折口信夫『死者の書』

(%紫点%)前期講座(文学・文芸コース)の第8回講義の報告です。
・日時:5月22日(木)午後1時40分〜3時50分
・会場:すばるホール(3階会議室)(富田林市)
・演題:折口信夫『死者の書』
・講師:浅田 隆先生(奈良大学名誉教授)
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**折口信夫(おりくちしのぶ)【略歴】.**
○国文学者、民俗学者、歌人。筆名:釈迢空(しゃくちょうくう)
・1887年(明治20):大阪市生まれ。生薬、雑貨を商う、医を家業。
・1910年(明治43)23歳:国学院大学卒。
・1913年(大正2)26歳:柳田国男が『郷土研究』創刊。柳田国男の知遇を得る。
・1921年(大正10)34歳:国学院大学教授となる。
・1923年(大正12)36歳:慶応義塾大学講師となり、のちに教授として没年まで勤務。
・1938年(昭和13)51歳:小説『死者の書』を執筆。
・1953年(昭和28)66歳:死去。
*右上のスクリーンに は、二上山の雄嶽と雌嶽の峰の間(鞍部)を夕陽が沈んでいく光景が映されています。

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(%エンピツ%) 折口信夫『死者の書』の概説
*中編小説。1939年(昭和14)雑誌『日本評論』に発表。その後改訂して1943年青磁社刊。
○作品の冒頭文 (右の資料を参照)
「彼(か)の人の眠りは、徐(しず)かに覚めて行った。・・・した した した。耳に伝うようにくるのは、水の音か。・・・そうして、なお深い闇。・・・したしたと、岩伝う雫の音。時がたった—、・・・長い眠りだった。けれども亦、浅い夢ばかり見続けていた気がする。・・・ああ耳面刀自(みみものとじ)。」
・死者(モデル=滋賀津彦(大津皇子))の魂が、約50年過ぎて、石棺の中(暗闇の中)でよみがえる場面から始まる。大津皇子は死の刹那に一目だけ見た耳面刀自に慕いつづける(しかし、処刑されてから50年たっているので、耳面刀自はいない)。その激しい思いは藤原南家郎女(いらつめ)に向けられる。
◆古代の信仰…肉体から魂が離れたら死ぬ。魂がもどれば生き返る。

○俤人の出現(右の資料を参照)
・藤原家の一の姫=南家の郎女(いらつめ)(モデル=中将姫)は、父豊成から「称讃浄土仏摂受経」を贈られ、その教典に描かれた極楽浄土の世界を感じ、千部手写を発願する。そして、写経に明け暮れるうちに姫はいつか、春秋の彼岸の中日に二上山の頂近くに貴い人(俤人(おもかげひと))の姿を見るようになる。→しかし、郎女は、ある彼岸の中日、あいにくの雨のため、俤人を望むことができなかった。家をぬけだして二上山の女人禁制の万宝蔵院(当麻寺)の境内に入り、とがめられる。
◇春秋の彼岸の中日には、三輪からみると二上山の二つの峰の間に夕日が沈んでいく。.年二回訪れるその日没を、非常に神秘的な現象だと、古代の人は感じたのであろう。
◆古代の信仰…姫が出奔したのは、姫の肉体から魂がさまよい出たためと考え、肉体から遊離した魂を呼び戻すべく、魂乞いが行われる。

○中将姫の魂を呼び寄せるための「魂乞い」の場面.(資料は省略)
・九人の杖人が「魂乞い」。ところが、この魂乞いによって、二上山頂近くに葬られていた滋賀津彦(大津皇子)の霊も50年の眠りから呼び覚まされる。かつて、彼は処刑の直前、藤原家の耳面刀自に思いを寄せていたが、彼にとって耳面刀自と南家の郎女は同一人と意識され、浄界をけがした咎で物忌みをする姫を訪れる。
◆冒頭の場面が、この魂乞いにより、大津皇子が目覚めた。

○深夜、大津皇子が庵室にこもる中将姫を訪れる場面(資料は省略)
・そうして、姫(郎女)のもとに、大津皇子が訪れ、姫は夜毎に彼を待つようになる。・・・彼の来訪が途絶えてしまった頃、姫は、かの俤人の姿を夢に見る。・・・やがて、二上山の鞍部に現われる荘厳な俤人が肌もあらわで寒そうにしていたのを思い、俤人に着せかける衣を蓮糸で織りはじめる

○曼荼羅完成の場面(右上の資料を参照)
・姫(郎女)は、蓮糸で織った布に、俤人を描いたが、それは阿弥陀仏の姿にも見えた(曼荼羅が描かれれていた)。

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***あとがきi***
*(右の写真)スクリーンには、「当麻曼荼羅」が映されてiいます。
・折口信夫が説く、古代日本人の魂や自然への畏敬、敵味方の隔てなく死者を敬う考え方が織り込まれている。
・作品には、中将姫説話と当麻寺の蓮糸曼荼羅の伝承が.骨格になっている。。
・日本古来の固有信仰と新しく伝来の仏教信仰との習合が太い縦糸となっている。
・説話は、人々を感動させるために、どんどん肥大化していく。(実在であったかどうかが大切ではない。)

◆ひどく難解な小説であることでも有名な折口信夫『死者の書』。古代語もあり、意味不明の呪文のような言葉、理解できない場面等々。よくわからないところは飛ばして読んでも、最後のページまでには、なかなか到達しない。