◇『発心集』の心と言葉①−脱俗の高僧ー
・2020年前期講座(文学・文芸コース)8月6日(木)の講義
・講師:小野恭靖先生(大阪教育大学教授)
〇発心集(ほっしんしゅう)
鎌倉初期の仏教説話集。鴨長明の編著。「方丈記」が書かれた建暦2年(1212)より後に書かれたであろう。「発心」とは悟りを求める心をおこすこと。求道(ぐどう)の念をおこすこと。仏道修行の開始は、この発心にあるといわれ、その第一歩を踏み出す心意気をいう。
・高僧や名僧という評判がたつのを嫌って、突如失踪、渡し守に身をやつしていた玄敏僧都(げんひんそうず)。気違いじみた奇行に及び、狂人との噂を意識的に広めた僧賀上人(ぞうかしょうにん)など。…純粋な宗教家たちの話、あるいは逆に入水(にゅぅすい)往生すると触れ回るものの、投身の直前、現世への未練をおこしたため、往生に失敗した僧など、未練・執着といったものの恐ろしさを述べる話。さらには、和歌や音楽に心を澄まし、俗世を忘れた人々の話などを中心に約100余の話を載せる。
・各話には、比較的に長い鴨長明の感想が付け加えられており、惑いやすい人間の心、乱れやすい人間の心を凝視し、少しでも心の平安を求めようとする作者の意図が感じられる。
●方丈記の冒頭文…「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたる例(ためし)なし。世の中にある、人と栖(すみか)と、またかくのごとし。」
●12世紀の末、平安時代末期、大火災、竜巻、飢饉、大地震といった大きな災害を続けざまに体験した鴨長明(20代の若者)がいました。彼もまた、災害の背後に巨大な「無常」の影を感じました。けれども、他の人々のように.あきらめません.でした。あきらめる.必要はないと判断したのです。天災と言っても、人災の要素が.深くからみ合っているのが実情です。長明の無常観は、どんな苦難にも押しつぶされない強さを秘めている。…今回、小野先生が「発心集」を講義のテーマにとりあげられたのは、未知のコロナウィルスと向き合う目安を探すヒントがあるのかもしれません。