「美福門院の納骨と西行」

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(%紫点%)前期講座(文学・文芸コース)(3月〜7月:全13回)の第13回講義の報告です。
・日時:7月30日(木)午後1時半〜3時半
・会場:すばるホール(3階会議室)(富田林市)
・演題:美福門院の納骨と西行
・講師:下西 忠先生(高野山大学教授)
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** 「鳥羽天皇」と「美福門院」 **
・天皇系図(抄):…白川−堀河−鳥羽(74代)−崇徳−近衛ー後白河−二条−六条ー高倉−安徳…
・鳥羽天皇(1103〜1156年)の后妃:皇后−藤原得子(なりこ)(美福門院)、中宮−藤原璋子(しょうし)(待賢門院)→美福門院の子どもは近衛天皇、待賢門院の子どもは崇徳天皇、後白河天皇。
・保元の乱(保元元年1156):崇徳天皇は鳥羽上皇の長子であるが、皇子の出生に不信を持ち、「叔父子(おじこ)」と呼んで愛さなかったという。そのためか、上皇は崇徳天皇を譲位させて、美福門院の子、近衛天皇を即位させた。このような不和から、近衛天皇没後(1155年、わずか17歳)(→後白河天皇の即位)、崇徳院は兵を起こしたが、敗れて讃岐に流された。
** 「西行」 (1118〜1190年)**
・23歳の時、官位(北面の武士)も妻子も捨てて出家。
・[高野山時代](1149〜1178年頃)…約30年間
-鳥羽上皇崩御(1156年)(西行39歳)、美福門院崩御(1160年)(西行43歳)
・[西行の旅]…紀州・東国、中・四国、関東・奥州、伊勢と吉野
・河内の弘川寺で入寂(73歳)

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(%エンピツ%)講義の内容
○鳥羽院の崩御と西行(右の資料を参照)
西行が北面の武士であったころ、.現在京都鳥羽にある城南離宮に安楽寿院の塔が建立された。それは鳥羽院が崩御の後に葬られるためのものであった。(その下見に院の行幸されたとき西行はお供をした。)・・・それから17年後、西行は、たまたま高野山を下って、上京していて、鳥羽院の葬送の列に遭遇した。
◆今宵のご葬送にめぐりあえたのは、今昔の感に堪えないと詠んだ歌
今宵こそ 思ひ知られる 浅からぬ 君に契りの ある身なりけり」(西行)(山家集 782)
(意訳)(たまたま御葬送にめぐりあえた今宵こそ本当に思い知らされたことである。亡き鳥羽院には前世からの浅からぬご縁のある我が身であったのだ。)

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美福門院の信仰と納骨
美福門院は永禄元年(1160)11月23日に亡くなる(44歳)。翌日、鳥羽東殿において火葬された。高野への納骨は女院の遺言でした。
鳥羽院は、最愛の妻と一緒に安楽寿院のお墓に入りたいと望みましたが、女院の遺言により遺骨は、女人禁制にもかかわらず、高野に運ばれ、現在の不動院境内の御陵におさめられた。
美福門院の信仰
女院は、かねてより高野山の兼海上人に帰依していたので、その影響を受けたものと思われる。
納骨に加わった人々
弟の備後守時道(女院の舎利を送って高野まで供奉)、藤原成道(蹴鞠の名人)、藤原隆信(画伯)、そして西行と考えられ、数人という寂しいものでした。(鳥羽院崩御され、美福門院の境遇は栄華から遠ざかり、わびしかった。…納骨の日にも、四十九日にも白い雪が降っていた。)

西行が高野で詠んだ歌
美福門院の納骨に際して西行が高野で詠んだ歌がある。
◆美福門院の御骨、高野の菩提心院へわたさせ給ひけるを見たてまつりて、
けふや君 おほふ五の 雲はれて 心の月を みがきいづらむ」(西行上人集)
(意訳)(今日から、あなたをおおっていた五つの障りの雲が、晴れてさぞかし菩提を得られるだろう)
「五障の雲」とは、女性が持つ五種の障碍を、月の光を覆う雲にたとえていう表現。
「心の月」とは、真如の月(悟りの心境)のこと。
・(注)この西行の歌は、形式的、儀礼的な歌で、西行たるもの、もっと深く心のこもった挽歌を奉るべきであったという批評もある。
・なお、女性は罪深く、男性よりも五障の雲があついいうのは仏教の通念であるが、現在においては、このような表現は女性蔑視として否定しなければならない。
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平成27年前期講座(文学・文芸コース)(3月〜7月:全13回)は、7月30日で終了しました。
講師の先生並びに受講生・聴講生の皆様に、厚く御礼申し上げます。
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