『徒然草』〜心と言葉〜①兼好法師とその時代

(%紫点%)前期講座(文学・文芸コース)(3月〜7月:全14回)の第2回講義の報告です。
・日時:3月19日(木)午後1時半〜3時半
・会場:すばるホール(3階会議室)(富田林市)
・演題:『徒然草』〜心と言葉〜①兼好法師とその時代
・講師:小野 恭靖先生(大阪教育大学教授)
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○今回から5回シリーズで『徒然草』の講義です。第1回は、〈兼好の人となり〉を『徒然草』を読んで探究します。

◇ 『徒然草』略説
・作者、兼好法師[卜部(うらべ)兼好・卜部家は神職の家〉:生没年不詳(1283年頃に生まれ、1352年以降に没)
・『徒然草』は、鎌倉時代末期の元徳二年(1330)から翌年にかけて成立したとされる随筆。序段を含めて244段からなる。兼好の思索や雑感、逸話が記される。兼好は歌人、古典学者でもあったため、内容は多岐にわたる。
・題名「徒然草」は、兼好法師がつけたのではなく、江戸時代初期に「徒然草」の題名がつけられた。

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序段(*右の資料を参照)
(訳)【所作のないまま、ものさびしさにまかせて一日中、硯に向かって心に浮かんでは消えていく、とりとめのないことを、何とはなしに書きつけていると、われながら、妙に感じられるほど、興がわいてきて、気持ちが高ぶってくることよ。】
・有名な徒然草の冒頭文

第二百四十三段(八つになりし年)(*右上の資料を参照)
(訳)【八つのなった年に、父にたずねて「仏とは、どんなものなのでしょう」というと、父がいわく、「仏には人がなったものだ」。またたずねて、「それでは、人はどうして仏になるのですか」とたずねると、父は「仏の教えの導きによってなるのだよ」と答える。また、たずねて、「その教えてくださった仏を、だれが教えなさったのでしょうか」と。父は「それもまた、前の仏の教えによっておなりになるのさ」と。また、たずねて、「その教えを始められた最初の仏は、どんな仏なんでしょう」というと、父は「天から降ったのか、土より湧いたのか」といって、笑う。父は、「子供に問い詰められて、答えられなくなってしまいました」と、人々に話しておもしろがった。】
・徒然草の最終章段で、八歳のころ、「仏はいかなるものか」と詰問した逸話を記している。(兼好は、自分の子供頃の追憶を記している)
・子供が納得ゆくまで、父に根本までの説明を求めた、父親の子供の自慢話(親バカぶり)。

第十一段(神無月のころ)(*右の資料を参照)
(訳)【陰暦十月のころ、栗栖野(くるすの・京都市山科区)というところを過ぎて、ある山里に尋ね入ることがありましたが、はるか向こうまで続いている苔のむした細道を踏み分けていくと、心細い様子で住みなしている庵があった。木の葉に埋もれた懸樋(かけひ/雨どい)の雫(しずく)の音以外には、何一つ音をたてるものはない。閼伽棚(あかだな/仏前に供える花や水を置く棚)に菊や紅葉(もみじ)などが折り散らしてあるのは、住む人がいるからであろう。なんと趣のあるものだなあと感じ入って見ているうちに、むこうの庭に、大きな蜜柑(みかん)の木があり枝もたわわになるほど実っている、そのまわりを厳重に囲ってあったのは、興ざめして、この木がなかったらよかったのにと思われた。】
・中学校の教科書によく出てくる段。
・兼好は、隠遁生活にあこがれていた。前半の景は、兼好の最も好ましく思う境地であるが、現実には容易に望みがたい。
・人間の二面性を表現している段。

第十三段(ひとり灯(ともしび)のもとに)(*右の資料を参照)
(訳)【ただひとり、灯火のもとで書物をひろげて、すでにこの世にいない昔の人を友とするのは、この上もなく、心が慰められる。書物では文選(もんぜん)の感銘深い巻々や、白氏文集、老子や荘子の言葉などがすばらしい。わが国の学者などの書いたものも、昔のには感銘深いことが多いものだ。】
・兼好は、読書感を語っている。書物は心の友。書を読んで、見ぬ世の人を友とした。
・『文選』『白氏文集』は、貴族の教養の書として愛読され、徒然草にも引用されるなど影響がある。

第百十七段(友とするにわろき者)(*右上の資料を参照)
(訳)【友としてふさわしくない者に七つある。一つには身分が高い人、二つには若い人。三つには無病で身体の強い人、四つには酒好きの人、五つには勇猛な武士、六つには嘘をつく人、七つには欲の深い人。 よい友に三つある。一つには物をくれる人、二つには医者、三つには知恵のある人。】
・兼好の友人感。率直大胆な悪友・善友論。悪友は、〈相手の心情を配慮しない〉〈つれづれの境地など理解できない〉。良き友の第一に「物をくるる人」をあげたのは意表を突く表現。よき友の条件からあえて精神的なつながりをのぞいて、「物くるる友」をあげる。
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**あとがき**
・鎌倉幕府の崩壊(1333年)、南北朝動乱という激動の時代に生き抜いた兼好法師。出家遁世した立場から、人間社会を洞察し、日常的な話題から、心理・教養・宗教など学術的な話題に至るまで、その視野は広く深く、指摘や意見は簡潔明瞭で鋭い。
・兼好の多面性。矛盾こそ人間。