『あなたの趣味は何ですか?』 <好きなことを究めてみませんか>

(写真は友ヶ島の全景・手前から地ノ島と沖ノ島、奥が淡路島)
2012年3月10日
『あなたの趣味は何ですか?』
<好きなことを究めてみませんか>

 アジの干物が食べたくなったら、加太(和歌山市)へよく出かけたものだ。釣り船の出港は夜明け前。港から約15分で友ヶ島周辺の釣り場に着く。アジ釣りのシーズンは、4月の下旬から10月頃まで。潮の流れが速い大潮の頃が、アジの食い込みが良い。アジは沿岸に棲み、水深10〜150メートルほどの所を群れて回遊する。アジは口切れしやすく、慌てずにゆっくりと取り込むことが肝要。

 私が船釣りを始めたのは、阪神・淡路大震災があった1995年の6月。職場の同僚に誘われた。初めての釣行に備えて竿とリール、そしてゴム長を買った。発泡スチロールの小さなトロ箱をクーラー代わりに持参した。釣り方も分からず、釣り客の竿さばきを見ながら、ただ仕掛けを海に投入するだけ。オモリが底に着いたのも分からず、釣り糸を出し続けた。

 潮の流れが速い時、オモリが底に着いた瞬間を竿先で感じることは難しい。キャビンの魚群探知器が海底までの深さを30メートルと知らせているのに、リールのカウンターは50メートルと表示することもあった。釣り糸を出し過ぎていた。隣の釣り客に、「初めての釣りですから・・・」と事前に断ってはいたものの、オマツリは再三再四。随分と迷惑をかけた。

 陽が昇る頃には、釣り客の半数がマダイを釣り上げていた。その時、船長の船舶無線に連絡が入った。船は船首の向きを変え、全速力で次の釣り場へと急いだ。すでに多くの船が集まっており、先着の船では釣り客が次々とアジを上げていた。船頭の指示でサビキ仕掛けに替えた。やがて、船の群れの中に割って入る。船同士が触れ合うほどに接近するが、決して接触することはない。

 しかし、船同士の間隔が狭く、仕掛けの投入もままならない。慌てると、テントの支柱で竿先を折ることもある。夢中で仕掛けを海に投げる。苦労に苦労を重ね、初めての船釣りで、30センチ前後のアジが16〜7匹は釣れた。持ち帰ったアジは、刺身やタタキ、スシ種や干物などにして食べた。美味だった。これですっかり船釣りにはまってしまった。

 友ヶ島周辺は、年間を通じて釣りを楽しむことができる。マダイは一年中釣れる。極寒の頃はメバル。そして、3月に入ると桜ダイ。この時期、産卵時期を迎えたマダイは活発にエサを追うため、運がよければ入れ食いを楽しめる。ゴールデンウイークの頃からはアジも混じる。梅雨が明ければ、アジの最盛期。40センチ前後の大アジとマダイを狙う。たまにはスズキが掛かってくる。

 9月ともなればハマチが現れ、青物独特の強烈な引きを楽しむことができる。そして年末は、正月用のニラミダイを狙う。加太での釣り納めと称して、大掃除をカミさんに任せて釣りをするのだから、決してボーズでは帰れない。プレッシャーを感じる釣行となる。これで船釣りの一年が終わる。

 これまでいろんな釣り場で、いろんな魚を釣ってきた。年が明けると、元旦から湯浅沖での寒サバ。そして2月ともなれば、鳥羽湾や香川県直島周辺でメバルを狙ったこともある。友ヶ島周辺では良型の35センチ前後のメバルが釣れる。追い食いさせて2匹以上釣れることもある。

 真夏は、クルマで阪和道を南下。南紀の印南へ向かう。夕方が沈む頃、港を出る。船で南へ約1時間、白浜沖でスルメイカを狙う。釣り上げたイカをその場で沖漬けにする。また、船上でイカを刺身にして食べたこともある。釣り人の特権だ。日付が変わった午前2時過ぎに納竿。また、日本海まで出かけ、舞鶴沖の冠島周辺でシロイカを狙ったこともある。

(写真は豊後水道での関サバ釣りの光景)—–>
 
さて、船釣りを楽しむ者として、一度でいいから釣ってみたい魚がある。大分市佐賀関沖から別府湾周辺で釣れる関アジと関サバ。船釣りの本によると、概ね次のように紹介されている。

 豊後水道は大分県関崎と愛媛県佐田岬の境界に位置し、潮の流れが速く、一年を通して水温の変化が少ない。また、餌となるプランクトンが豊富なため、本来は回遊魚であるアジやサバが居ついたとされている。この海域は波が高く、海底の起伏が複雑で漁網を使った漁に適さず、伝統的に一本釣りが行われてきた。この海域で育った関アジ・関サバは身が引き締まって味が良く、魚体が大きいのが特長。

