(写真:薩摩半島西岸の吹上浜・日本三大砂丘のひとつ)—>
2012年1月20日
『人生のエンディング』(その6)
「人それぞれのエンディング」
少子高齢化社会では、鬼籍に入る人も急増する。「葬儀はしなくていい」と遺言する人が多くなり、お経や戒名を拒否し、亡くなる前に永代供養の納骨堂に入ることを選択する動きがある。従来型の葬儀・告別式が減る傾向にあり、直葬で済ます比率が全体の約3割に達するという。
直葬とは、病院などで亡くなった後、自宅や葬儀場に寄らず、遺体を直接火葬場に運び込むことを指す。葬儀を遠方で営むため、事前に火葬を済ませておく場合もあるが、葬儀そのものを省略するスタイルが増えている。「子どもに多額な葬式代を負担させたくないから、葬儀はいらない」といった遺言を残す人が増えていることも直葬が選ばれる理由。
臨終から搬送、通夜、葬儀まで、一般的には3日間。何の準備もなければ、動揺の中で近親者や関係者へ連絡し、葬儀社を選び、日程や内容、予算を決めなければならない。このため、「契約と実際の内容が違った」、「金額が見積もりより高かった」、などの苦情が多いことも、葬儀を簡単に済ます動きにつながっている。
こうした葬儀の簡素化について、人の死を悼む気持ちが希薄化しているとも指摘されるが、葬儀の会計が不明朗だとか、内容が画一的だといった従来の葬儀に拒絶反応を示す人が、喪主を務めることが多くなったのも直葬が増える要因となっている。
葬儀は本人を送り、家族の気持ちを癒し、知る人たちが故人をしのぶことが目的。「故人とゆっくりお別れしたい」と、葬儀を家族の私的な儀式と捉える傾向にあり、故人や遺族、友人も高齢化する中、こうした直葬で済ませたり、葬儀そのものを簡素化する傾向はこれからも強まりそうだ。
一方、お墓と言えば、石が3段に積まれ、最上段の長方形の石に家名が刻まれている、そんなイメージを持つ人が多い。主に長男に引き継がれ、代々の遺骨を納める「家墓」と呼ばれる。約9割がこの形式とみられる。家墓の場合、墓を引き継ぎ、管理する役目の承継者が必要となる。故人の指名か、それがなければ地域的な慣習(長男、配偶者など)に従う。
しかし、核家族化や少子化が進み、「子どもがいない」、「一人っ子同士の結婚」などで承継者のなり手がいないというケースが増えている。また、あえて墓を持たない人もいる。「子がいない」、「面倒をかけたくない」という場合には、寺院や民営霊園、公営墓地が管理する「永代供養墓」がある。
管理費は不要。墓石の費用もかからない。「合祀墓」、「合葬墓」もその一種。家族や夫婦で入ったり、親しい人同士や身寄りのない人同士で入ったりと、いろいろな形式がある。民間や公営墓地は基本的には管理するところ。供養に重きを置くのなら、住職がいるお寺の方がいい。
埋葬の方法は様々だが、それぞれの遺骨を三十三回忌など一定期間安置し、期間が過ぎるとほかの遺骨と一緒に合葬するタイプと、最初から合葬するタイプがある。遺骨を一定期間安置する場合、半永久的に供養してもらえるので、管理者が信頼できるかどうかの見極めが大切だ。契約年数が過ぎると、他人の骨とまとめられての供養に切り替わる場合が多い。
ところで、高齢期になると心身ともに衰えてくる。本人はもちろん、周囲も気づかぬうちに認知症が進んで判断力が低下することもあれば、突然病に倒れることもある。いつ何が起こるか、まったく予測がつかない。いざという時に家族が慌てなくてもいいよう、今のうちから準備しておきたい。
先ずは、保険証書や年金証書、健康保険証、預金通帳などの保管場所を伝えておこう。次に、人生の棚卸としての身辺整理。蔵書と衣類、家族のアルバムと整理されていない写真、FM放送の音楽番組から録音した大量のカセットテープ、などなど。思い出は尽きないが、この際思い切って必要でないモノは処分しよう。とにかく身軽になって、シンプルな生活にすることだ。
