(%紫点%)H26年前期講座(文学・文芸コース)(3月〜7月:全13回)の第13回講義の報告です。
・日時:7月31日(木)午後1時半〜3時半
・会場:すばるホール(3階会議室)(富田林市)
・演題:御詠歌(巡礼歌)を詠む
・講師:下西 忠先生(高野山大学教授)
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1.御詠歌(巡礼歌)とは何か
・広義では、和歌や和讃(仏・菩薩、教法、先徳などを和語で讃嘆した歌)などに節を付した名称であるが、巡礼(遍路)の立場でいう場合は、五七五七七の和歌、巡(順)礼歌を指す。
・お勤めの最後に謳う和歌で、経文読誦と同じ功徳があるとされる。
・文学という観点では詠まれない(基本的に非文芸)
・いつごろから「御詠歌」といわれているか…真念(真言僧)『四国遍路道指南』[貞享四〈1687〉年。最初の四国遍路・案内記]には、御詠歌という言葉が見えている。
・作者ついて…大半は不詳。また、伝統的な和歌の詠法に通じた人とは思えないのが多い。
2.御詠歌の内容
〇「四国八十ハ所御本尊御詠歌の場合」
①本尊の霊験
②札所の縁起(成り立ち)
③教理
④浄土への願意
⑤その他
・お寺の名前をいれ、札所本尊の功徳や霊験、札所周囲の風景を詠み、ことば遊び(かけことば)を含んでいる。
☆四国 第七番札所 十楽寺 本尊 阿弥陀如来
「人間の 八苦をはやく はなれなば いたらんかたは九品十薬」
・(解説)(ここには「八」「九」「十」の数詞が順序よく配置されているが、考えてみればその前に「七」があることに気づく。札所七番があってこの御詠歌が存在している。)
☆四国 第五十四番札所 延命寺 本尊 不動明王
「くもりなき 鏡の縁と ながむれば 残さず影を うつすものかは」
・(解説)(格調高い歌。和歌の素養がある人が詠んだ歌と思われる)
☆四国 第八十ハ地番札所 大窪寺 本尊 薬師如来
「南無薬師 諸病なかれと 願いつつ 詣れる人は 大窪の寺」
3.御詠歌の特質
〇本堂の前で、声を出して「唱える」ことに意義がある。
・和歌は、その発生したときの「みなもと」は音声であった。
・本尊の御前にて御詠歌を詠唱するという行為は、詠吟によって心の精澄がもようされると同時に、現世的福寿除災を祈願するという意味合いもあろう。また、念仏称名行として来世への安穏を期待する意味合いもあるのではないか。
〇御詠歌はもともと仮名書であった(抜粋)
☆四国十二番 焼山寺
「後の世を 思へば恭敬 焼山寺 死出や三途の 難所ありなば」
(考察)(恭敬は「くぎやう」と読むが、「苦行」の漢字もあてられる。さらに結句の「ありなば」も文法的には「あれば」ではないかと思われる。いずれにしても解釈上の問題が残る詠歌である。)
4.御詠歌の鑑賞
☆四国 第一番札所 霊山寺(りょうぜんじ) 本尊 釈迦如来
「霊山の 釈迦の御前に めぐりきて よろづの罪も きえ失せりけり」
(意訳)(霊山寺の参り、本尊釈迦如来にめぐりあって、多くの罪、煩悩が消えたという喜びを歌い上げている)
*(解説)(霊山寺は聖武天皇の勅願により、行基菩薩が開基した。この歌は、行基の次の和歌を下敷きに作られている。《霊山の 釈迦の御もとに 契りてし 真如朽ちもせず あひ見つるかな(拾遺集)》。…東大寺の大仏開眼供養の導師を勤めた天竺(インド)の婆羅門(ばらもん)僧正を、難波に出迎えた行基は、彼の手をとり落涙して、歓喜のあまりこの和歌の詠んだ。
☆西国 第一番札所 清岸渡寺(せいがんとじ) 本尊 如意輪観世音菩薩
☆「補陀落や 岸打つ浪は み熊野の 那智のお山に ひびく滝つ瀬」
(意訳)(補陀落(ふだらく=観音菩薩の住処)信仰の聖地である那智の滝つ瀬は、ふだらくそのものです)。三(み)熊野の本宮は阿弥陀如来、新宮は薬師如来、那智は観音菩薩。
☆高野山御詠歌
「ありがたや たかのの山の いはかげに 大師はいまだ おはしますなる」(拾玉集・慈円)
(意訳)(めったにないことに高野の御山に、弘法大師はいまだに生きておはします)。慈円(1155〜1225年)の頃、大師入定信仰がすでに流布していた。高野山(たかののやま)。
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*下西先生作の御詠歌
「お遍路や 思ひをここに 置くなりと 納むる杖も 大窪の寺」(下西詠)
(寺名を詠みこみ、五七五七七の各々に「お」の字をいれて詠む)
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(%紫点%)平成26年前期講座(文学・文芸コース)(3月〜7月:全13回)は、7月31日で終了しました。
講師の先生並びに受講生・聴講生の皆様に、厚く御礼申し上げます。
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