『源氏物語』 〜宇治十帖〜

(%紫点%) 後期講座(文学・文芸コース)の第8回講義の報告です。
日時:11月17日(木)午後1時半〜3時半
場所:すばるホール(3階会議室) (富田林市)
演題:源氏物語の男たち〜宇治十帖の女君たち〜
講師: 奥村 和子先生(詩人:カルチャー講師)
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宇治十帖
・『源氏物語』全五十四帖のうち最後の十帖は、宇治の地を舞台に展開するところから「宇治十帖」と呼ばれています。
・「宇治十帖」→[45橋姫][46椎本][47総角][48早蕨][49宿木][50東屋][51浮舟][52蜻蛉][53手習][54夢浮橋]
宇治…宇治という地は、京都から南都(なんと)へ行く途中、京都の南方にあたり、現在は宇治茶の産地として名高いが、当時の京都の貴族にとって、古くから敗残者の住んだ暗いイメージを持った土地であった。”宇治”は、 ”憂し”土地、つまりわびしい・悲しい・つらい世界であった。
「わが庵は 都の東南(たつみ) しかぞ住む 世をうぢやまと 人はいふなり」(古今集 喜撰法師)
源氏物語の構成(一般的に全編五十四帖を、下記のとおり3部に分けます。)
・第一部 [桐壺〜藤裏葉](誕生〜39歳) 三十三帖…光源氏の栄華・あまたの女君との恋・至上の幸福
・第二部 [若菜上〜幻](39歳〜52歳) 八帖 …四十賀を祝う源氏に女三の宮の降家・至上の絶望・不義の子を抱く源氏の憂鬱
・第三部 [匂宮〜夢浮橋](薫君11歳〜28歳) 十三帖 《「橋姫」以下の十帖を「宇治十帖」という》…源氏亡き後、源氏の子孫−薫君と匂宮と宇治の姉妹・大君・中君・浮舟との結ばれない恋、出家する女たち

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(%エンピツ%) 講義の内容
1.宇治の姫君たちと都の貴公子(登場人物)
【男性】
薫君(かおるぎみ)…宇治十条の主人公。源氏の子(本当は柏木と女三の宮
との間に生れた不倫の子)。出生の暗い宿命を背負って生きる憂愁の性格。
匂宮(におうのみや)…明石中宮の皇子(源氏の孫)。情熱的な色好みで、ライバル薫君に対し、宇治の姫君たちの争奪戦をくりひろげる。
宇治の八の宮…桐壺帝の皇子で、光源氏の異母弟、大君・中の君・浮舟姉妹の父。政争に敗れた後、宇治の山荘に隠棲し、娘たちを育てながら、仏道に精進している。甥にあたる薫君に、仏道を通じて大きな影響を与える。
【女性】宇治の姫君
大君(おおいぎみ)…宇治の八の宮の養女で、薫君の愛を拒絶したまま、美しく汚れなくしんでいった薄幸の女性。(つつましい人柄)(思慮深さ)(気品がある)
中君(なかのきみ)…宇治の八の宮の次女で匂宮の妻。(かわいらしい)(はなやか)
浮舟(うきふね)…宇治の八の宮の三女。東国−宇治−京都ー小野と、浮き船のようにさすらい、薫君と匂宮の二人の男性の愛のはざまで苦しみ、投身自殺(未遂)から出家へと悲劇の人生を歩む「源氏物語」の最後のヒロイン。
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2.(平安貴族)男性に絶望した大君−橋姫・椎木・総角の巻−
「橋姫」 (はしひめ)(四十五帖)…宇治の八の宮は、宇治の山荘で仏道に精進し、俗聖(ぞくひじり)と呼ばれていた。自分の出生への不安から厭世的な薫君は、その人柄に惹かれて宇治に通ううち、美しい二人の姫君を見出します。
「椎木」 (しいがもと)(四十六帖)…宇治の八の宮は、自分の死後は孤児になってしまう娘たち(大君、中君)を薫君に託して死去する。・・・薫君は姉の大君へ恋情を訴え、求婚したが、大君は拒否し続ける。
「総角」 (あげまき)(四十七帖)…大君は妹中君と薫との結婚を願いますが、薫は匂宮と中君を強引に結婚させます。・・・心痛のあまり大君は薫に見取られながら死んでゆく。
大君はなぜ薫との結婚を拒んだのか
・年上の女のせまりくる老いの自覚(薫とは精神的な愛を求めたい。男は肉体的な結びつきを求める)
・二心ある男への絶望
・父・宇治の八の宮の戒め(宇治を離れるな、宮家の面目を汚すな)

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3.浮舟〜ふたつの愛にゆれて〜−早蕨・宿木・東屋・浮舟の巻−
「早蕨」 (さわらび)(第四十八帖)…父に続き姉をも失った中君を慰めようと、山の阿闍梨(あじゃり)は早蕨などを送ります。やがて、匂宮は中君を京へ迎えますが、薫の中君への親密な態度に嫉妬します。
「宿木」 (やどりき)(四十九帖)…故大君をいまだに慕い続ける薫君に同情して、中君は、大君によく似た異母妹浮舟の事を話します。
「東屋」 (あずまや)(五十帖)…少将との婚約を破棄された浮舟は、中君のもとに預けられるが、偶然見つけた匂宮が強引に近づきます。それを知った薫は、浮舟を宇治に隠します。
「浮舟」 (うきふね)(五十一帖)…中君への手紙から、匂宮は浮舟が宇治にいることを知り、闇にまぎれ薫のふりをして浮舟と契る・・・情熱的な匂宮と誠実な薫、二つの愛に苦悩する浮舟はついに入水を決意する。

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4.浮舟〜いかで死なばや〜−夢浮橋−
「夢浮橋」…薫は横川(よかわ)の僧都(そうず)を訪ね、浮舟が生きていて出家したことを確認します。浮船の弟小君(こぎみ)に文をたくしてもかたくなに人違いと拒み浮舟に、誰かが恋人にして隠してでもいるのかと思う薫でした。
・源氏物語のラストシーン込められた紫式部の思い
−浮舟の尼として生きる道を理解できない薫
−女の苦労がわからない男
なぜ浮舟は死を決意したのか
・二人の男に逢っている自責の思い(薫への思い、匂宮の官能的な愛)
・母は薫の迎えを期待しているので、裏切りたくない
・姉の中君は匂宮の妻だから、裏切ることになる

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5.宇治十帖からのメッセージ〜紫式部はなにを描きたかったのか〜
○肉体的な愛と精神的な愛の乖離(瀬戸内寂聴)
○男と女のくいちがい(苦悩の末出家した女と俗情でしか理解できない男)(大野 晋)
○女心の不可知性(男性蔑視の観もある)(丸谷才一)
○ふたりの男の身勝手さ(大和和紀)
⇒紫式部は、平安女性の悩み・苦しみをよく知っていた。また、男の心(遊びこころ)もよく知っていた。
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(%ノート%) 文学・文芸コースの次回講義(案内)
・日時:11月24日(木)午後1時半〜3時半
・演題: 「上方の伝統芸能について」
・講師: 広瀬 依子先生(「上方芸能」編集長)