そして、65歳になる今年を人生の一区切りにして、これからの暮らし方について考えてみたい。今は夫婦二人、平穏無事に暮らしているが、いつかは誰かの支えが必要になってくる。自宅か施設、どちらで介護を受けるのか。口から十分な栄養が摂れなくなった時の延命治療。さらに、私自身の葬儀の仕方と奈良の墓。ともあれ、これからは予期せぬ事態に備えて、今から準備しておきたい。
そこで、自分らしい最期を迎えるために、残された家族が困らないよう、死後の段取りをエンディングノートに残した人、地域社会とのつながりが薄く、生きているうちに火葬後の行き先を決めておきたいと願う人。そんな自分らしい最期を模索する人たちの姿を次に紹介して、シリーズ「人生のエンディング」の最後とさせていただきたい。
(島崎藤村の「椰子の実」で知られる恋路ヶ浜:愛知県・旧渥美町)
『自分らしい最期のため』
(2012年1月10日付け朝日新聞より引用)
がんの宣告を受けた父の日常を、娘が撮影した映画、「エンディングノート」。10月に全国12館でスタートして反響を呼び、公開映画館は上映予定を含め延べ90を超えた。自分らしい最期を模索する主人公の姿が、人々の共感を呼んでいるようだ。
◆「限りある今」強く意識
主人公は、化学メーカーの熱血営業マンだった砂田知昭さん。専務まで務めて引退し、2年後に胃がんの宣告を受けた。告知の半年後に死去。69歳だった。仕事一筋のニッポンのサラリーマン。監督をつとめた次女麻美さん(33)は、そんな父の最期をビデオカメラに収めた。子どもの頃から折に触れ、家族の日常を撮り続けてきた。病気の父にカメラを向けたのは、その延長線上だった。
映像は、平坦ではなかった家族の歴史をも映し出す。だが引退後、知昭さんが転勤で空き家になった長男の家で過ごすようになり、週末に妻と落ち合う暮らしを始めると、夫婦の間に穏やかな時間が生まれた。これからまた2人の時間が楽しめる、と思った矢先の告知だった。
「段取り命」だった知昭さんは、残された家族が困らないよう自分の最期も段取った。葬儀を知らせる友人・知人のリストを作成、死去の伝え方や、銀行の口座番号を、「エンディングノート」に残した。麻美さんら3人の子には、「ママをよろしく」とつづった。
ある日の食卓で知昭さんは、「エンディングノートを書いてるんだ」と家族に告げた。麻美さんはそのとき初めて、「父が亡くなった後も日常は続いていくんだ」と実感した。「父にとっては、死後のことまで段取ることが、生きる力になっていた。家族にとっては、父の死後の生活を生前から考えるきっかけになりました」。
一方で麻美さんは、「エンディングノートというタイトルにしましたが、準備できないことの方がたくさんあるし、後悔なく人と別れることなんてできない」とも話す。「私自身、決して弱音を吐かなかった父に、もっと吐き出させてあげたらよかったと思っています」。
がん告知によって麻美さんは、「この暮らしには限りがある」と自覚した。同時に、自身にもいつか死が訪れると強く意識した。「急に家族に優しくしたりはできないかもしれない。でも、今は永遠じゃない、と気に留めて過ごすだけでも、十分なのだと思います」。(佐々波幸子)
◆親から伝え 早めに備え
高齢期の心身の変化は人それぞれ。急に持病が悪化して倒れることもあれば、認知症で徐々に判断力が低下することもある。予測がつかないので、早めの備えが欠かせない。「いざという時にどうしてほしいか、子どもからは尋ねにくいもの。できるだけ親の方から希望を伝えて」と話すのは、遠距離介護のNPO法人、「パオッコ」(東京都)理事長の太田差恵子さん。
保険証券や預金通帳など大切な書類の保管場所や、延命治療についての希望を書いて家族に伝えておけば、入院など緊急時にも対応しやすい。市販のエンディングノートを利用する方法もある。親が相談してくれない時は、「友だちの親が倒れて、大変だったらしい」などと身近な話題を糸口に、日常生活で困っていることがないか、尋ねてみるのも手だ。
