(%紫点%)後期講座(文学・文芸コース)の第7回講義の報告です。
・日時:11月7日(木)午後1時半〜3時半
・場所:すばるホール(3階会議室) (富田林市)
・演題:芭蕉『奥の細道』の旅空間(二)
・講師:根来 尚子先生(柿衞文庫学芸員)
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**前回(6月20日)(第一回)の復習**
・芭蕉が門人の河合曾良をともなって、みちのくの旅に出たのは、元禄2年(1689)3月27日(陽暦5月16日)のこと。その時、芭蕉46歳、曾良41歳。現在の東京。深川から出発し、東北・北陸を巡り8月20日(10月3日)前後に一応の終着地である岐阜県大垣についています。その間約5ヶ月、全行程約600里(2400km)の旅でした。
・第一回…<江戸・深川から千住—草加(3月27日)>
☆「月日は百代の過客にして、行きかふ年も又旅人也」という有名な書き出しで始まる『おくのほそ道』
☆「行く春や 鳥啼き魚の 目は涙」 〈矢立の初め(旅たちの一句)〉
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○第二回… 〈草加(3月27日)から「室の八島」—「日光」(4月1日)
1.室の八島(むろのやしま)
・草加を出発し、春日部、間々田を経て、「室の八島」に参詣し、そして鹿沼、日光へ。
・右の資料を参照(対訳)−「室の八島に詣でた。同行(どうぎょう)の曾良(そら)が言うには、“この神はコノハナサクヤヒメと言って、富士山の浅間(せんげん)神社と同じ神です。この姫は、たった一夜で懐妊して、夫のニニギノミコトに疑われたので、四方が壁の、出入り口のない部屋をつくり、その中に入り、もし生まれた子がミコトの実の子であれば、火で焼け死ぬことはないと、身の潔白を証明するために、部屋に火をかけた。…以下省略」・・・曾良は、古事記・日本書紀のコノハナサクヤヒメ祭神縁起を解説しています。
◇「むろのやしま(室八島)」…下野国の歌枕。古くから知られ、現在の栃木市惣社町に鎮座する大神(おおみわ)神社。下野国の総社として栄えた栃木県最古の神社であり、境内の池から、つねに清水の水が蒸発して煙のように見えるということから「室の八島の煙」という形でよく詠まれた。…しかし、芭蕉が訪れたときには、すでに水はなく煙もないところであった。
☆「糸遊(いとゆう)に 結びつきたる 煙哉」(芭蕉)(曾良の日記によると、旅のなかで、室の八島の歌を詠んでいるが「おくのほそ道」には収録しなかった。)
◆同行・曾良がはじめて登場…「おくのほそ道」の旅には同行者がいて、門人・河合曾良との二人旅であったことが、文章の上では、室の八島のところではじめて明かされます。曾良は、芭蕉庵の近くに住んでいたこともあって、芭蕉の炊事洗濯などの仕事を助けていた。曾良は、「おくのほそ道」の旅では、コースの下調べ、歌枕などの資料収集、旅費の会計などを担当し、『曾良旅日記』を書き残した。。荷物持ちの役と、秘書としての役もしっかり果たしています。
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2.日光
・右の資料を参照(対訳)−「四月一日、お山に参詣した。その昔この山を二荒山と書いたのを、空海大師が開基されたとき、日光と改められた。千年後の未来を予見されたのか、今このお山の光は一天にかがやいて、その恩沢は八方にあふれ、全ての民が安穏な生活をおくり、おだやかに治まっている。尚、このお山について、なんのかやと書くのは恐れ多いので筆をおいた。」
☆「あらたふと 青葉若葉の 日の光」(芭蕉)
(ああ尊いことよ。この日光山の青葉若葉にかがやく日の光よ。日の光に地名「日光」を詠みこんで、東照宮に対する賛美の句とした。)
◆曾良の日記によると、「あなたふに 木の下暗も 日の光」(芭蕉)と書き留められている。「木の下暗」は初夏四月の季語であるが、暗い感じがともなうのに対し、同じ初夏四月の季語「青葉若葉」は明るい感じがする。初夏の日光山の美しさを目にして改作であろうか。
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***「おくのほそ道」のおもしろさ
○「奥の細道」と「曾良旅日記」を比較すると、芭蕉が決して旅の事実を写したものだけではなくて、文学的なフィクションを多く交えていることがわかります。
(例①)「奥の細道」本文に書かれた日程と「曾良旅日記」の日程の食い違い。
(例②)「奥の細道」に書いてある句と「曾良旅日記」に書いてある「俳諧書留」との違い。…旅中で作られた句と後になって作られた句。後に、改作した句。収録しなかった句。
○根来講師と読む「奥の細道」
・芭蕉のすぐれた作品「奥の細道」は、いろいろな角度から読むことが必要です。また、俳句は世界一短い詩で解釈がなかなか難しい。今回、根来講師の講義は、まだ、二回目ですが、「奥の細道」の見方や読み方を徐々に知ってくると、次回の講義がたのしみです。