『社会のために役立ちたい』(その4) <名刺両面大作戦>

(写真は名寄市の中心部を流れる天塩川)—>
2012年2月1日
『社会のために役立ちたい』(その4)
<名刺両面大作戦>
 
 自分らしい「生きがい」や「やりがい」を求める人たちが、プロボノという新しい社会貢献の仕組みと巡り会い、NPOなどの市民活動を手伝ううちに、職場では経験したことのない達成感や満足感を味わうことができる。

 プロボノとは、社会人が会社に所属しながら、自分の空いた時間を効率的に活用して、仕事を通じて培った知識や技能、経験やノウハウなどのスキルを活かして社会に貢献するボランティア活動を指す。

 プロボノに対する社会的関心は高く、新しい社会貢献の在り方として今注目を集めている。社外の人たちと一緒にNPOのプロジェクトを推進することで自身のスキルアップになり、新しい人脈作りにもつながる。また、NPOと関わることで社会の問題をより身近に感じることができ、社会に対する見方が変わることもある。

 この仕組みの新しさは、スキルを持った人と助けを求めるNPOとのマッチングを、サービスとして生み出したところが受け入れられ、新しい社会貢献の仕組みとして、今後広がっていくものと思われる。プロボノの活動は大都市に集中しがちだが、地方でも、地域の特性を生かしたまちづくりにプロボノの活動に期待する自治体がある。

 先ずは、北海道下川町。北海道北部を流れる天塩川の支流、名寄川の上流部にあり、名寄盆地の東部に位置する。町の面積の約9割を森林が占め、その8割以上が国有林。林業を産業基盤とし、毎年約50ヘクタールの伐採と同面積の植林を繰り返す循環型森林経営に取り組んでいる。

 下川町の地域づくりにおける課題は、相手方に分かりやすい情報発信を実現することであった。そのために、町や地元企業、NPO法人が行う施策や事業などの情報を発信するウェブサイトをより戦略的なものにするためにプロボノの支援を受けることにした。プロジェクトチームは、森林経営に携わる当事者に対するヒアリング調査を実施し、その分析結果をウェブサイトの改善に反映させると同時に、住民同士の新たな連携づくりを狙った。

 兵庫県豊岡市は、特別天然記念物のコウノトリが自然環境の中で生息できるよう、農家の無農薬・減農薬農法の導入や、環境に配慮した企業の誘致、生き物と触れ合う環境教育の推進など、野生動物と人との共生、環境と経済が共存するまちづくりを目指し、市役所内関連部門の連携による包括的な環境経済政策を展開してきた。

 しかし、こうした豊岡市の取り組みは、環境問題の専門家や行政関係者には知られていたが、一般の都市住民や地元市民の認知度は低く、市の政策が十分に理解されているとはいえなかった。さらに、地元の農家や商工業者も、コウノトリが棲める環境を目指す市の政策を理解し、自らの農業生産や事業活動に採り入れる割合は、市が期待するほどの成果は上がっていなかった。

 豊岡市は、公式ウェブサイトの内容を一新すべく、プロボノによるプロジェクトを立ち上げた。「コウノトリと環境」をテーマに、市の環境・経済施策の全体像や取り組みを分かりやすく発信することで都市住民に豊岡市の魅力を浸透させ、地域の農業者や商工業者にも、市の政策が地域の経済活性化と連動していると強調することにした。

 ブロボノに支援を要請し、町や市の施策、そして地元事業者の活動を広く社会に発信することで新たな地域づくりに取り組んだ下川町と豊岡市。地方のまちで、プロボノの支援を必要とする人たちがいて、プロボノとして地方を応援したいと地域づくりに貢献する人たちがいる。そんな人たちを次に紹介させていただきたい。

(写真は下川町の面積の90%を占める森林)—->
『名刺をもう一枚④』
<都会から地方に元気>
(2011年3月1日付け朝日新聞より引用)

「ふるさとプロボノ」各地で産声
 嵯峨生馬さん(36)は、民間シンクタンクの研究員だった2004年3月、米国で、「プロボノ」という仕組みに出会った。社会人が仕事で培った技能や経験を生かし、専門的な立場から市民活動を支えるボランティア活動だ。嵯峨さんは翌年、プロボノを推進するNPO、「サービスグラント」をつくり、シンクタンクを退職した。現在は、その普及に専念している。

 プロボノの舞台は、大都市に集中しがちだ。活動の場を地方にも広げたい。そう考えた嵯峨さんは今年2月、「ふるさとプロボノ」の構想を発表した。自分の出身地には限らず、大都市から離れた地域を応援する仕組みだ。嵯峨さんは呼びかけた。「日本の地域づくりに新しい風を吹き込みましょう」。この構想は昨夏、北海道から嵯峨さんに届いた一本の電話をきっかけに動き始めた。

 「都市からの応援は、地方でこそ必要とされている」。北海道下川町の地域振興課長、春日隆司さん(56)が、旧知の嵯峨さんに訴えた。旭川市の70キロほど北にある下川町は、冬は零下30度にもなる。かつては銅の鉱山で栄え、60年には1万5千人以上が暮らしていたが、現在は約3700人にまで減った。

 過疎化に悩む下川町だが、環境面では先進的な自治体として知られる。豊富な森林資源を生かし、全国に先駆けて二酸化炭素排出量の取引を進め、森林を整備するために企業や個人から寄付を募る条例をつくった。新しい活動を視察しようと、毎年、国内外から500人以上が訪れる。

 町の森林組合で働く58人のうち35人は、都会から移住した人や故郷に戻ってきた人だ。組合で働きたいと24人が順番を待つ。「町外とのつながりが、町を支えている」と春日さん。結びつきを深めようと、下川町は、「ふるさとプロボノ」を新年度から始める計画だ。具体的には、町の活動を多くの人に知ってもらうため、専門家にホームページなどを作り替えてもらう。

 最初に町内で話し合い、交通費や宿泊費は町が負担する。後は主にネットでやりとりをする。「自治体の将来構想づくりを手伝い終えた後も、仕事を離れて応援したい」。仕事で付き合いのある何人もの専門家が語っていたことを、春日さんは覚えている。「都市で暮らす人が組織を離れて、地方に関わってくれるはず。そうした取り組みのモデルを作り上げたい」。

 兵庫県豊岡市も、ふるさとプロボノを新年度から始める準備を進めている。飛来するコウノトリが棲める環境と経済の共生を掲げた地域づくりを進めており、市の魅力を全国へどう発信していくべきか、都市部の専門家から助言してもらう計画だ。一昨年、民間からの公募で副市長に就いた真野毅さん(55)は、自身の会社員時代の経験から、確信している。「会社とは別の場所で、やりがいを求める人は大勢いる。そんな人が、市の職員を刺激し、地域を元気にする」。

「名刺両面大作戦」
 2月28日朝、東京・駒込駅の南口で、こう大書された緑色ののぼりがはためいた。「名刺の裏に、取り組んでいるボランティア活動などを印刷し、温かい絆のある街にする活動を広めましょう」。弁護士で、さわやか福祉財団理事長の堀田力さん(76)が呼びかけた。平日の毎朝、山手線の駅前で、辻立ちを続けている。昨年6月、新橋駅で始めた。今年8月までに山手線を一周する計画だ。

 ボランティアやNPOの活動は、存在感が増し、行政や企業と並んで社会を支える柱に育ちつつある。専門的な技能や経験を持つ人の応援を必要とする活動も増えている。プロボノに取り組む団体は東京のほか、富山や大阪、岡山など各地で生まれている。堀田さんは、「ボランティア活動が成熟に向かっていることの表れだろう」、と話している。(小室浩幸)