『源氏物語』〜まめ男・夕霧の恋と命を賭けた柏木の恋

(%紫点%) 前期講座(文学・文芸コース:全14回講義)の第13回講義の報告です。
・日時:7月14日(木)午後1時半〜3時半
・場所:すばるホール(3階会議室) (富田林市)
・演題: 「源氏物語」〜夕霧の恋と命をかけた柏木の恋〜
・講師: 奥村 和子先生(詩人・カルチャー講師)
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*源氏物語の概要*
[成立]
・1008年頃、平安時代・藤原摂関時代の後宮が舞台
・一条天皇の中宮彰子(道長の娘)に女房として仕えていた紫式部による長編物語
[概要]
・光源氏(天皇の親王として生まれ、容姿・才能ともにめぐまれながら、臣籍降下して源氏姓となった)の栄華と苦悩の人生およびその子孫らの人生を描いています。
・70年あまりの年次と300人以上の登場人物が描かれています。
・一般的に全編五十四帖を下記の通り、3部にわけます。
−第一部(桐壺〜藤裏葉)(源氏1歳〜39歳)…光源氏の栄華・あまたの女君との恋・至上の幸福
−第二部(若菜上〜幻)(源氏39歳〜52歳)…四十賀を祝う源氏に女三の宮の降家・至上の絶望・不義の子を抱く源氏の憂愁
−第三部(匂宮〜夢浮橋 うち橋姫〜夢浮橋を宇治十帖)(薫14歳〜28歳)…源氏亡き後、源氏の子孫薫・匂宮と宇治の姉妹・大君・中君・浮舟との結ばれない恋・出家する女たち

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(%エンピツ%) 講義の内容
《今日は、プロジェクターを使って、”源氏絵”(12枚)を取り入れた講義でした》
*源氏絵…源氏物語を題材にした絵が鎌倉・室町・江戸時代に装飾的に描かれ、人気がありました。
1.「恋に死す」柏木 (かしわぎ)
*右は江戸時代の源氏絵で人気ナンバーワンです。…「春の桜散る夕べ、かいま見する柏木」…源氏六条院邸で、蹴鞠をする柏木。唐猫(からねこ)の開けた御簾(みす)。几帳から少し奥まったあたりに憧れの人(女三の宮)を見るシーンです。
猫、御簾を引き開け、柏木、女三の宮を見る
「・・・几帳の際(きわ)すこし入りたるほどに、袿姿(うちすがた)(普段着)にて、立ちたまえるあり。・・・」
・憧れの人を見た刹那、激しく恋心を募らせる柏木。
・柏木は太政大臣の嫡男。女三の宮の婿候補に挙がっていたが、朱雀院は女三の宮を源氏に降家させた。(女三の宮は源氏の妻となる)
(源氏39歳〜41歳、女三の宮13歳〜16歳くらい、柏木19歳〜26歳くらい)
六年の後、柏木、三の宮に近付き…自制心を失って…破滅の道へ
・柏木、女三の宮と密通→女三の宮の懐妊と密通の発覚
・女三の宮の出家と柏木の死

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2. 「まめ人」夕霧の恋
幼なじみの恋
・夕霧(源氏と葵の上との子)、雲井雁(くもいのかり)は葵の上の兄大臣の娘で、幼なじみ。 ( 「筒井筒 」(つついづつ) の恋」(伊勢物語)
・夕霧18歳、雲井雁20歳で、結婚。
「まめ人」が迷うて〜結婚して十年の後〜
・夕霧は、ひとりの妻をまもる稀な「まめ人」 →友人・柏木亡き後、夕霧は故柏木の母妻を世話する。
・落葉の宮(故柏木の妻)に、虜になる中年男性夕霧。
*右は、「夕霧と落葉の宮の逢瀬」の場所−”小野の艶なる風物”−を画いています。
(抄訳:日も入り方になって、空の様子もしんみりと霧が立ち籠めて…蜩がしきりに鳴いて…撫子が風になびいている色も美しく見える…水の音がとても涼しく聞こえて……)
「山里のあはれをそふる夕霧に立ち出でん空もなき心地して」 (抄訳:山里の物寂しい気持ちを添える夕霧のために帰って行く気持ちもなれずにおります)

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3.紫式部、源氏物語(第二部)で描きたかったのは?
*男と女の恋
【柏木の恋】⇒「恋(愛)と死」…柏木は女三の宮への積年の思い。自制心を失って破滅の道(柏木の死)。源氏、密通の事情を知るが憂悶する(自分の若き日の藤壺との過ち、故院の思いに馳せてその罪を問う)
【夕霧の恋】⇒当時の男性貴族社会では、”ひとりの妻”というのは「まめ人」と言われ、痴れ様と揶揄されていた。…それが、故柏木の妻に恋の虜となってしまう。それがもとで、家庭争議(夫婦のいざこざ)。
・雲井雁(夕霧の妻) 「まめ人の心変わるは名残なくなむと聞きしは、まことなりけり」 (真面目な人ほど、人が変わるのは本当やった)

「因果応報」 (柏木の過ちと源氏の若き日の過ち)
「人間実相」、「恋の真実」、「これが人間ではないか」
*紫式部は、恋愛体験も豊富であったのではないかと思われます⇔”女からの視点”だけでなく、”男からの視点”からも描いています。