能の魅力に迫る−「隅田川」を中心に−

・日時:10月20日(木)午後1時半〜3時半
・会場:すばるホール(富田林市)
・講師:北見真智子先生(大阪音楽大学講師)
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能の講義は、今回で第三回。第1回は、「はじめての能−基礎から学ぶ」。第2回は、能の魅力に迫る−「葵上」を中心に」。
◇**能とは**
・古典題材を取り上げ、幽玄美を第一とする歌舞劇。
・南北朝時代から室町幕府初期にかけて発達、江戸時代中期にほぼ様式の完成を見る。
・構成による分類…「夢幻能」(多くは二場に分かれる。亡霊・神霊など霊体の人物が現れて過去を回想して舞を舞う)。「現在能」(主人公であるシテが現実世界の人物。時間の経過に沿って物語が進行)。
・現在、上演可能な能の数は、約240番ある。(王朝文学、伝統詩歌、戦物語など主題)


面(おもて)
能面は、能の核であり能の演出をつかさどる(舞台を決定づける年齢の差を表す)。
*曲見(しゃくみ)…三十代の既婚女性。母親の役に使用。
*増女(ぞうおんな)…俗世を離れたすきとおるような美しい表情をもつ。天女、女神などに使用。
*小面(こおもて)…十代の清らかな女性。若い女性が主人公となる曲に使用。
*若女(わかおんな)…若い女性が主人公となる曲に使用。江戸時代初期に創作。

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○能『隅田川』あらすじ
「隅田川の渡し守(ワキ)が客を待っていると、わが子を人商人(人買い)にさらわれて心が乱れた女(狂女・シテ)が都から隅田川までやってくる。…同情した渡し守は、彼女の乗船を許可、対岸で行われている大念仏(大勢が大声で唱える念仏)にまつわるいわれを語る。…一年前に人商人につれられてきた子どもが、長旅に疲れ病に倒れ、ここで死んだので、川岸に塚を作り墓標に柳の木を植えた。今日は、その一周忌にあたるので、大念仏を唱えているのだとと説明する。…狂女は、それこそわが子梅若丸に違いないと知って、泣き伏す。渡し守が同情して、女を塚に案内し一緒に念仏を唱えるように勧める。…母はわが子の墓をみて、泣く泣く人々ともに念仏を唱える。すると、塚の中から子どもの念仏の声が聞こえ、亡き子の亡霊が現れるが、駆け寄る母の期待もむなしく、亡霊は消え去る。」
■能『隅田川』
・作者:観世元雅
・時:3月
・登場人物:シテ−梅若丸の母(狂女)、子方−梅若丸、ワキ−渡し守、ワキツレ−旅商人
・場所:隅田川のほとり

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〇あとがき
▲物狂能(ものぐるいのう)(狂女物)
隅田川の母のような女性は、狂女物とよばれ、「桜川」、「班女」など女性を主人公とする一連の作品をいう。
・一般的に物狂いの面白さは、遊狂の心持ちで「おもしろく狂ってみせる」ことにある。最後は、再会して正気に戻りハッピ−エンドで終わる場合が多い。ところが、「隅田川」は、こうした定石を超越えて、子どもは死んでしまっており、声・幻にまみえるだけの、まさに悲劇の結末が待っていた。
▲『申楽談儀』(さるがきだんぎ)
子どもの幽霊を舞台に出すか、母の幻想として舞台に出さないかについて、世阿弥と作者観世元雅の間で論争があったと、世阿弥の伝書『申楽談儀』は伝えている。
・この日の講義で観た「隅田川」は、塚の前で念仏を唱える母の前に、梅若丸の亡霊があらわれ、夜明けとともに消え失せる場面であった。