『和歌説話をよむ』

(%紫点%)後期講座(文学・文芸コース)(9月〜1月:全13回)の第13回講義の報告です。
・日時:1月23日(木)午後1時半〜3時半
・場所:すばるホール(3階会議室)(富田林市)
・演題:和歌説話をよむ
・講師:下西 忠先生(高野山大学教授)
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(%エンピツ%)講義の内容
1.和歌説話とは
説話とは、エピソード、逸話である。説話を集めたものを「説話集」という。和歌説話とは、和歌を詠んで、珍しい事実、奇異な事実になって説話化したはなしである。
[説話集]
『宇治拾遺物語』(仏教説話、和歌説話から笑話まで全部で200話ほどで、鎌倉時代成立、編者不詳)、『古今著聞集』(橘成季編、1254年)、『沙石集』(無住著、1283年)
2.和歌とは
『古今和歌集』仮名序(紀貫之)(*右上の資料を参照)
「やまとうた(和歌)は、人間の本性がことばになってあらわれるものだ。この世にあるかぎり、人は情念を歌によむという。すべての生き物の声(花の枝にきて鳴く鶯や水に住んでいる蛙の鳴き声)を聞けば、歌だという。力も入れずに天地を動かしたり、目にみえぬ鬼や神を感じさせたり、男と女のあいだをむつまじくさせたり、荒々しい武人の心をやわらげたりなどするものは、歌である。」
(注)『古今和歌集』…905年成立。勅撰和歌集として最初に編纂。醍醐天皇の勅命、紀貫之ら編纂。

3.和歌説話をよむ(抜粋)
○「藤六の事」…『宇治拾遺物語』巻三の十一(*右の資料を参照)
【要約】
今は昔のこと、藤六(とうろく)という歌よみがいた。身分の低い者の家に、誰もいない折を見すまして上がり込んだ。鍋に煮てあるものをすくって食べていた時に、この家の女主人が水汲みから帰ってきた。見ると、男がすくって食っているので、「なんとまあ、こんな誰もいないところに上がり込んで、煮ているものを召し上がるなんて。やや、あなたは藤六さんでいらっしゃたのですか。それなら歌をおよみなされ」と言った。そこで、《むかしより あみだ仏のちかひにて煮ゆる物をばすくふとぞ知る 》と詠んだのである。
*(歌の意訳)(昔から阿弥陀仏は誓いの通り、地獄の釜で煮られる衆生を救いとるという。だから、私も釜の煮物をかひ掬って食べているのだよ。)
・「誓ひ」に「匙(かひ)」、「救う」に「掬ふ」は掛詞。自分の行為を正当化して歌ったもの。藤六は、かなり顔の売れた歌人だったのだろう。ひょうきんな和歌説話で、おそらくはタダ食いの罪も帳消しになるおかしみ。

○「歌をよみて罪をゆるさるる事」『宇治拾遺物語』巻九の六(*右の資料を参照)
【要約】
今は昔のこと、大隅守であった人が、郡司がだらしなかったので、「召しだして罰しよう」といった。この郡司はたびたび不始末があるので、今度は重く罰しようとして呼び出した。「連れ参りました」と人が言ったので、前々からしていたように、うつぶせにして尻や頭にのっておさえる人、笞を用意して打つ役の人を準備した。ひっぱられて現われたのをみると、頭は黒髪もまじらず、まっ白で年をとっていた。笞打つこともふびんに思われたので、何かにかこつけて許してやろうと思うが、口実にすべきことがない。過ちなど片端から聞くと、ただ年老いていることを口実にして答えている。何とか許してやろうかと思って、「おまえは、歌は詠めるのか」というと、「上手ではありませんが、詠みましょう」と、まもなくふるえる声で詠みあげる。《としをへてかしらの雪はつもれどもしもとみるにぞ見はひえにける》といったので、ひどく感じ入り、心動いて、赦してやった。
*(歌の意訳)〈私は年をとって、頭の雪(白髪)は積もっていますが、しもと(「霜と」と「笞」は掛詞)をみると、身は冷えることです。〉…笞(しもと、ムチ)の恐怖を歌ったもので、辺地の無名人(田舎人)が当意即妙の歌才。彼が罪人で、舞台が訊問の場であったことで意外性は一段と深い。和歌の功徳をたたえている。

**あとがき**
「狂言綺語観」
元来、和歌とか音楽とかは仏道のさまたげになるので、綺語(きぎょ=粉飾を施した言葉。仏教では十悪の一つ。)といった。…しかし、平安時代末期から中世において「和歌即仏道」「和歌即陀羅尼」という和歌観が発生した。つまり、和歌と仏道とは同一であるという融合思想である。それは、歌聖西行、歌僧慈円のみならず、鎌倉時代の洒脱な仏道者無住にもみられる。そもそも和歌は、詠みあげるという音声化によって、神仏は詠唱者の思いを納受する。説話の世界に歌徳説話というものがある。秀歌を詠んだおかげで現世において神仏の加護があったということである。
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(%紫点%)平成25年度「後期講座」(文学・文芸コース)(9月〜1月:全13回講義)は、1月23日で終了しました。
講師の先生並びに受講生・聴講生の皆様に厚くお礼申し上げます。
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