 釣り場は港から30分ほど船を走らせた近場から、1時間以上の沖合まで。水深も40メートルから100メートル以上の深場まで。季節によって釣る場所が異なる。またサビキは、その日の天候や潮の濁り具合によって食いつきの良い色が変わるので、何種類か色違いのサビキ仕掛けを用意しておくとよい。

 釣り方は、80〜120号のアンドンカゴにジャンボアミを入れ、船頭が指示したタナまで仕掛けを降ろす。仕掛けがタナまで届いたら、2〜3度竿を大きくしゃくってマキエを出す。アタリは、ガツンという感じで竿に伝わるが、この時には大アワセをせず、魚の引きに合わせてゆっくりと巻き上げる。釣れた関アジ・関サバは、必ず首を折って血抜きをする。

 ところで、趣味とは、「専門としてでなく、楽しみとして愛好する事柄」(岩波・国語辞典)。となれば、私にとっての趣味は遊漁船に乗って魚を釣ることだ。海のない奈良県生まれとしては、幼い頃から新鮮な魚を食べてこなかった。それだけに新鮮な魚を食べたかったのと、初めての船釣りで、思いもよらない好釣果。ビギナーズラックがきっかけで、船釣りにはまった。

 船釣りの楽しみは、仕掛けを作る時から始まる。狙う魚に合わせてハリのサイズと色、そしてハリスの太さを選択する。また、幹糸にハリスを何本結ぶのか。仕掛け作りだけで十分楽しめる。次に釣り場では、見えない海底の形状や魚の動きを想像しながら釣りをする。竿先に神経を集中させるため、日頃のストレスを忘れさせてくれる。そして、釣り上げた魚は産地直送便で我が家へ直行。孫たちと新鮮な魚を賞味する。

 船釣りは、遠方へ出かけるために高速道路を利用する。通行料とガソリン代、そして乗船料と費用がかさむ。私にとっては少々贅沢な趣味だ。その日の釣果によっては、スーパーで魚を買った方がはるかに安くて済むこともある。しかし、例え釣果が悪くとも、新鮮な魚が食べられる、ただそれだけで満足している。釣れた魚の金銭的価値を考えると船釣りは続かない。

 今では専ら和歌山の加太へ行く。船頭とも顔馴染みになった。船中でも、港に戻った後も気軽に釣り談義を交わす。魚の食いが悪い時はつい愚痴も出る。時々船頭は、悪い時はそれなりの誘い方がある、と秘策を教えてくれる。また、釣果が期待はずれの日は、船内の船頭専用のイケスから、船頭がその日釣った魚をそっと分けてくれることもある。

 船釣りは、私にとっては気分転換になり、新鮮な魚を食することが何より嬉しい。また、カミさんや孫たちも喜んでくれる。深夜に起きるのは、ちっとも苦にならない。堺の臨海コンビナートの明かりを右手に眺め、狙いの魚が食いつく瞬間をイメージしながら阪神高速湾岸線を南下する。健康で体の自由が利く限り、これからも船釣りは続けたい。オトコとして生まれてきたからこそ味わえる人生の楽しみだから、ほんの少しの贅沢は許して欲しい。

 そこで、朝日新聞が、「趣味をお持ちですか?」、「あなたにとって趣味とは何ですか?」と読者に尋ねたアンケート結果を次に紹介させていただきたい。

(写真は舞鶴市成生岬の北北西約10kmの沖合にある冠島)
<be between 読者とつくる>
『趣味ありますか?』
(2011年12月24日付け朝日新聞より引用)

 「趣味をおもちですか」。これまでの人生でいったい何度、尋ねられたことでしょう。大半の人は、この質問に答えがあるようです。でも、「あなたにとって、趣味とはなんですか」と問われれば、その答えは人によって実に様々でした。調査の方法は、朝日新聞のアスパラクラブの会員で、1万7千人が登録する「beモニター」のうち、3998人からの回答を集計したものです。

▼『趣味をお持ちですか?』
●ある 92% : ない 8%

◆「ある」人が答えました
 ▼他人に胸を張れるほど熱中している?
 ●はい 62%、 どちらともいえない 27%、 いいえ 11%
◆「ある」人が答えました
 ▼趣味はいくつありますか?
 ●一つ 15%、 二つ 31%、 三つ 27%、 四つ 10%、 五つ 5%、 六つ以上 12%
◆「ある」人が答えました
 ▼どんな趣味?(複数回答、15位まで)
 ①読書 1353人
 ②旅行 1071人
 ③スポーツをする 1012人
 ④音楽を聴く 935人
 ⑤パソコン 858人
 ⑥映画や劇の鑑賞 734人
 ⑦写真 608人
 ⑧スポーツ・格闘技の観戦 465人
 ⑨登山・釣り・ハイキング 463人
 ⑩盆栽・ガーデニング 440人
 ⑪模型作り・手芸・陶芸など 426人
 ⑫音楽を演奏する 415人
 ⑬絵画鑑賞 391人
 ⑭食・グルメ 389人
 ⑮料理 344人

