の「近未来技術実証特区」としての取り組みはドローンだけにとどまりません。
2016 年 11 月 13 日には「無人運転バス」の実証実験を、内閣府、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)と共同で実施しました。
田沢湖畔の県道 38 号の一部を封鎖し、無人運転バスの自動走行に成功しました。封鎖区間とはいえ、実際の公道を走行した実証実験は国内初の試みとして大きな話題となりました。
この実証実験は、今後の自動車の完全無人運転に向けた技術開発や法整備を進めるうえで重要なものと、高い評価を受けています。
これらの成功を追い風として、仙北市はさらなる近未来技術実証にも取り組む予定だといいます。
中小企業や個人事業主の「モノづくり」の場を提供する「ファブラボ(FabLab)」の設置やそれに伴うゲストハウスの整備を進め、ゆくゆくはドローンにも関わる「ハッカソン」を開催する構想があるとのこと。
ほかにも、同市の持つ観光資源とクラウドを融合したサービスや、IoT や AR を観光に活かした事業展開、ドローンと映像を融合したアートイベントなども計画しているそうです。
注目したいのは、ドローンや無人運転バスといった次世代テクノロジーを使った産業と、自然や観光、温泉といった同市の持つ“地域資産”を活用した産業を連携して特区事業を展開しようとしているところです。
また地域企業の協力に加え、市外企業の新規参入も積極的に受け入れているところも同市における特区事業の特徴でしょう。
これらの有機的な連携が、同市最大のテーマである「地域課題を解決する産業づくり」を進めていくこととなりそうです。
仙北市は近未来テクノロジーを地方創生に活用するモデルケースとなる
仙北市の特区事業への取り組みは、実質的には 2016 年度からスタートしたばかりで「現時点で単純に評価するのは難しい」と小田野氏は冷静に分析しています。
しかしその一方で、ドローンレースや無人運転バスの実証実験といった全国的に仙北市の知名度を上げた実績もあり、強い手応えを感じているのも事実です。
「今後も政府や民間企業とさまざまな連携を図って、特区事業を進めていきたい」と小田野氏は今後の展望を話してくれました。
仙北市同様に人口の減少にストップをかけ、地域産業を再興していきたいと考える自治体は少なくないことでしょう。
そういった自治体にとって、ドローンや無人運転バスをはじめとする「近未来テクノロジー」の活用に取り組む仙北市の姿は、地方創生の先進的なモデルケースとして参考にされていくことでしょう。
日本の各所において問題となっている課題に対し近未来技術での解決を目指す、これらの取り組みに引き続き注目が集まります。
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