(写真は寒天の天日干しの風景・兵庫県猪名川町下阿古谷地区)
2012年3月16日
『人生の棚卸しで身を軽く』
<自分との対話で老前整理>
窓から鶯の声が聞こえてくる。台所の食器棚、納戸や押し入れもスッキリした。日頃使わない物を整理すると、我が家はこんなに広くなるものか。我が家の整理と整頓。夫婦喧嘩をしながらも、昨日まで二人は頑張った。キッチンもリフレッシュ。朝の日差しを浴びながら、カミさんとコーヒーを飲んでいる・・・・・、こんな日が早くきて欲しい。今日もまた早朝、一人でコーヒーを飲む。
「整理」、①乱れた状態にある物を片づけて、秩序を整えること。②不必要な物を取り除くこと。「整頓」、散らかり乱れている物を、きちんと片づけること。また、そうして整った状態になること(岩波・国語辞典)。つまり、必要でなくなったものを処分して、必要な物を使いやすいように配置する。
そろそろ私も60代の半ばになる。老後は身を軽くして送りたい。老いを重ねるこれからを考えると、気力と体力が残っているうちに、我が家の納戸や押し入れ、本棚などを整理したいと思っている。つまりは、人生の棚卸し。とはいいながら、何から手をつけたらよいのか迷っている。
ところで、二人の娘たちはすでに嫁いだが、彼女たちが使っていた押し入れや本棚は当時のまま。衣類や本、そして身の回り品がいまだに残っている。娘たちには、片づける気持ちはなさそうだ。私が勝手に処分する訳にはいかない。我が家が倉庫代わりに使われていることが腑におちない。
カミさんが嫁入りの際持参した和ダンスにも着物の類がぎっしり詰まっている。長年、納戸に置かれたまま。結婚して以来、カミさんの着物姿を見たことがない。また、食器棚には長年使っていないガラス食器が並んでいる。日常使っている食器類もきちんと整頓されているとは言い難い。台所の収納棚も種々雑多な物が放り込まれている。
そこで、我が家の整理は私からと、昨年の暮れから自分の持ち物を片づけることにした。定年後着なくなった背広やコート、そしてセーターなどの衣類を処分した。ところが、本棚を整理する段になってはたと困ってしまった。何から手をつけてよいのか、何を基準に整理すればよいのか、まったく分からない。本や写真のアルバム、現役時代の思い出深い書類を綴じたファイルなど。「とりあえずはここ」と仕舞っておいたものばかり。
その中で、特に困っているのが本の整理。友人に頼んで、興味のある本だけでも引き取ってもらえないか。また、図書館で役立ててもらえないだろうか。まだ読んでいない本もある。処分するには未練が残る。しかし、これでは本棚の整理は始まらないし、終わりもしない。これからの老後をスッキリ身軽になって暮らすには、我が家の整理と整頓をどう進めていけばよいのやら。
そのためには、これからどんな人生を送りたいか、本当は何をしたいのかをよく考える。次に、自分なりの判断基準を作り、「使える」と「使う」は違うと心得て、捨てるか残すか、決断する。不要と思われる物は勇気を持って捨てる。そんなシニアの生活整理術を紹介した朝日新聞の連載記事を次に紹介させていただきたい。
(写真は人形供養も受け付ける門戸厄神・西宮市門戸西町)
『<55プラス> シニアの生活整理術』①
<「人生の閉じ方」自分で選ぶ>
2012年3月2日付け朝日新聞より引用
朝、ベランダのはるか向こうの家々の間から、大きな太陽があがってくる。「雲があかね色に輝いて、まぶしくて目があけていられないほど」。三宅千里さん(88)は、「今日も一日、元気でいなきゃ」と思う。
1月、東京都江戸川区のケア付き老人ホームの3階に引っ越してきた。住み慣れた新宿区の40平方メートルの公団から18平方メートルの個室に。荷物は3分の1に減らし、朝の太陽と、独り身には何よりの「安心」を得た。
22歳のとき、広島で原爆をうけ、「生きているのが不思議」と思う中を生き抜いてきた。50歳を前に会社の転勤で東京へきた。一昨年、家で転んで腰を骨折。歩けるが、洗濯物を干すのもつらい。そして大震災。親身に支えてくれる横浜のめいも60代だ。
