(%紫点%)後期講座(文学・文芸コース)の第13回講義の報告です。
・日時:H28年1月28日(木)午後1時半〜3時40分
・会場:すばるホール(3階会議室)(富田林市)
・演題:高野山と文学
・講師:下西 忠先生(高野山大学教授)
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高野山と文学
高野山や弘法大師空海が文学とどのうようにかかわってきたか。
1.高野山の歴史とその信仰
昨年(2015年)は、弘法大師空海が真言宗の根本道場として高野山を開創して1200年。
・774年:空海、讃岐で誕生。816年:高野山の開創(嵯峨天皇の勅許)。835年:空海、高野山に入定。952年:奥の院の御廟が雷で焼失。以後、焼失と債権を繰り返す。
・1023年:藤原道長が参詣。→以後、天皇・皇族・貴族・武将・大名が参詣し、標高800mの「聖地」。
2.高野山の信仰
・清浄な地に霊魂がかえる山中他界信仰
・空海のそばで眠ることを願う大師信仰(入定信仰)
・高野山を極楽とする浄土信仰
・中世から広まった弥勒信仰


○「高野山と文学」(抜粋)
(1) 『平家物語』巻十 「横笛」(*右の資料を参照)
◆滝口入道と横笛の悲恋物語
「屋島にいる平維盛(これもり・重盛の長男)は、都に残してきた妻子が心配でたまらない。従者を連れて、屋島を抜け出し、船で和歌山に着き、そのまま都へ上りたいと思ったが、叔父重衡が生け捕りにされ、恥辱を受けたことを考えて、高野山に登りました。もと重盛の家臣で、今は出家している滝口時頼(入道)に出会った。時頼は、建礼門院に使える横笛という女房を愛してしまった。ところが、時頼の父が反対。19歳の時に仏道の道を選んで出家し、嵯峨の往生院へ入った。横笛は、入道に一目会いたくてあちこちの坊を尋ね歩き、途方に暮れていた。そのとき、聞き慣れた念誦の声が耳に入ってきた。横笛は声をかけて、もう一度会いたいというが、出てきたのは見知らぬ僧で、「人違いだ」と言われ、横笛は涙を流しながら都に帰って行った。〈時頼は、こころが揺らぐことを恐れ、出て行かなかった。その後、時頼は”一度は何とか退けたが、次は自信がない”と同宿の僧に語ったという〉。そして、時頼は高野山に向かう。高野山は女人禁制、横笛も迫って来ることはできない。」…以下(省略)。


(2) 『沙石集』巻十の七(*右の資料を参照)
◆「悪を縁として発心したること」
都に貧しく暮らしている夫婦がいた。妻は夫に、「こんな貧しい生活は耐え忍ぶことはできません。強盗でも追いはぎでもして私を養ってください。」と言ったので、「人が貧しいのは世の常で、どうしてそのようなことが出来ようか」と言ったが、妻は、「それではお暇(いとま)をください。どんな人であっても頼りにして過ごします。」と言ったとき、さすがに夫は困りました。(だって妻を愛していましたから)…日が暮れ、向こうから女房が女の童を連れて通りかかりました。ちょうど人目もなかったので、走り寄って殺し、二人の着物を剥ぎ取って帰った。血の付いた小袖などを「こういうことをして手に入れた」と言って妻に渡したところ、〈不憫だ。かわいそうだ〉と言うべきなのに、満面笑みを浮かべて嬉しそうでした。…何もかも嫌になって、夫は家を出て頭髪を切り捨て、ある僧房で出家し、その後高野山に向かった。そして、一筋に後世菩提の勤めを怠ることはなかった。せめての償いでした。・・・あるとき、同じような僧と知り合い、話をしていると、「ご発心の因縁を知りたい。何があって、ここで仏道修行しているのですか。私は、都に住んでいましたが、つらく悲しいことがあって、さまよい出て山に登った」。かつて人殺しをした僧は、「妻にそそのかされて思いがけないことをしました。」とありのままを語った。「それはいつのことですか。また女性の小袖はどのような色でしたか。年齢はどれほど」など、こまごまと訊ねられたのをありのままに答えていると、「あなたが殺したという女性は、私が、愛情を深くかけていました。その者に先立たれて、その悲しみのあまりにこのように出家したのです」。…二人とも仏道修行に励んだ。

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**あとがき**
■高野山と文学
・和歌…勅撰集と私家集
・物語…平家物語や雨月物語、西行物語
・説話…沙石集、発心集など
・紀行文…松尾芭蕉
・随筆…徒然草
・その他…近松門左衛門
・近現代文学…与謝野晶子、司馬遼太郎『空海の風景』

○参考資料:『高野文学夜話』下西忠・浜畑圭吾 著(セルバ出版、2015年刊)
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(%紫点%)H27年度「後期講座(文学・文芸史コース)」(9月〜1月:全13回)は、1月28日で終了しました。講師の先生方並びに受講生・聴講生の皆様に厚くお礼申し上げます。