『先ずは亭主から変わろう』 <勝つと思うな、妻には負けろ>

(写真は竹野浜沖の水平線から昇る朝日・兵庫県豊岡市竹野町)
2012年2月22日
『先ずは亭主から変わろう』
<勝つと思うな、妻には負けろ>

 「山路を登りながら、こう考えた。智に働けば角(かど)が立つ。情に棹(さお)させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい」。皆さんよくご存知、夏目漱石の小説、「草枕」の冒頭部分。例え夫婦といえども、自分の考えを押し通そうとするとよく喧嘩になる。感情のままに言葉を発すれば、人の心を傷つけることもある。

 戦後のベビーブーマーも還暦を過ぎ、今や60代の半ば。今年の10月が来れば、カミさんとの結婚生活も40年になる。この頃、夫婦の会話でも言葉使いを誤ると、カミさんから荒っぽい返事が返ってくる。私も、なるべく優しく丁寧に話そうとするが、それを忘れた時の口ぶりがカミさんの反発を買う。

 ところで、カミさんから文句が出るのを承知の上で、冷蔵庫の中を整理することがある。カミさんの留守中に、消費期限が過ぎている食品や萎(しな)びた野菜、食べ残しのおかずなど、私自身の棚卸しの基準に従って捨てる。会社勤めの頃は、机の引き出しは常に整理し、定期的にファイルをチェックして、不要になった書類はすぐさま処分しろと指導されてきた。

 カミさんからすれば、断りもなく勝手に食べ物が捨てられたことが、自分流のやり方を否定されたと解釈するのか、突如として機嫌が悪くなり、日頃抱えている私に対する鬱憤(うっぷん)が一気に爆発する。「冷蔵庫の中は触らんといて! 男のクセに、他にすることがあるやろ! そんなことをするなら、これからは料理も作って! 食べた後の片づけもして!」。

 何とまあ、荒っぽい言葉。その度に捨てた理由を丁寧に話せばいいのだが、度重なると説明するのも面倒になってくる。やがて、夫婦の間に気まずい沈黙が続く。しかし、私が席をはずして戻ってくると、カミさんは何事もなかったかの様に、また話しかけてくる。カミさんの、この不思議な気持ちの変化。何より夫婦喧嘩の気まずさが長く続かないことが有り難い。

 またある時は、ものは試しとばかり、テレビ番組で知った言葉を使ってカミさんの話に相づちを打ったことがある。「そうやね。あんたの話、よ〜う解る。ほんと、あんたの言う通り」と続けると、最初の頃は共感してくれていると喜んだ。しかし、度重なってくると、紋切り型の相づちが本心からではないと分かると本気で怒り出し、こちらも気まずくなったものだ。

 このように、こと会話に関しては、女性と男性とでは根本的なところで違っているのではと感じる。男性の会話は、目的があって結果を求めるから成り立つ場合が多く、会話を楽しんでいるわけではない。一方、女性は話すことでストレスを解消し、話をすることで会話の楽しみを覚えるのだろう。

 女性4,5人連れが街中で談笑しているのを見かけるが、どうやら話し手ばかりで、聞き手がいないようだ。コミュニケーション能力が高いから、次から次へと話題が出て、途切れることのないおしゃべりを楽しんでいる。女性は世代を問わず、例え僅かな時間でも、どう楽しく過ごすかを心得ているようだ。

(写真は牛窓町鹿忍地区から眺めた朝日・岡山県瀬戸内市)—>

 一方男性は、仕事中心に生きてきたために会話が苦手になったと思われる。毎日が、外では仕事、家庭では、食べる、風呂、寝る、のワンパターンの繰り返し。言葉も多くは必要とせず、妻との会話もほんの少し話すだけ。

 職場でも、毎日することが決まっていて、話す言葉も限られてくる。趣味を持っている人ならともかく、家の外では話題を探すのに困ったものだ。長年の会社勤めで、気づかぬうちに不器用になっていたのかもしれない。

 ところで、かつては一方的な片想いから始まった我が青春。想いのありったけを込めて手紙を書いたこともあった。親の留守を狙って、電話をかけた。「真っ赤な太陽」と「恋の季節」。やがて、片想いが受け入れられて結婚。その頃は、「世界は二人のために」。決して贅沢な暮しはできなかったが、「神田川」の如く、二人でいるだけで楽しく、仕事にも頑張った。

 そして、娘二人が生まれ、カミさんの子育て時代が始まった。今から思えば、子育てには殆んど関わらなかった。カミさんには随分と気苦労と面倒をかけてきた。娘二人は進学、就職、やがては結婚。そして孫たちが生まれ、一軒の家で暮らした家族の状況も今ではすっかり変わってしまった。

