なぜ欧州の観光客は日本よりタイを選ぶのか
アトキンソン氏「距離より深刻な問題がある」
デービッド・アトキンソン :小西美術工藝社社長 2016年05月20日
たとえば、自治体の観光PRは、すでにそれなりに観光客がやって来てくれている国に対して行われることが多いのですが、日本へあまり観光客が来ていない国へのPRやマーケティングに力に入れることも考えなくてはいけません。受け身な考え方から、より攻めの考え方へと転換する時期になっているのです。
先日も、熊野古道の話を聞いて驚きました。熊野古道の参詣道は2004年に世界遺産に認定されており、伊勢神宮とともに日本を代表する観光スポットです。しかし、ホームページは、英語・フランス語・中国語・韓国語に対応しているものの、なぜかドイツ語がないのです。ドイツの人口は欧州の先進国の中で最も多いので、本来は対応しなければならないはずです。
「なぜドイツ語に対応しないのですか」と質問したら、「ドイツ人はあまり来ないから」という答えが返ってきました。ドイツからの観光客が少ないならしょうがないと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、案内の言語対応がなされていないから、あまり訪れないと考えることもできます。そこで思うのは、これまでの日本の観光PRは「受け身」の考え方が強いのではないかということです。
では、「受け身」から「攻め」に発想を切り替えるためにはどうすべきか。そこで重要になってくるのが、データです。
これまでいろいろなところで説明させていただいていますが、「観光立国」に必要不可欠なのは「多様性」です。
特定の国から膨大な観光客が訪れるだけでは、それらの国の景気や情勢に観光産業が左右されてしまい、安定的な成長が望めません。つまり、できるかぎりさまざまな国から来ていただくという「国籍の多様性」も極めて重要になってくるのです。
「来日潜在市場」に注目せよ!
4000万人という外国人観光客を迎え入れようと考えたとき、まずはこの世界でいったいどのエリアから多くの観光客が送り出されているかを把握する必要があります。
国連の数字によると、2014年の国際観光客は11億3300万人。そのなかで最も割合が高いのは、実は欧州発の観光客で5億7500万人(約51%)、その次にアジアの2億6790万人(約24%)、南北アメリカの1億8920万人(約17%)と続きます。
ここで、これらのすべてが「日本にやってくる可能性のある観光客」ではないことに注意が必要です。皆さんもそうだと思いますが、観光客はより近い観光地に行く傾向があります。データによりますと、観光客の約8割は地域内観光、要するに近隣諸国を観光する人々です。
各地域の観光客数と地域内観光をする人の比率がわかりましたので、日本にやってくる可能性のある観光客の総数=「来日潜在市場」が計算できます。欧州から地域外へ観光するのは、5億7500万人×20%=約1億1500万人、南北アメリカからは1億8920万人×20%=3784万人。一方、アジアは同じ地域ですので、2億6790万人×80%=2億1432万人。これが、日本の「来日潜在市場」となります。