日本三大随筆の世界Ⅲ〜『枕草子』の心と言葉〜

(%紫点%) H25年前期講座(文学・文芸コース)(3月〜7月:全13回講義)の第1回講義の報告です。
・日時:3月7日(木)午後1時30分〜3時40分
・場所:すばるホール(3階会議室) (富田林市)
・演題: 『枕草子』 〜心と言葉〜
・講師:小野 恭靖(おの みつやす)先生(大阪教育大学教授)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(%エンピツ%) 講義の内容
○ 『枕草子』略説
・10世紀末から11世紀初頭に成立した随筆作品
・一条天皇の皇后定子に仕えた女房・清少納言の宮廷生活の回想・見聞録であり、また自然や人生に関する随想などを約300の章段に綴った作品。
・平仮名を中心にした和文で綴られ、豊かな感受性と軽妙な文体で織り成す随筆
————————————————–
*今日の講義で取り上げられた『方丈記』の章段
第一段 「春はあけぼの」 
第七七段 「ありがたきもの」
第一五五段 「うつくしきもの」(=かわいらしいもの)
第一〇六段 「中納言殿まゐらひて」(中宮の弟ぎみ)
第二七八段 「雪のいと高く降りたるを、例ならず御格子まゐらせ」
第一四六段 「故殿などおはしまさで、世の中に事出で来」 (謎解き遊び)
—————————————————
*下記に、抜粋して三つの段を紹介します。

——————————————-
○第一段 春はあけぼの (*右の文章を参照)
・『枕草子』の有名な冒頭の段です。四季の、それぞれの良さを書いています。
・(訳)(“春はあけぼの がすばらしい”。だんだんはっきり見えてゆく山ぎわが、少し赤みを帯び明るくなって、紫がかった雲が細く横になびいている。)
夏は夜”・・・・・・。”秋は夕暮”・・・・・・。 “冬は早朝”・・・・・・。)
◆清少納言の影響⇒日本の美意識の基本となる
[三夕(さんせき)の歌:新古今集で「秋の夕ぐれ」を詠んだ三首の有名な和歌]
☆さびしさは その色としも なかりけり 真木立つ山の 秋の夕ぐれ(寂蓮法師)
☆心なき 身にもあはれは しられけり 鴫(しぎ)立つ沢の 秋の夕ぐれ(西行法師)
☆見わたせば 花ももみぢも なかりけり 浦のとまやの 秋の夕ぐれ(藤原定家)

——————————————-
○第七七段 ありがたきもの(右の文章を参照)
・ありがたきもの=めったにないもの
(訳)(舅(しゅうと)にほめられる婿(むこ)。また、姑(しゅうとめ)にかわいがられる嫁君。毛がよく抜ける銀の毛抜き。主人の悪口を言わない使用人。ほんのちょっとした癖もない人。容貌、心(性質)、ふるまいもすぐれていて、世間で人付き合いしてきて、少しも非難を受けない人。同じ仕事場で働いて、互いに相手に遠慮して気を使っている人が、最後まで本当のところを見せないままというのもめったにない(=いつかは本性をあらわす)。・・・・・・。男も女もお坊さんも、関係が深く親しくしている人で、最後まで仲が良いことはめったにない。)

——————————————
○第二七八段 雪のいと高くふりたるを(*右の文章を参照)
・(訳)(雪が高く降った朝、いつもとちがって御格子(=雨戸)をおろしたままで、火鉢に火をおこして、女房が話などをして集まっていると、中宮様が「清少納言よ、香炉峰の雪はどうであろうね」とおっしゃった。そこで、私は、すぐに雨戸を上げさせて、御簾を高く巻き上げて、中宮様を喜ばせた。[白楽天の有名な詩で、〈遺愛寺の鐘は枕をそばだてて聴く。香炉峰の雪は簾を巻きて看る。〉の詩句通り御簾を巻き上げた]。他の女房達も、その詩句は知っていたが、とっさに行動に移すことなど思いつかなかった。中宮様にお仕えする以上、だれもが清少納言さまのようでなければ、と賞賛した。) 
・清少納言の自慢話(自己顕示欲)の段

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
○あとがき
(1)清少納言(略歴)
・966年頃:生れる
・993年頃:・中宮定子に出仕か?(28歳頃)(定子は18歳)
・1000年:中宮定子が死去。この年、清少納言が宮仕えを辞去
・1001年頃:枕草子が成立か
(2)枕草子について
①書名…草子は、「巻子(かんす)」(巻物形式)に対して綴じた書物をさし、「冊子」「草紙」「双紙」などとも記される。枕については、よくわかっていない。
②写本…清少納言が書いたものは現存していない。能因本系統三巻本系統などの写本がある。いろいろな本文があり、今日の講義は能因本を底本としている。
③内容…約300の章段は、「類聚的章段」・「日記的章段」・「随想的章段」に三つに分けられ、明るい部分だけを書いている。
④「をかし」の文学と「あわれ」の文学(清少納言『枕草子』と紫式部『源氏物語』)
「をかし」の文学・『枕草子』 …おもむきのある。あかるい。おもしろ、おかしい。←招(を)く(心がひかれる、まねきよせるの意)。
「あわれ」の文学・「源氏物語」…悲しみ
(3)日本古典三大随筆
・1001年頃:『枕草子』(清少納言)
・1212年:『方丈記』(鴨長明)
・1310年頃:『徒然草』(兼好法師)