 そして現在(いま)、カミさんとの二人っきりの生活になった。「世界は・・・・・」から40年余りが過ぎた。カミさんに気に入ってもらおうとあれだけ努力した青春時代の気持ちには戻れないが、60代の半ばを迎え、これからカミさんとどう向き合って生きていくのか。「お前百まで、わしゃ九十九まで」を身近に感じる年になってきた。私の最期を看取ってほしいから、残された人生の生き方を真剣に考えることにする。

そこで、夫婦が円満に暮らすには、「まず亭主が変わること。亭主が変われば妻が変わる。妻が変われば家庭が変わり、日本も変わる」、と説く「全国亭主関白協会」の活動を掲載した朝日新聞の連載記事を次に紹介させていただきたい。

(写真は瀬戸大橋を手前にして昇る朝日・倉敷市児島通生)—>

『<55プラス> 夫婦力を磨く』①
「円満のワザ 妻に勝たない」
2012年2月10日付け朝日新聞より引用

 土曜の夜、福岡市内の居酒屋にスーツ姿の男性15人が集まってきた。「いかにうまく女房の尻に敷かれるか」に心をくだき、「亭主力」に磨きをかける「全国亭主関白協会」(福岡市)の心優しき会員たちだ。「関白は天皇を補佐する重職。家庭内でカミさんは天皇だから、亭主関白とは妻に頭の上がらない地位」(同会)。

 そんな意味から名付けた同会は、1999年設立。当初の会員は11人だったが、今は海外を含め計約1万7千人。この日は月一度の定例会。定年後、妻と会話がない。子どもに気をとられる妻を振り向かせたい・・・・・。ビールを片手に悩みを打ち明け、語らい、笑い、夫婦円満のワザを伝授し合う。

 参加者の一人、福岡県みやま市の会社社長、板橋嘉道さん(70)は、協会が認定する「亭主関白道」で唯一の10段。「妻に愛しているといえる」人だ。会発足からの常連で、後輩の信望も厚い。でも、かつては典型的な旧・亭主関白だった。仕事で多忙、帰宅は午前様。口にするのは、「風呂、飯、寝る」。妻の央乃(ひさの)さん(67)が3人の子育てに手をとられると、さらに夫婦の会話は乏しくなった。

 愛情はあるのに、その口ぶりが反発を買う。健康のために「太るな」と言えば、「だれのせいでストレスがたまっていると思うの」。姑(しゅうとめ)問題を解決するためによかれと思い、「キミが間違ってるよ」と意見すると逆効果。どんどん会話がずれていく。ある年、正月準備の忙しい年末に、些細なことで喧嘩になった。そして、妻の誕生日の元旦は冷戦状態。そんな結婚生活が20年余り続いた。

 9年前の大みそか、このままではだめだと思い、「喧嘩はやめよう」と休戦協定を結んだ。年を越した夜中の12時過ぎ、央乃さんの58歳の誕生日。一念発起して、赤いバラを年の数だけ贈った。「ようやく私の番なの?」と皮肉りながらも、うれしそうに花瓶に挿してくれた。

 以来、元旦の恒例行事だ。「妻の喜ぶ顔に癒される。たわいのない話でも聞き役に徹すると、会話が転がる。妻に勝とうと思わないことです。まあ、あきらめの境地ですかね」と照れ笑いを浮かべた。(森本美紀)

(写真は石狩川に架かる鉄橋を手前にして昇る朝日・札幌市北区)

『<55プラス> 夫婦力を磨く』②
「愛してる」と言ってみる
2012年2月11日付け朝日新聞より引用

◆「亭主力を磨く3原則いろいろ(相手と争わないことが、真の勇者であり勝者)
●愛の3原則
 ①「ありがとう」をためらわずに言おう
 ②「ごめんなさい」を恐れずに言おう
 ③「愛してる」を照れずに言おう
●相づち3原則
 ①そうだね
 ②わかるよ
 ③その通り
●非勝(ひかつ)3原則
(相手と争わないことが、真の勇者であり勝者)
 ①勝たない
 ②勝てない 
 ③勝ちたくない
(全国亭主関白協会まとめ)

 すきま風が吹く夫婦が再生するには? 全国の会員から悩み相談を受ける全国亭主関白協会会長の天野周一さん(59)は、「まず亭主が変わること。亭主が変われば妻が変わる。妻が変われば家庭が変わり、日本も変わる」と言う。

 天野さんが編み出した夫婦円満の極意は450以上。なかでも一番大事なのは会話の力。「ありがとう・ごめんなさい・愛してる」という愛の3原則だ。「はじめは心を込めなくてもいい。まず口に出してみれば、気持ちは後からついてきます。『愛してる』と言われれば、お世辞でもうれしいもの。いずれ心を開いてくれます」。