「心配をかけたくないし、ついのすみかは自分で決めなくちゃ」と年末に入居を決めた。成年後見人の三国浩晃さん(43)は、「人生をどう閉じるか、決めるのは勇気がいる。自分で選んだからこそ、あれだけの荷物の整理もできた」と尊敬する。
三国さんの助言で、①持って行く物、②めいにあげる物、③捨てる物を色分けして付箋をはった。冷蔵庫などの家電は近所にあげた。多いのは趣味で集めた食器と衣類だ。月賦で買った塗りのお椀はめいの長女に。ほとんどを譲った友人は、「食器棚を開けると三宅さんの顔がうかびます」。
衣類はタンスふたつ分を処分し、「今着られて、これからも着たい服」だけを持ってきた。「入る量が決まってますからね」。色を工夫した編み込みのセーターは手放さなかった。物にはそれぞれ物語があり、出合いと別れもある。三宅さんらしい持ち物が、おしゃれな帽子と靴だ。「色を洋服とあわせなくちゃね」と三宅さん。イタリア製の茶色の靴は、手入れをして30年以上愛用する。
帽子は、医師に「皮膚がんになる可能性が高いから」と紫外線よけに勧められたのがきっかけで集めるようになった。数えると靴は27足、帽子は18。「やっぱり好きなのよね」。引っ越しを機に、荷物の整理ができて一息。暖かくなったら、お気に入りの帽子と靴でお墓参りしたい。(生井久美子)
(写真は兵庫県猪名川町広根地区の早春の風景)——>
『<55プラス> シニアの生活整理術』②
<「老後見つめて自分と対話>
2012年3月3日付け朝日新聞より引用
≪まず、頭の整理から 書いてみよう!≫
「老前整理」わくわく片づけ講座から
①今、一番大切なモノは何ですか?
②これからどんな人生を送りたいですか?
③計画を立てる:片づけたいモノ、場所、いつまでに?
④片づけた後を想像する
⑤自分なりの基準をつくる
「中高年の暮らしを軽くする」ことを応援する「くらしかる」(大阪市)の代表、坂岡洋子さん(54)が「老前(ろうぜん)整理(せいり)」を提唱している。モノを整理するには、気力と体力が必要だ。弱ってしまう前の50〜60代こそ、整理のチャンス。定年や子どもの独立など、人生の節目に頭とモノを整理しようと、「わくわく片づけ講座」を開いている。
講座の特徴は、収納の裏技を教えるのではなく、もっと基本の、生き方への問いかけから始まることだ。「今、自分にとって一番大切なモノは何ですか?」。坂岡さんが講座でまず問いかける。参加者たちは「えっ?」と間をおきつつ、「健康」、「いのち」、「やっぱり家族」と答えが返ってくる。
「そう、モノじゃないんですね。そこが一番大事です」と坂岡さん。「そして、これからどんな人生を送りたいですか」。仕事を続けたいのか、趣味に生きる? ボランティア? 田舎に引っ越す? すぐ思いつかなければ、「望みが三つかなうとしたら、何を望みますか?」、「これからの生活を、色で表してみましょう」。
自分は、本当は何をしたいのか。それによって必要なモノが違ってくる。「老前整理は自分との対話の時間」と坂岡さんはいう。人生の棚卸しだ。「老前整理実践ノート」(徳間書店)は書き込み式でこうした問いに答えていく。
自分史を書いて人生を振り返るのもいい。6歳のとき、親にピアノを買ってもらった喜びを思い出して、もう一度ピアノを習いたくなるかもしれない。坂岡さんは、「書く」ことで本当にしたいことや必要なモノが見えてくるという。不要なモノが全部なくなったら? 「すっきりする」、「呼吸がしやすい」。楽しい答えが返ってくる。
片づけは孤独な作業だけれど、新しい暮らしが始まる、と前向きな希望を持ってやることが大切だ。そして、具体的に、「片づけたいモノ」、「場所」、「いつまでに?」を書き出して計画を立てる。例えば、「本、リビング、3月中」、「洋服、クローゼット、月末」といった風だ。必ず「期限」をつけること。いくつでも書き出してみよう。
(写真は草むらから飛び出した雉・兵庫県猪名川町広根地区)
『<55プラス> シニアの生活整理術』③
<「使える」と「使う」は違う>
