『在原業平と伊勢物語』

(%紫点%) 前期講座(文学・文芸コース)(全14回講義)の第5回の講義報告です。
・日時:4月21日(木)pm13時半〜15時半
・場所:すばるホール(3階会議室) (富田林市)
・演題: 「在原業平と伊勢物語」
・講師:桧本 多加三(ひのもと たかぞう)先生 (雑誌「堺泉州」編集長)
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(%エンピツ%) 講義の内容
1.「伊勢物語」
わが国で歌物語としては初めての作品。10世紀後半(平安時代前期)
・120あまりの話からなる短編集。
2.作者は?
・はっきりしていないが説としては、①在原業平自身の作品 ②業平の作品に次男の滋春(しげはる)が書き足す ③業平の作品を歌人・伊勢が加筆 ④紀貫之の作 など。

3.伊勢物語の内容は
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*右の写真は、平安時代頃に能筆家が写した「伊勢物語」です。10世紀に成立以来、それぞれの時代で、書き変え、書き加えが行われて、多くの人々に伊勢物語は読まれてきました。
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①1巻で約125段、約210首の歌。
②在原業平らしき男性の初冠(ういこうぶり)から始まり、辞世を詠むところで終わっている。
③「昔、男ありけり」で始まる段が多く、「二条の后(きさき)との恋」、「伊勢 斎宮(いつきのみや)との恋」、「東下り(あづまくだり)」・・・などが中心。
④「源氏物語」などに影響を与える。

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4.在原業平(ありはらのなりひら)
・在原業平(825年〜880年)…右の系図を参照。
・平城天皇の皇子・阿保(あぼ)親王の子(五男)。兄・行平とともに.「在原姓」を与えられ皇族から臣下に下った。妻は紀有常(きのありつね)の娘。
・古今集の代表的歌人で六歌仙の一人。
・在原業平の和歌(例)
 「世の中に たえて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし」
 「ちはやぶる 神代もきかず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは」
 「君や来し 我は行きけむ 思ほえず 夢かうつつか 寝てかさめてか」
 「五月まつ 花たちばなの 香をかけば 昔の人の 袖の香ぞする」
 「忘れては 夢かとぞ思ふ おもひきや 雪ふみわけて 君を見むとは」

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5.『伊勢物語』の本文から
・(第1段)「昔、をとこ、うひかうぶり(初冠)して、ならの京、かすがのさとに、しるよしして狩りに行けり・・・」 (歌)【みちのくの しのぶ文字摺り 誰ゆゑに 乱れ染めにし 我なら泣くに】 (注)うひかうぶり(.初冠)=元服→ 成人としての出発をこの物語の巻頭に持ってきて、最後に死に臨んでの章となっている。
・(第3段)…「二条の后・・・」(省略)
・(第4段)「昔、ひがしの五条に、おほきさいの宮、おはしましける 西の対(にしのたい)に住む人ありけり・・・」(歌)【月やあらぬ 春や昔の 春ならぬ わが身ひとつは 元の身にして】 (注)おほきさいの宮(大后宮)=仁明天皇の皇后(藤原順子)。
・(第6段)…「いとこの女御・・・」(藤原明子=文徳天皇妃)(省略)
・(第9段)「昔、男ありけり。その男、身をえうなき物に思ひなして、「京にはあらじ。東の方に住むべき国をもとめに」とて、行きけり・・・」(歌)「名にし負はば いざこと問はむ 都鳥 わが思ふ人は ありやなしやと」(注)東下りの段
・(第23段)…「筒井筒(つついづつ)の段」(省略)
・(第69段)「昔、男ありけり。その男、伊勢の国に狩の使ひに行きけるに かの伊勢の斎宮(いつきのみや)なりける人の親「常の使ひよりは この人よくいたわれ」といひやれりければ、親のことなりければ いとねんごろに いたわりけり・・・」(注)伊勢神宮の斎宮:天皇の未婚の皇女が選ばれて皇祖神を祀る伊勢神宮に奉仕した。
桧本講師の説…この章(第69段)により、「伊勢物語」という表題がつけられた。
・(第125段)「昔、男わづらいて、心地しぬべくおぼえければ・・・」(歌)【つひにゆく 道とはかねて 聞きしかど 昨日今日とは 思はざりしを」(辞世の歌)

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*右の写真は、桃山時代に作られた金箔の「伊勢物語」の屏風です。
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*伊勢物語に登場するエピソードは、ほとんどが恋愛物語。元服したての若い恋にはじまって、幼なじみの男女、身分の高い女性との禁断の恋、愛する人を失った悲しみ、秋風が吹き出した頃の微妙な関係など、時代を超えて心の訴えかける恋のドラマが多数おさめられています。
*恋の話だけでなく、四季を愉しむ心(惟喬(これたか)親王と雪月花)や旅の心(東下り)を描いたエピソードも有名です。
*伊勢物語は、「みやび」であり「あわれ」の王朝文学ですが、一方では、当時では、考えられないスキャンダル(ゴシップ)もあり、人々は胸をときめかして詠んだことでしょう。
*また、物語の中に、「歌」が詠まれていることが、より広がりをもたらしています。→桧本講師・・・”松尾芭蕉の「奥の細道」に詠まれている俳句による広がり、また、戦後の映画の中で、高田浩吉や美空ひばりが、ストーリーの中で歌をうたっていることなどにも通じています。