 すぐに夫婦関係が良くなるわけではない。天野さんは、「私自身、離婚の危機から生還するのに10年かかった。大事なのは、悪化した関係が下げ止まること」。妻の話をひたすら聞き、合いの手を入れる。「そうだね、わかるよ、その通り」の相づち3原則。「妻は意見を聞きたいのではなく、共感してほしいんです。だれが、どこで?なんて聞いてはだめ。『わかってない』と会話は決裂します」。

 タウン誌編集長として仕事に脂の乗った46歳の夏。夕飯時に妻が切り出した。「別れてくれる?」。全身が固まった。渡されたノートには、生ゴミを出す曜日、おにぎりを電子レンジでチンする時間など、一人になっても困らない項目がずらり。真面目に働き、家族旅行もした。何より妻を愛していた。ショックだった。書斎で一人、考えた。忙しさを理由に会話もせず、妻の話をろくに聞いていなかった。自分が変わらなければ・・・・・。

 生まれて初めて皿洗い、風呂掃除、ゴミ出し。妻に合う話題で話しかけ、お茶一杯に、「ありがとう」。妻の話に相づちを打った。次第に妻に笑顔が戻る。そして、「あの日」から10年。好物のきんぴらゴボウが食卓に上った。涙が出た。

 天野さんは、「会話が生まれれば、相手の心をみるようになる。家のトイレが自分の居場所という人もいますが、妻の心のなかに居場所を見つけてほしいから。そのために、亭主力を磨くことが必要」。亭主力とは、妻の笑顔を引き出すこと。さて、あなたの亭主力は?

(写真は洲本市の三熊山から眺めた朝日、後方は紀淡海峡)—>

『<55プラス> 夫婦力を磨く』③
「長所見つけ 話を引き出す」
2012年2月12日付け朝日新聞より引用

<夫婦関係を回復させるカウンセリングシート記入例>
●相手の長所を20項目
 意思が強い、親思い、働き者など
●相手にしてもらったことを12項目
 定年まで働いてくれた、家を建てたなど
●相手にしてあげたかったことで、まだしていないことを6項目
 定年まで働いてくれたことの感謝、温泉旅行など
●相手との楽しい思い出、協力してやったことを6項目
 子育て、転勤先の生活など
●相手と良い関係に戻れたら、一緒にやってみたいことを6項目
 レストランで食事、ガーデニングなど
 (ファミリーカウンセリングサービスの資料から)

 「何も言わなくてもわかるだろう」。シニア世代の夫は、そう思いがちだ。「男は仕事、女は家庭」、「男子厨房に入らず」。そんな世代の親を見て育った影響が濃いという。でも妻は違う。会話のない生活に危機感を持っている。

 埼玉県の女性(61)もそんな一人だった。元エンジニアの夫(61)は30年間、無遅刻無欠勤。旅行に誘えば付き合う。でも、女性が一方的に話すだけで返事がない。夫から、「何かしよう」と誘ってくれない。こんな人と生きていくの? 離婚を考え始めた54歳の時、夫婦再生の講座があると知った。

 ファミリーカウンセリングサービス(東京都)に行くと、カウンセラーの講義、体験を語り合うグループワークがあり、1枚の紙を渡された。「二人の関係を回復させるためのカウンセリングシート」には、「相手の長所」、「相手との楽しい思い出」など7項目あり、それぞれ6〜20の記入欄があった。

 毎日書き、1週間後に提出する。でも書けない。夫を観察し始めた。真面目、怒らない、ディズニーランドに行った・・・・・。「いいところもあったんだ」と気づくと、嫌な人からいい人へと見方が変わり、優しくなれた。書いた思い出は、会話のきっかけになった。「なぜ返事しないのよ、と責め立てたから夫はおびえたんでしょうね。相手の気持ちに立って話すと、夫もしゃべり始めたんです」。

 主任カウンセラーの荒木次也さん(65)が勧めたのは、「答えを誘う会話」。「どこにもつれて行ってくれないじゃない」ではなく、「今度、どこに行ってみる?」という具合だ。シートは思考習慣を変える手段。毎日、最低でも100日書き続けることが肝心だ。

 「会話で感情を吐き出し、人は癒される。言いたいことを言い合える夫婦は修羅場になりにくい。互いによいところを見つければ感謝の気持ちが生まれ、会話が喜びに変わる」と荒木さん。女性は今、カウンセラーとして働き、「ほめて育てた」夫は、家で料理担当。「手先が器用で、ギョーザはプロ級。今日の夕食も楽しみ。ずっと一緒に笑い合いたい」と家路を急いだ。
(森本美紀)