坪内逍遥『役の行者』と行者伝説

(%紫点%)後期講座(文学・文芸コース)の第8回講義の報告です。
・日時:11月28日(木)午後1時半〜3時半
・場所:すばるホール(3階会議室) (富田林市)
・演題:坪内逍遥『役の行者』と行者伝説
・講師:浅田 隆先生(奈良大学名誉教授)
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**坪内逍遥「略歴」**
・安政6年(1859)〜昭和10年(1935)。小説家、評論家、戯作家、翻訳家。…明治16年(1882)東京大学卒業。代表作に、明治18年『小説神髄』、『当世書生気質』発表。写実主義を提唱し、小説改良(日本の近代文学の先駆者)。明治26年以降は、評論と演劇改良運動、教育・国語の改革などに尽力。シェークスピアの日本での最初の完訳者(全40巻)でもある。
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○「山岳(信仰)」を題材にした作品を、3回 シリーズで講義
◆第1回(H25年5月):五木寛之『風の王国』 
・[時代]:現代社会 ・[舞台]:二上山、竹内街道、仁徳陵と伊豆
・[内容]:山野を旅する浪民(ケンシ)は、伊豆山中に逃げ、秘密結社・二上講を作る。現代を厳しく批判する重いテーマを背負わせて、激しい戦いを演じさせる。
◆第2回(H25年11月):坪内逍遥『役の行者』 
・[時代]:奈良時代 ・[舞台]大峰山、山上が岳
・[内容]:修験道の開祖、役の行者小角を描いた作品
◇第3回(H26年5月予定):折口信夫『死者の書』
・[時代]:奈良時代(平城京の都の栄える頃)・[舞台]:二上山、当麻寺
・[内容]:大津皇子伝承や中将姫伝説を題材にした作品

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(%エンピツ%)講義の内容
*右の表題は、日本近代文学大系「近代戯曲集」(第49巻)(角川書店、昭和49年発行)より。
1.『役の行者』梗概(あらすじ)
(1)戯曲、三幕六場、大正15年(1926)築地小劇場初演
・舞台…大峰山中、山上が岳、西の覗の谷辺
・時代…文武天皇(697〜707年)の頃
・登場人物…役行者とその母、(韓国連)広足(ひろたり)、前鬼・後鬼、一言主と魔女葛城、村娘エブリとヒヅチ
・役の行者が、さまざまな危機に打ち勝ち、悟りを開く物語。
(2)あらすじ
①役の行者入峰以前と以後
「世に害をなす一言主(ひとことぬし)と魔女(一言主の母)が荒れて、獣類(けだもの)がはびこり、人々は困っていた。大和国大峰の山中に修行する役行者は、人畜に害をなす摩王一言主を大樟(くすのき)の股に呪縛したまま、修行の旅に出た。(役行者の行力で、悪い獣もいなくなり、荒神も鎮まり、住みやすいところになった。)」

②広足(ひろたり)の入門と背信、村娘と広足の交流
「役行者の弟子は、5〜6人いたが、荒行のため辛抱が出来ず、みんな途中で下山。たった一人.の広足(はるばる京都から訪ねてきて弟子入り)は、師の不在中に、禁ぜられていた魔所をのぞいて、一言主の呪いを受け、危うく命を失いかけたのを、村娘に助けられる。」.
③魔王一言主の叫び
「呪縛せられた一言主は、母であり妻である魔女(女怪)の手から、赤子の血を吸わせられ、吠える。」(大峰の密林中に舞台が移って、妖怪どもと一言主の魔神親子の醜怪な魔道ぶりが演じられる。)
④旅から帰ってきた役行者
・広足を破門する。
・魔女の誘惑を大喝一声(“喝!!…邪神めが!)の下にしりぞける。…一言主の母である魔女は、広足を誘惑することに成功し、さらに進んで絶世の美女となって、旅から帰ってきた行者をも堕落させようとするが、行者はどなりつけ、追い払う。
・讒言により朝廷からの討手…役行者の母は、息子に会いに来ていた。母は病気にかかり、九死に一生の有様。討手は、母を人質に召し捕りに来た。

⑤エピローグ(行者の即身成仏) (母の捕縛を見捨て自己の信仰・信念を貫く行者)
*右は、『役の行者』の最終章です。
「もうこれからは、何物も恃(たの)まん。わが信念の外に何物も恃まん。信念は「力」じゃ。「力」は信念じゃ。」…“行者さま、討手は好い人質じゃというてお袋さまを引立てをります。素直に囚人(めしうど)にならなければ、お袋さまをすぐ刺し殺すと言うてをりまする。どうしませうぞい!”…「おのれ五十年の勤行(ごんぎょう)に験(げん)があるなら、・・・金剛蔵王の像(すがた)と現ぜよ。大忿怒(ふんぬ)、大勇猛の像と現ぜよ」
・役行者は、老母の命が危ないのにも心を動かさず、ついに念力と行力によって、見上げるばかりの大岩石を打ち砕いて金剛蔵王の大忿怒の像をのこしたまま、行者の姿は見えなくなる。…ただ、澄みわたる夜空はるかに、動くともなくただよう一片の白雲が見えるのみ。(白雲に乗る行者の姿を暗示する)

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*** あとがき***
*右の写真は、金峯山寺「蔵王権現」(奈良県吉野町にある修験道の本山。本尊は蔵王権現、開基は役小角)(ウィキペディアより)
★役の行者[役小角(えんのおづぬ)]の伝説記載資料
・「続日本紀」(巻一 文武天皇三年(699)の条)−「役小角、伊豆島に流さる。葛木山に住みて、呪術を称(ほ)めらる。外従五位韓国連広足の師なりき。後にその能を害(そこな)ひて、讒づるに妖惑を以てせり。…」(讒言によって伊豆に流された)という記述がある。
・「日本霊異記」(上巻、孔雀王の呪法を修持し、異(け)しき験力を得て、現に仙となりて天に飛ぶ縁 第二十八)−「…伊豆の島に流しき。昼は、命令に従って島にいるが、夜は海上を歩いて富士山へ登って修行している。…仏法の験術広大なること。」