夏目漱石と〈京都〉−小説『門』を中心に

(%紫点%)平成27年前期講座(文学・文芸コース)(3月〜7月:全14回)の第1回講義の報告です。
・日時:3月12日(木)午後1時半〜3時半
・会場:すばるホール(3階会議室)(富田林市)
・演題:夏目漱石と〈京都〉−小説『門』を中心に
・講師:瀧本 和成先生(立命館大学文学部教授)
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**夏目漱石**
・1867年〜1916年。小説家。本名・金之助。慶応三年(1867)江戸に生まれる。
・主な作品:『坊ちゃん』(1906)、『草枕』(1906)、『三四郎』(1908)、『それから(1909)、『門』(1910)、『彼岸過迄』(1912)、『行人』(1913)、『こころ』(1914)、『道草』(1915)、『明暗』(未完、1916)など。

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1.漱石と〈京都〉
○「京に着ける夕」(1907年3月)(漱石の旅日記)
・漱石は、≪京は寂しいところである。寒いところである≫と、繰り返してこの言葉を使って、強調している。…東京は、熱き血が、汗を吹いて総身に煮滲みだしはせぬかと感じた。東京は左程に≪烈しい所≫である。…初めて京都に来たのは十五六年の昔で、正岡子規と一緒であった。柊屋(ひいらぎや)に泊り、京都の夜を見物に出たとき、目に映ったのは、赤いぜんざいの大提灯である。子規は死んだ。…(略)。
(注1):漱石は、京都に4回訪れている。小説『門』の舞台は、東京を中心にして、御米(およね)と出会った京都が描かれる。
(注2):正岡子規は、漱石の東京帝大の学友。俳句の手ほどきを受けた子規と京都旅行もした心友であった。

2.小説『門』における〈京都〉(1910年3月)
(あらすじ)
主人公は、宗助と御米(およね)で、仲の好い夫婦。…しかし、淋しい二人が描かれている。社会とあまり関係をもっていない。二人にとって必要なのはお互いだけで、それで充分であった。二人は山の中にいる心を抱いて、都会に住んでいた。
宗助と御米は最初に京都で会った。…安井と宗助は京都大学の同級生。安井の下宿に訪問した時、女の影をちらりと認めた。その後、安井を訪問した時、若い女は自分の前に出てくる気遣はあるまいと信じていた。

安井から御米を紹介、「僕の妹だ」。
・去年の秋はつまらなかったが、この秋は、安井と御米に誘われて茸狩に行き、朗らかな空気のうちに又新しい香りを見出した。…(中略)。山の上から、御米は「京都は好い所」といって顧みた。
・安井が留守のとき、宗助は寂しいでしょうと云って、座敷に上がり込んで、火鉢の両側に手を翳(かざ)しながら、長話をして帰った。ある時、ふと御米が宗助の下宿に遣ってきた。その所まで買い物にでたから、ついでに寄ったんだとかいって、緩くりくつろいだ話をして帰った。
◇安井を捨てて、宗助と御米が愛するにいたるプロセスは空白である。二人が一緒になるとき、犠牲を払った。「…手を携えて何処までも一緒に歩調を共にしなければならないと事を見出した。宗助と御米は親を棄てた。親類を棄てた。一般の社会を棄てた。もしくはそれらから棄てられた。」…宗助の罪悪感は、安井への負い目となっていた。

終章
本当に有難いわね。漸くの事春になって」「うん、然し又ぢき冬になるよ。」
(注):有名なラストシーンで、よく入学試験に出てくるとのこと。
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***あとがき***
・小説『門』は、宗助が、親友安井の妻だった御米と不倫の恋をした、不幸な恋愛のひとつのかたちを主題にしている。
・宗助と御米は結婚して六年になるが、半日も気まずく暮らしたことがないという、仲の好い夫婦であった。彼らは、親族をはじめ、友人や知人との交際を可能な限り遮断し、社会との接触は最小限にして、ふたりだけの世界を守りつづけていた。(背徳によって結ばれた夫婦の浄福と不安を描く)。
・武士社会は滅私奉公。明治の近代化と個人主義−自由と独立と己れとに充ちた現代に生れた我々は、その裏面には人に知れない淋しさも潜んでいる。我は我の行くべき道を勝手に行く、同時に、他人の行くべき道を妨げないのだから、ある時ある場合には人間がバラバラにならなければならない。その所が淋しい。(「私の個人主義」(1914年11月、漱石の講演録)。
・岩波文庫の夏目漱石『門』(1938年第1刷発行、2012年第79刷発行)のカバーには、「門ー横町の奥の崖下にある暗い家で世間に背をむけてひっそりと生きる宗助と御米。「彼らは自業自得で、彼らの未来を塗抹した」が、一度犯した罪はどこまでも追って来る。彼らをおそう「運命の力」が徹底した〈映像=言語〉で描かれる。
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連絡事項
○3月17日(火)23:00〜NHK(Eテレ・2ch)「先人たちの底力 知恵泉」(日野富子・北条政子)に田端泰子先生が出演。