◆「ない」人が答えました
 ▼その理由は?(複数回答)
 ①趣味といえるレベルではない 172人
 ②夢中になれるものが見つからない 170人
 ③お金がない 91人
 ④飽きっぽい 68人
 ⑤忙しくて時間がない 60人
 ⑥物事にこだわりがない 59人
 ⑦仲間がいない 27人
 ⑧必要性を感じない 22人
 ⑨その他 14人
◆「ない」人が答えました
 ▼趣味を持ちたいと思ったことある?
 ●ある 75%、 ない 25%

◆腕前・知識は関係ない
 東京都の会社員女性(23)は朝晩、必ず焼き芋を食す。焼き方を試行錯誤した結果、大きさで絶妙な焼き時間が分る。月に1度はイモ掘り旅行とイモパーティー。会社で嫌なことがあっても、「家に帰ればイモがある」と思えば、幸せな気分になれる。学生時代に一人暮らしを始めてイモにはまった。今や「好物」というとり、「趣味としか形容しようがない」。

 beモニターのみなさんの9割以上が、「趣味がある」と答えた。とはいえ、冒頭の女性のようなユニークな趣味を持つ人は少なく、大半の趣味は、読書、旅行、スポーツといった定番だった。「利益を度外視して打ち込める営為」(奈良、79歳男性)、「時間がある時にやりたいと思いつつ、毎日できずにその時を待ちこがれているもの」(熊本、40歳女性)、「10年以上続かなければ、趣味と言えない」(東京、50歳女性)と、こだわりを見せる人もいた。

(写真は岩場での磯釣り風景・和歌山県有田初島町)—–>

 仲間づくり、健康増進、ストレス解消など、趣味の効用を説く声も多く寄せられた。「仕事の話しかできない人にはなりたくない」(千葉、53歳男性)、「定年後趣味がなく、家でごろごろしている近隣の方々は早死にしている」(神奈川、73歳男性)。

 趣味がある人のうち、「他人に胸を張れるほど熱中している」という人は6割。「夜も寝ている暇などありまへん」(京都、70歳男性)という人もいれば、「時間つぶしに始めたことを趣味と言っている。同じ趣味を持つ人に深く話し込まれると戸惑う」(千葉、43歳女性)という人もいるなど、温度差があった。

 そもそも趣味とは何か。広辞苑には、「専門家としてでなく、楽しみとしてする事柄」とある。熱中度はさておき、腕前は関係なさそうだ。趣味がある人に、その腕前・知識を訪ねると、「普通の人並み」が44%、「普通の人より少し上」が43%だった。

 趣味がないと答えた人の中には、腕前を気にして、趣味と公言するのをはばかっている例も少なくないようだ。「趣味と他人に言えるのは、(元・英首相の)チャーチルが描いた絵画のレベルと聞いたことがある。私のは、どれも下手の横好きでしかない」(岐阜、77歳男性)

 無趣味という人の75%が、「趣味を持ちたい」と答えた。「趣味ありますか」という平凡な問いかけでも、答えに窮すると何となく気まずい。「〇〇です」と胸を張って即答できると、気分はいいだろう。(立松真文)

◆やるならプロを目指せ
 経済評論家の森永卓郎さんの趣味は、B級コレクション。「まさに、このために生きているんだと言える」。収集歴45年のミニカーに始まり、消費者金融チラシ、マージャンパイ、「ランチパック」の袋など57種類、10万点以上。「以前、ペットボトルのふたを集めている仲間と飲み会をしましたが、5時間、ふたの話だけで盛り上がった」。

 途中で収集を止めたのは、ピンクチラシだけ。電話ボックスでチラシをはがす姿が、「貼っているのと見分けがつかない」と周囲に止められた。「趣味を究めれば、ビジネスにもなる」。好きが高じて牛丼研究家、コンビニスイーツ研究家の肩書もあり、『B級コレクションのススメ』の著書もある。

 アンケートで、「腕前がプロ並み」と答えた人が少ないと嘆き、「趣味のために『頑張って働こう!』と思うくらいでないと。始めたら、高みを目指して毎日1センチでも登っていくような気構えがほしいですね」。(了)