『人生のエンディング』(その4) 「人生最後の 高価な買い物」

(写真:豊能町、箕面市、茨木市にまたがる大阪府営の霊園)–>
2012年1月6日
『人生のエンディング』(その4)
「人生最後の 高価な買い物」

 昨年2月に亡くなった母親の納骨と初盆の法事を済ませ、一周忌を迎えるまでの法事が終わった。梅雨入り前の暑い日であった。納骨には寺の住職も奈良の墓地まで同行してくれた。私たちもいずれはこの墓に入ることになる。住職のお経が終わり、墓の前で手を合わせると、ふと不安になることがあった。

 私たちには娘がいるが、二人とも他家に嫁いでいる。そのため、私たちには墓の後継ぎがいない。しかも、こんな田舎まで来てくれるのか。私たちがこの墓に入った後のことは、カミさんや娘たちとはまだ話し合っていない。まだいいかと焦ってはいないが、後継ぎのいない家墓に漠然とした不安がある。

 供えの花もなく、墓石だけが雨に濡れてポツンと建っている。そんな寂しい光景を想像する。奈良の墓を二人の娘に託すのか。それとも、娘たちの住む近くに墓を移すのか。いっそのこと、思い切って永代供養の納骨堂に入ることにするか。いろんな選択はあるが、いずれは決めなければならない。奈良の墓をどうするか、今迷っている。

 墓を移すとなると、新たな墓地を探さねばならない。永代使用料や管理費、そして墓石費用など、高額な買い物となる。一方、これからの老後には不安もある。いつまでも健康とはいかない。高額な治療費を必要とする病気になるかもしれない。年金生活の身としては、そんな不安の多い老後に備えて、なるべくなら出費は抑え、上手に死後のすみかを選びたい。

 そこで、死後のすみかとしての墓選びのポイント、墓を購入する際の注意点、さらに墓の承継者がいない場合の永代供養、そして変わる葬送としての自然葬など、4回にわたって朝日新聞に連載された記事を次に紹介させていただきたい。

(写真:高槻市営の公園墓地・大阪府高槻市安満御所の町)—->
『あなたの安心』
「死後のすみか」(その1)
(2010年11月13日付け朝日新聞より引用)

◆生前に家族と話し準備を
 東京都内に住む自営業の60代女性は最近、新聞や折り込みで墓の広告を見つけると、気が重くなる。夫とは昨年、価値観が合わなくなって離婚した。娘3人は嫁ぎ、今は1人暮らし。できれば実母が眠る寺院墓地の家墓に入りたい。でも、そこにはいずれ兄夫婦が入ることになっている。義理の姉とは仲が良くないから、「一緒に入れて」、と頼みたくない。

 娘たちに墓の相談はしていない。子どもに死んでまで迷惑をかけたくない、という気持ちが強いからだ。「今はまだいいか」と考えないようにしているが、漠然とした不安はぬぐい去れない。「墓についてはどこにも相談ができず、不安を感じている人は多い。いまや社会問題」と話すのは、年中無休で墓や葬儀の電話相談を受け付けているNPO法人ライフデザイン研究所の佐々木悦子副理事長。

 墓の購入にあたり、「生前に墓を建てるのは縁起が悪い」と避ける人も多い。だが実は、生前墓を建てることを「寿(じゅ)陵(りょう)」といい、長寿や子孫繁栄など果報を招くという言い伝えもある。近年は都市部で新たな墓を買い、地方から引っ越す「改葬」も増えている。これには、移転先からの受け入れ証明書や旧墓地のある市町村が発行する改葬証明書をもらうなど、手続きが煩雑なため、早めの準備が必要だ。

 墓探しは最低半年から1年はかけてチラシやネットで情報を集め、気になる墓地は実際に自分の目で確かめたい。佐々木さんは、「墓探しは第二の家探し。お盆や彼岸の時などきっかけを見つけて、お子さんや親族と話し合ってみて」、と呼びかける。
(山田理恵)

(写真:池田市の民営の緑地霊園・大阪府池田市畑)——–>
『あなたの安心』
「死後のすみか」(その2)
(2010年11月14日付け朝日新聞より引用)

◆墓の費用 事前に確認を
 墓は決して安い買い物じゃない。後で悔いが残らないよう、あせらず吟味したい。墓は大きく分けて三つ。寺が管理する寺院墓地、自治体が運営する公営、それ以外の民間墓地だ。公営は安いが応募が多いため倍率が高く、民間は購入しやすいが値段が高めなど、それぞれ長短がある。公営に応募しながら民間や寺院墓地も見るなど、同時並行で探す方がよさそうだ。

 墓の費用は主に、①永代使用料(土地代)②墓石費用(石、加工、施工、柵など)③管理費、からなる。永代使用料を払っても、所有権を得るわけではなく、承継者が管理費を払い続けなければ、その土地を使えなくなってしまう。墓石費用も石質、産出地などによって数十万円から数百万円まで開きがある。

 従来、遺骨の一時的な安置場所だった納骨堂が、都市部では墓の代わりになりつつある。ロッカー式や仏壇式などがあり、墓石の費用がかからない分、割安感はある。ただし、納骨堂の修理や改修が必要になった場合、費用はどうなるのかなど、事前に確認した方がよい。

