「シャッターチャンス この一瞬」(大阪・伊丹空港)

(写真:頭上を通り過ぎ、着陸する寸前の旅客機・伊丹空港)–>
2011年10月11日
「シャッターチャンス この一瞬」

 朝7時、着陸する飛行機を真下から撮るために、阪急宝塚線・曽根駅から千里川の土手に向かった。改札口で駅員さんに絶好の場所を訊いた。「目の前の道路を西へ徒歩で約25分、具体的な場所は途中で出会う人に訊けばええ。誰でも知ってる」。
 
 地図を片手に住宅街を歩く。目指す土手の地番は、豊中市原田中2丁目。阪神高速道路池田線の高架下を通り過ぎたところで、70歳前後の男性に道を尋ねた。「このまま西へ、そしたら土手に続く道があるから、そこが千里川。飛行機が、頭の真上を飛んでくるところがあるから、その場所や。すぐ分かる」。
 
 土手道を歩いていると、飛行機が機首を下げ、滑走路に向かって突っ込んでいくのが見えた。飛行機は南東の方向からやってくる。さっそく左斜め前から着陸寸前の一機を撮る。しかし、フレームに写った機体は小さくて迫力がない。再び歩き出し、目指す場所に急いだ。

 土手の傍にあるフェンスを隔てて広がるのは大阪・伊丹空港。目の前から向こうの山に向かって、一直線に滑走路が延びる。やがて、着陸寸前の飛行機を真下から見られる絶景スポットに着いた。すでに先客がいた。35歳くらいの男性で、カメラを持っていた。

 お互いに挨拶をした後、その男性に新聞記事の切り抜きを見せた。着陸寸前の飛行機を間近で撮影したいと思うきっかけになった記事である。それに目を通したあと、記事の写真を見て、「目の前にあるこの防護柵は、写真と同じもの、まさしくこの場所。間違いありません」。

 さらに、その男性はいろいろと教えてくれた。到着便の多い時間帯、彼が撮影の狙いとする飛行機の出発地と伊丹到着時刻、その日の天候に合わせて撮影するコツ、などなど・・・。彼は豊中市内に住む。女の子の赤ちゃんが生まれ、これから宝塚の中山寺へ腹帯を返しに行くという。別れ際、参考にと、JALとANAの時刻表を渡してくれた。

 彼が去った後、空港の滑走路に突っ込んでくる飛行機を撮ることにした。時刻は午前9時、着陸の便数も結構多い。大阪空港には二本の滑走路があり、機体の大きさによって使われる滑走路が違う。南東の空にピカッと光る飛行機のライトが見える。慣れてくると、小さい機影ながら、機体のライトの角度で、これは狙いの飛行機、と分かるようになる。

 カメラのフレームを覗きながら、シャッターを押す瞬間を待つ。みるみる機影は大きくなる。車輪まではっきり見え、機体を揺らしながら迫ってくる。この瞬間、と思ってシャッターボタンを押す。しかし、機体の一部が写っていないことが多く、シャッターを押す瞬間が早過ぎたり、遅過ぎたりと失敗が続く。

 飛行機は、物凄いスピードで滑走路めがけて突っ込んでくる。機影を見つけてから頭上を通り過ぎるまで、わずか何秒・・・、とあまりにも短い。「オレを撮れるなら、撮ってみろ」。まるで鉄人28号のような顔をした機体が、凄まじい轟音とともに、頭上を通り抜ける。前方からの撮影で失敗が重なるので、後方から着陸直後の機体を撮ろうとしたが、これもまた失敗。

 なかなか思うようにはいかないものだ。滑走路から誘導路に向かう飛行機が囁いた。「何回も通いなさい。なにしろ私は速いのだから」。もし望遠レンズがあれば、素敵な写真が撮れることも分かった。滑走路に一機、誘導路に二機、あわせて三機が並ぶことがある。滑走路の一機が轟音を残し、機首を持ちあげて離陸する瞬間、そんな写真も撮ってみたいと思った。(了)