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観光産業で沸騰中の「DMO」とは? その起源から日本の現状までわかりやすく解説【コラム】
2017年5月25日カテゴリー:DMO・観光局, コラム, ニュース 印刷用ページを表示する
近畿大学経営学部の高橋一夫です。今回から、観光地経営の舵取り役として日本各地に拡がりつつあるDMOを中心としたコラムをトラベルボイスで執筆していきます。この連載は、従来の価値体系を変えていくことを恐れず、新しい価値を創ろうとする行政やDMO、観光協会などのみなさん、旅行会社や宿泊施設など観光関連産業のみなさんに読んでいただければと思っております。
欧米のDMOとの出会いが契機に
さて、私がDMOという言葉を知ったのは、UNWTO(世界観光機関)が2010年に出した“Survey on Destination Governance”(観光地経営の調査)という評価レポートを読んだ2011年のことです。日本では観光地域づくりプラットフォームを中心に、観光圏整備事業を推進している時のことでした。
このレポートに触発された私は、研究テーマとしてDMOを取り上げ、2013年に科研費(科学研究に関わる助成金制度)を通じて欧米のDMOにインタビューする機会を得ました。欧米各所での刺激に満ちた話は、日本の観光振興組織や観光地域づくりプラットフォームと比較するとあまりに大きな違いがあることを知り、大きな驚きとともに果たして日本に移入できるものだろうか、とも感じたのです。
本格的なディスティネーション・マーケティング(観光地マーケティング)を推進し、数値目標を達成することで地域の観光関連事業者との信頼関係を築き、行政の観光政策への提言を行えるなど、観光地経営を担える組織が欧米には存在していました。その後、欧米DMOのインタビューを整理して学会で発表したり、日本観光振興協会のシンポジウムでDMOを取り上げたりするなど、外に向けて発信をしていきました。
政府の目標は「2020年までに世界水準のDMOを100件」
一方で、国がDMOを初めて取り上げたのは、2014年12月27日に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生総合戦略」でした。地方創生の主体の一つにDMOが登場したのです。
その時はまだ政策パッケージの中の脚注に、DMOとは「Destination Management/Marketing Organizationの略。戦略策定、各種調査、マーケティング、商品造成、プロモーション等を一体的に実施する、主に米国・欧州で見られる組織体」であるとして、DMOの機能に言及をする程度のことでした。
次に、国の資料でDMOが大きく取り上げられたのは2015年6月1日の経済財政諮問会議に石破茂大臣(地方創生・国家戦略特別区域担当)が臨時議員として、DMOを紹介した時です。臨時議員となってまで発言をしたのは、地方創生の「新型交付金」は従来の「縦割り事業」を超えた取組を支援するという説明をすることが主だったのですが、その事例にDMOが取り上げられたのでした。
新型交付金の対象にDMOがはいるということが伝わり始め、「DMOとはなんだ」という関心が観光行政関係者を中心に高まっていったのです。新型交付金目当て、という批判は容易いのですが、それほど地方は事業資金に飢えていたともいえるのでしょう。
その後「日本再興戦略2015年改訂(アクションプラン)」には、「日本の観光のトップランナーとしてふさわしい地域の中から世界に通用する観光地域づくりとマーケティングを行う官民一体の観光地経営体(日本版DMO)を選定し、政策資源を集中的に投入する」と、DMOを観光地経営の主体として位置付けることが示されました。
また、「まち・ひと・しごと創生基本方針2015」には、「地域の観光振興を戦略的に推進する専門的な組織として日本版DMOを確立する」こと、「欧米の先進事例も踏まえ、望ましい機能を備えた日本版DMOを早急に育成する」ことが盛り込まれ、欧米型のプロフェッショナルな組織をモデルとして日本版DMOを構築していくことが、地方創生の柱の一つとなってきました。
さらに、「日本再興戦略2016」および「観光立国推進基本計画2017」では、「2020年までに世界水準のDMOを全国で100形成する」と今後の目標が示されました。新型交付金の対象ということもあって、観光庁のDMO候補法人への登録は、この1年で134(2017年3月28日現在)を数えます。これからも登録数は増えていくことが想定されますが、このうちいくつの候補法人が日本版DMOとして認定されていくのでしょう。