国宝『源氏物語絵巻』を読み解く〜鈴虫(二)を中心として〜

・日時:9月1日(木)午後1時半〜3時半
・会場:すばるホール(富田林市)
・講師:浅尾広良先生(大阪大谷大学教授)
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**国宝『源氏物語絵巻』の復元**
『源氏物語絵巻』は、紫式部が『源氏物語』を書き綴ってから約100年後の平安時代後期(12世紀前半)に制作された現存する最古の絵巻である。「絵」が19面、「詞書」が37面、現存して徳川美術館と五島美術館に所蔵されている。…現存する作品は、色が褪せ、剥落が進み、当時の面影はない。「源氏物語復元プロジェクト}(1999年〜2005年)により、絵巻の復元が完成した。
◇この講義は、H25年3月にスタートして、今回で第8回です。
講義では、『源氏物語』を読み、「絵巻」の現存するものと復元したものとを比較しながら鑑賞します。

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(%エンピツ%)講義の内容
〇鈴虫(二)
右は、現存する『源氏物語絵巻』鈴虫(二)で、銀泥は黒く変色し、衣服の色などは褪せたり、剥落している。

中秋十五夜の遊宴。冷泉院より使いがある。
・(前回のあらすじ)「鈴虫(一)」…「光源氏は、女三の宮に対し、その出家後かえって執着を深めている。八月十五夜の夕暮れ、宮は縁近くに座り念仏を唱えている。宮が眺める庭は、源氏が野原のように造り、虫を放ったもの。そこに、いつものように源氏が訪ねて来る。
・「八月十五夜、中秋の宴があるかと源氏のもとに蛍兵部卿宮(源氏の弟)が見えた。夕霧(源氏の嫡男)や殿上人も一緒であったが、琴の音にひかれてこの御殿に集まってきた。…鈴虫の音を聞きながら管弦の遊びに興じた。」…「冷泉院より便りがあり、源氏たちは月見の宴に招かれる。車で院に向かう。途中、若い貴公子たちは楽を奏する。」
*冷泉院:桐壺帝の皇子。実際には源氏と藤壺中宮の男子。

◆【鈴虫(二)】>源氏、冷泉院へ参上。詩歌の御遊びあり。
・「冷泉院は源氏らを迎え、詩歌管弦の興をつくす。…冷泉院は、若い盛りに譲位され、いまはお気楽なご様子。すっかり貫禄がついて立派になられた院の容貌は、ますます、他人とはお見えにならない。」…「その夜作られた歌の数々は、漢詩も和歌も、趣向が深く、おみごとであった。」

源氏、秋好中宮を訪れ、出家の志を諌める。
・「冷泉院のもとを退出する折、源氏は秋好中宮も見舞った。中宮は、亡き母御息所が今は成仏できずに妄執に苦しんでいるとして、母の苦衷を救うべく自ら出家したい由を漏らした。源氏は同情しながらも出家に反対して追善供養を勧める。」

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〇国宝『源氏物語絵巻』〜鈴虫(二)〜《復元模写》
右の絵巻は、「鈴虫(二)」を復元模写したものです。
・画面は、全体を俯瞰する視点で描かれる。(吹抜屋台の手法を用いた絵)
場所は、冷泉院の邸。左上端を広くあけ、銀の満月が群青の夜空にかかり、斜め下方に裾を掛けた高欄、畳が平行に走り、垂直に太い柱。
・人物は、男ばかり6人が描かれている。画面奥には、冷泉院が座し、源氏と対面している。(この冷泉院の実父が源氏)。画面左下、柱近くに座すのは蛍兵部卿宮(源氏の弟)と解され、縁には横笛を吹く夕霧、その隣は高欄に背を持たせて琴を弾く人、その隣は笙(しょう)を吹いている。

(注)鈴虫(二)の「詞書」では、月をめでて笛や笙を奏するのは車中の情景で、院に参上してからは、院のしみじみとしたご様子を述べるにとどまる。(「絵巻」には、物語に書かれていないことが描かれている。)