『国宝源氏物語を読み解く』〜蓬生巻を中心として〜

(%紫点%) 前期講座(文学・文芸コース)の第2回講義の報告です。
・日時:3月14日(木)午後1時半〜3時半
・場所:すばるホール(3階会議室) (富田林市)
・演題:国宝源氏物語を読み解くー蓬生巻を中心として−
・講師:浅尾 広良先生(大阪大谷大学教授)
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(%エンピツ%) 講義の内容
1.国宝源氏物語絵巻について
○『源氏物語絵巻』は、紫式部が『源氏物語』を書き綴ってから約百年後の平安時代後期(12世紀前半)に製作された現存する最古の絵巻である。
・1008年頃:源氏物語成立か
1120年頃:源氏物語絵巻の製作依頼←(『長秋記』(源師時(もろとき)の日記)(白河院と中宮璋子(待賢門院)によって企画され、源師時に依頼された)
・1300年頃:源氏物語絵巻、散逸か
○『源氏物語絵巻』の概要
・絵巻は54帖全体について作成されたと考えられ、各帖より1〜3場面を選んで絵画化し、その絵に対応する物語本文を書写した「詞書(ことばかき)」を添え、「詞書」と「絵」を交互に繰り返す形式。
・絵師と能書家がいくつかの組をつくり、共同制作したと思われる。(源師時は全体のコーディネーターであった可能性が高い)
○現存する『源氏物語絵巻』
・名古屋の徳川美術館に絵15面・詞28面、東京都の五島美術館に絵4面・詞9面が所蔵され、それぞれ国宝に指定されている。・・・現在では、色が褪せ、剥落が進み、当時の面影はない

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2.『源氏物語』第15帖「蓬生」
(1) 第6帖「末摘花」 (すえつむはな)
・若き日の光源氏が、頭中将と競い合い、遂に落とした女性が末摘花だった。末摘花は故常陸宮の娘で、高貴だが、あまりにも不器量(鼻が象のように長くてその先が紅花(=末摘花)のように赤い)。
・それでも光源氏は経済的な援助を欠かさなかった。
(2) 第15帖「蓬生」 (よもぎう) (右上の資料を参照してください)
・光源氏が謞居(たっきょ-罰をうけて引きこもっていること)の間、末摘花邸は窮乏し、>荒廃する。→ 末摘花、荒れまさる邸を守る。邸は、“浅茅(あさぢ)は庭の面も見えず、しげき蓬(よもぎ)は軒をあらそいて生ひのぼる。・・・八月、野分荒かりし年、廊どもも倒れ伏し、板葺なりしなどは骨のみわづかに残りて・・・”
→ 叔母、末摘花への報復を企て、侍従を連れ去る。
光源氏、末摘花邸のそばを通りかかる。→“卯月の夕月夜。大きなる松に藤の咲きかかりて、匂ふがなつかしく・・・身し心地する木立かな、この宮なりけり”。→ 惟光、邸内を探り、案内を乞う。→光源氏、惟光に導かれて邸内に入る。→ 惟光、生い茂る蓬の露を払いながら、源氏を案内した。
・末摘花、光源氏と対面、和歌を唱和する。
・光源氏、末摘花を心厚く庇護し、二条東院に迎える。
○右上の『絵本源氏物語』「蓬生」を参照ください。(江戸時代、「絵入り源氏物語」が、数多く出版された)
・「蓬生」の本文にある、「月」・「松」・「藤の花」・「柳」が描かれ、従者の惟光が鞭をもって露を払いながら、光源氏を案内している。…しかし、本文にある「蓬などが生い茂っている庭」、「荒れはてた邸」は、描かれていない。

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3.現存の『源氏物語絵巻』 「蓬生」
*右の写真をご覧ください。
(図は、夜景であることを示すために掃かれた銀泥も現在は黒く変色し、緑青で描かれた蓬も剥落していおり、華麗の面影は残していない。)
○図は、荒廃した邸内のありさまが巧みに描かれている。

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4.復元模写『国宝源氏物語絵巻』
国宝源氏物語絵巻の復元プロジェクト
・平成10年(1998)に、通産省の指定研究で、「『国宝源氏物語絵巻』高精度アーカイブの試作」として、デジタル画像による剥落や褐色部分の再生を行う。さらに、絵巻の実際の製作過程を、林功(はやし いさお)氏(1946−2000年:文化財古典複写の第一人者)に依頼して復元を行い、平成11年から平成17年までに全ての絵巻の復元が完成。

○右上の写真が、国宝源氏物語絵巻「蓬生」の復元模写です。
・左上隅に、松にかかる藤の花。人物が両端に描かれている−[左端:光源氏(従者が傘をさしている)。惟光は、馬の鞭で露を払って先導している。右端には、老女房が半身を見せている]
★復元模写から、図を読むと・・・
①月明かりをメインとした構図→ ”草に降りた露に月明かりが反射した庭”
・古代の夜はかなり暗い。月の明かりは、現在とはかなり違ったイメージであったと思われる。
②雑草がぼうぼうと生い茂る庭のイメージとは違う
③「月」、「末摘花」が描かれていないのは?⇒深読みすると(浅尾先生)…「故常陸宮の魂が、姫君(末摘花)の行く末を案じて、ここに居残っているのでは。それでその魂が私をここに道しるべしたのかも知れない」。(末摘花に対する光る源氏の述懐)