 霊園墓地の総合サイト、「いいお墓」を運営する鎌倉新書の担当者は、「『すべて込みで100万円以内で』という要望は多いが、立地条件もあるし、実際はもう少しかかる」と話す。広告に、「墓一式〇〇万円」などと書かれていても、何が含まれ、含まれないのかを確認しよう。

 ペットも一緒に埋葬できる墓も登場し始めた。墓石販売会社、「メモリアルアートの大野屋」では、全国5ヵ所の霊園の中に、「Withペット」という専門の区画を設けている。一つの墓に納骨室が二つあり、ペットの遺骨だけ先に収めることもできる。

 5歳の屋内犬を飼う都内の会社員男性(39)は今年9月、Withペットを購入し、両親を納骨した。「犬も家族、とまでの感覚ではないけど、これまでせっかく一緒に生活していたから」。将来は自分たち夫婦も入る予定だ。
(山田理恵)

(写真:京都府亀岡市にある民間の公園墓地)———>
『あなたの安心』
「死後のすみか」(その3)
(2010年11月16日付け朝日新聞より引用)

◆永代供養 管理者見極めて
 子どもなど墓の面倒を見てくれる人がいない場合、永代供養という選択肢もある。管理は寺院や民営霊園、公営墓地がするため、管理費は不要。墓石費用などもかからない。NPO法人・永代供養推進協会(東京)の小原崇裕代表は、「民間や公営は基本的には管理するところ、供養に重きを置くのなら、住職がいるお寺の方がいい」、とアドバイスする。

 埋葬の方法は様々だが、それぞれの遺骨を三十三回忌など一定期間安置し、期間が過ぎるとほかの遺骨と一緒に合葬するタイプと、最初から合葬するタイプが一般的。同協会によると、遺骨を一定期間安置する場合は30〜50万円程度、合葬なら10万円程度が平均的という。半永久的に供養してもらうので、管理者が信頼できるかどうかの見極めが大切だ。

 永代供養の形もニーズに応じて変わってきている。大阪市天王寺区の一心寺は、納められた遺骨10年分をひとまとめにして骨仏(こつぶつ)を造り、納骨堂に安置している。納骨の費用は骨の大きさに応じて1万円〜3万円程度。ここ数年は、地方から改葬して納骨するケースが増えているという。

 独身女性の今と老後を応援するNPO法人・SSSネットワーク(東京)は、東京都府中市内に女性専用の共同墓を建てた。松原惇子代表は、「女性の老後をよくしようと活動していたら、『最期が不安』という声が多かった」。利用料は会員で25万円。

 会員約900人中300人が契約している。理由は独身のほか、「夫と離婚、死別した」、「夫の家の墓に入りたくない」など。年に1回追悼会を開き、歌を歌ったり、ワインを飲んだりして明るく故人を偲ぶという。(山田理恵)

(写真:神戸市の民間墓地・須磨区妙法寺高取山)———>
『あなたの安心』
「死後のすみか」(その4)
(2010年11月17日付け朝日新聞より引用)

◆散骨・樹木葬・・・広がる選択肢
 死んだら自然にかえりたい。そう考えている人は山や海などへの散骨や、遺骨を埋めた場所に木を植える樹木葬を検討してみてはどうか。盛岡市に住む男性(65)は6年前、58歳で亡くなった妻の遺骨の一部を北海道の湖に散骨した。

 生前、ガンに冒され、「思い出づくりに」と二人で旅した場所だった。夕日がきれいで、「ここにまいて」と妻に頼まれた。散骨の骨は形が残らぬよう、自分で粉々に砕いた。「妻の希望が守れて、ホッとした気持ちになった」。2年に一度、湖にお参りしている。

 散骨には法律上の規定はないが、海水浴場や漁場など風評被害が起こりやすいところは避ける気配りが必要だ。自治体によっては条例で禁止しているところもあるので、事前に確認した方がいい。葬送会社、「クレリシステム」(兵庫県尼崎市)は遺骨をパウダー状にし、沖合10キロまで船を出す。家族が乗船できる個人葬は24万5千円(税別)。乗船しない場合はスタッフが代行する(5万円、パウダー作業別)。

 岩手県一関市にある知勝院の千坂嵃(げん)峰(ほう)住職は、99年に日本で初めて樹木葬を行った。春になると山野草が咲く里山に、深さ1メートルの穴を掘り、遺骨をそのまま納めて低木を植える。使用料は50万円。あえて園芸種などは断り、そこの生態に合った植物を植えている。千坂住職は、「単に墓石の代わりに花木を植えるということではない。人間も生態系の中で生きていくという思想が大切です」、と説く。

 様々な選択肢があるが、どの「墓」とも組み合わせができるのが、遺骨の一部を身近で弔う「手元供養」だ。地蔵型のオブジェや遺骨が入るペンダント、骨を加工したプレートやダイヤモンドなど、多くの商品が出ている。NPO手元供養協会の山崎譲二代表は言う。「身近に遺骨を置くことで、個人の供養だけでなく、遺族も心が癒やされているのです」。(山田理恵)