「弘法大師の文芸」

(%緑点%)前期講座(歴史コース)の第6回講義の報告です。
・日時:4月22日(火)am10時〜12時
・会場:すばるホール(3階会議室)(富田林市)
・演題:弘法大師の文芸①
・講師:近藤堯寛先生(高野山櫻池院住職)
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*来年、平成27年(2015年)、高野山は開創1200年を迎えます。この講義は、高野山を開いた弘法大師空海の足跡と思想を学びます。今日は、第1回「弘法大師の文芸①」。空海は密教書だけでなく、文芸にすぐれ、多くの漢詩を作り、文学などをとおして宮中や文壇の人々とも交流。

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(%エンピツ%)講義の内容
○「弘法大師の文芸」 
—【文芸】—(抜粋)
◆「侍坐して集記するに略々(ほぼ)五百以来の紙を得たり」(性霊集序 真済)
(現代語訳)(空海大師の側に座り、師の文章を集めて記録した紙が、およそ五百枚になった)
・『性霊集』(しょうりょうしゅう)…弟子の真済(しんぜい)が編纂した空海の詩文集。空海が書く詩文などは草稿がない。真済は脇から文章を写し取り、五百枚ほどの原稿を『性霊集』十巻にまとめた。

◆「思いもし来らずんば即ちすべからく情を放(ほしいまま)にす 却(かえ)ってこれを寛(ゆるや)かにして境を生ぜしめよ 併して後に境を以てこれを照らすときはすなわち来たれ 来たれば即ち文を作れ もしそれ境思来たらざるときは作る可からず也」(文鏡秘府論南/文筆眼心抄)
(現代語訳)(文章の言葉が浮かばなければ、心をゆったりとさせて感興を待つ。しかる後、対象に注目して文章を作る。もし気分が乗らなければ書くことをやめよ)
・『文鏡秘府論』…唐代詩文の理論を述べた文芸評論で、弟子や友人たちに依頼されて、詩文の作り方を説明した著書(六巻)(46歳頃の著作)。

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—【作詩】—(抜粋)
◆「或るひと曰く 詩は苦思するを要せず 苦思すれば即ち天真を喪うと 此れ甚だ然らず 固より須く慮(おもい)を険中に繹(ぬ)き 奇を象外に採り 飛動の句を状(かたど)り 冥奥の思いを写すべし」(文鏡秘府論/文筆眼心抄)
(現代語訳)(ある人が、詩は苦吟の必要はない。苦吟をすれば自然が失われるからと云う。これは明らかな間違いである。苦しんで熟慮した中から表現を練り、奇抜にして新鮮かつ躍動感ある言葉で、心の奥を描くべきである)
・『文筆眼心抄』(ぶんぴつがんしんしょう)…《文鏡秘府論》を空海みずからが整理要約して初学入門の教科書的なもの(1巻)。文は韻文、筆が散文の意味。

◆「詩人は夜間床頭に明らかに一盞の灯を置け もし睡り来たらば睡りに任せよ 睡り覚ては即ち起きよ 興発して意生まる 精神清爽にして了了明白なり 皆すべからく身を意の中に在くべし」(文鏡秘府論/文筆眼心抄)
現代語訳)(詩人は閃きが大切である。そのために、寝室の枕元に一灯を置き、夜中でも書き留める準備をしておくとよい。眠りが催せば眠ればよい。眠りが覚めればおきればよい。頭が冴え、精神も爽快になり、感覚が鮮明になったところで、全身全霊で記述するとよい。)

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***あとがき***
◆(近藤先生)「弘法大師の原文は漢文。書き下し文で読むことは難しいが、「名文」を、これを機縁に原文も味わってほしい。二度、三度と繰り返して読むとお大師さまの深淵なこころにいたるはずです。」
☆空海[岩波「仏教辞典」第二版より](抜粋)
・宝亀五年(774)〜承和二年(835)。真言宗の開祖。諡号(しごう)弘法大師。俗名(幼名)佐伯真魚(まお)、四国の讃岐国(香川県善通寺市)に生まれ、父は佐伯氏、15歳の時、伯父の阿刀大足(あとのおおたり)について学問にはげみ努力研鑽した。そして18歳になると大学にはいり、雪あかりや蛍の光で読書した古人をめざして、中国の諸学問を学んだ。24歳の時、『三教指帰』(さんごうしいき)を著して、儒教・道教・仏教の優劣を論じたが、これが空海の出家の宣言ともいわれる。文才に優れ、多くの詩文を作り、それらを蒐集したものに『性霊集』がある。『風信帖』(ふうしんじょう)、『聾瞽指帰』(ろうこしいき)などの真筆が現存する(国宝)。
*右上は、近藤堯寛先生の著書『弘法大師を歩く』(宝島社、2013年9月発行)です。