自分らしい遺影を残そうとする人たちもいる。東京都中野区の写真家小林伸幸さん(41)は毎年、年末に自宅で遺影撮影会、「Oh〜!! 遺ぇ〜い!?」を開く。「年末の恒例行事にすれば、その人らしい年の重ね方の記録が残る」と小林さん。撮影料は3500円。広島市の公務員女性(35)は、数年前に父をみとったが、遺影にしたい写真がなくて困った。「私はプロに撮ってもらうのを楽しみに、一年を締めくくるイベントとして来ています」。(前田育穂)
(写真は鳴き砂で有名な琴引浜:京都府・旧網野町)
『墓の準備もひとり』
(2012年1月7日付け朝日新聞より引用)
◆つながり薄れ人気 予約400件超える
愛媛県内の寺が割安で遺骨の永代供養を始めたところ、生前予約が殺到している。自分が死んだ後、骨をどうしたらいいのか・・・・・。地域社会とのつながりが希薄となり、未婚の人も増える中、遺骨との向きあい方も変わろうとしている。「すでに400件を超えているんです」。愛媛県伊予市の入佛寺(にゅうぶつ)の山田晃照住職(50)は、遺骨の永代供養の申し込みが相次いでいることに驚く。
昨春、遺骨を個別に50年間安置する施設、「れんげ苑」を境内に開き、墓石と供養料で25万円の墓(1区画・奥行き60センチ、幅25センチ)の募集をホームページで始めた。相場は50万円〜100万円だが、「無縁仏をなくしたい」との思いで料金を抑え、清掃や管理などにかかる維持費もとらない。当初は主に引き取り手のない遺骨を想定していたが、「生前に申し込んでおきたい」というひとり暮らしの中高年からの予約が殺到した。他の墓地からの移転希望もあるという。
山田住職によると、青森県に住む70代の男性は、関東地方で工場勤めをしていたが、妻と離婚。子どももなく、定年後に帰郷した。東日本大震災で自宅が揺れ、自分の死後が気になり始めた。男性は住職に、「親類に手間をかけさせてまで本家の墓に入れてほしくない」と打ち明けたという。
関東地方の独身の中年男性は、入院先の病院から寺に電話をかけてきた。性同一性障害で、末期の食道がん。申し込みの際、「母は認知症で、兄には『お前とは関係ない』と言われた。火葬後の行き先を決めておきたい」と住職に話した。山田住職は、「経済的な理由などで、遺骨の供養にお金をかけられない人もいる。『供養観』の変化で簡素な方式を望む人もおり、これまでの墓文化が崩れかけている」と話す。
◆ゆうパックに骨
遺骨1万柱が収容できる供養堂には、郵便局のゆうパックで送られてくる遺骨も納められている。寺が5万5千円の代金と引き換えに送る箱の中に、遺骨を入れた骨壷と申込書、自治体の埋葬許可証を同封して送り返すシステムだ。先月までに引き取り手のない約150柱が葬儀社や元妻などから届いたという。
◆65歳以上 16%単身
生きているうちに、遺骨を供養してくれる寺を見つけておこうとする動きの背景には、ひとり暮らしの増加があるようだ。2010年度の国勢調査によると、65歳以上のひとり暮らしは479万人で、20年前と比べて316万人増加。65歳以上の人口の16.4%を占めた。男性は10人に1人、女性は5人に1人が単身だった。
長引く景気低迷で、定職につけない男性や経済的に自立した女性の増加などで、未婚率も上昇。国立社会保障・人口問題研究所によると、生涯未婚率(50歳時点の未婚割合)では、男性が20年前と比べて12.8ポイント増の17.2%、女性が3.7ポイント増の7.8%となった。2030年には、男性が29.5%、女性22.6%に達する見込みという。
こうしたなか、孤独死も増えているとみられ、千葉県松戸市のNPO・孤独死ゼロ研究会は、ひとり暮らし世帯のうち70万〜80万人が、「孤独死予備軍」と推測する。中沢卓実理事長(77)は、「未婚や離婚、死別などで独り身になると、経済的に裕福だった人でも孤独死になり、遺骨の引き取り手がなくなってしまうことがある」と言う。
◆脱地域密着が必要
供養業界紙の「月刊・仏事」の小林憲行編集長(37)は、「これまでの寺院は地域密着型だったが、ひとり暮らしや孤独死の増加で、地域の枠を取っ払って骨を受け入れる寺が必要とされていることへの表れではないか。今は愛媛の寺のような取り組みは珍しいが、各地で広がっていく可能性がある」と話している。(伊藤喜之)