2012年3月4日付け朝日新聞より引用
≪「老前整理」の五つの鉄則≫
「老前整理」実践ノートから
①一度に片づけようとしない
②最初から完璧を目指さない
③家族のモノには手を出さない
④片づけ前に収納用具を買わない
⑤「使える」と「使う」は違う
さあ、実践だ。例えば、「押し入れの衣類を3月中に整理する」と決めたら、何から手をつければよいのか。「老前整理」コンサルタントの坂岡洋子さんは、「自分なりの判断基準を作って」と言う。例えば、「思い入れのある服は捨てない」、「元気が出ないセーターは処分する」、「XX年以上着ていない上着は捨てる」などだ。
最初のハードルは低めに設定する。例えば、「20年以上」でもよい。勇気を持って捨てよう。挫折しないコツは? 坂岡さんは、「一度に片づけようとしないこと。頑張りすぎると続かない。それに、最初から完璧を目指さないことです」。「1日15分」など、小分けしてやる。例えば、押し入れの引き出しなら、1段ずつでもよい。実行した日は、カレンダーに印やシールを張り、成果が見えるようにする。
片づけは孤独な作業だ。実行したら、ケーキやビールなど、自分へのご褒美も用意する。2ヵ月続けば、その後もできるそうだ。片づけるのは自分のモノだけにして、家族のモノは手を出さない。そして、決して片づける前に、収納用具を買わないこと。モノの移動で終わることもある。
最も大切なのは、「使える」と「使う」は違うことだ。受講者の捨てられないモノで最も多いのが衣類。「キツネの顔のついた襟巻きを何年もとっている方が多いんですね。この話になると必ず笑いがおきます」。例えば、「着られる」と「着る」も違う。「若い頃の服は今、似合いますか? まず着てみて下さい。なぜか、やせてたときの洋服は入らないのに、とっている人が多いですねえ。いつ着るんですか?」。
捨てるか残すか・・・・。迷ったときはどうすればよいのか。坂岡さんは、「5W1Hで心に問いかけよう」という。What→これは何、Why→なぜとってあるの、When→いつ必要なの、Where→どこで使うの、Who→誰が使うの、How much→今の価値、値段は・・・・。これらを坂岡さんは、「決断力を養う問い」と呼ぶ。いろいろな決断の場面でも応用できそうだ。
(写真は兵庫県猪名川町広根地区の田園風景)——>
『<55プラス> シニアの生活整理術』④
<負のスパイラルを脱して>
2012年3月5日付け朝日新聞より引用
◆負のスパイラル
①仕事が忙しい ⇒ ②片づける時間がない ⇒ ③いつも散らかっている ⇒ ④いつもモノを探している ⇒ ⑤仕事の効率が悪い ⇒ ①へ戻る
◆正のスパイラル
①仕事がうまく回っている ⇒ ②片づける ⇒ ③いつも片づいている ⇒ ④ 探す時間がほとんど無い ⇒ ⑤仕事の効率が良い ⇒ ①へ戻る
(スッキリ・ラボの講座から)
片づけ専門コンサルティング「スッキリ・ラボ」(東京都)代表の小松易さん(42)は、日本初の「かたづけ士」を名乗り、講演などで「片づけの習慣化」を呼びかける。定年後も働いたり、地域のボランティアをしたり、忙しく暮らす人も多い。
片づけができない人は、「忙しい。時間がない」という理由で、負のスパイラルに陥りがちだ。どう脱出するか? 小松さんは、「片づけないから時間がない。まず15分でも、片づけましょう」。「片づけの本質はリセットと習慣」だという。
リセットとは「整理と整頓」。整理はモノを減らすこと。整頓はモノを使いやすいように配置することだ。まずモノを減らすことが重要で、机の中なら①中身を全部外に出す、②「使う」、「使わない」で分ける、③使わないモノを捨て、量を減らす、④使うモノだけ戻す、の4段階で進める。
講座で小松さんは、受講者に自分の財布を見てもらう。「財布は家の中の縮図」で、「1日に取り出す回数が多く、整理の習慣の縮図」でもあるからだ。片づけ下手の財布は、乱雑で不格好に膨らんでいる。整理するには、中のお金、カードやレシートを全部出して、種類別に分ける。いらないモノは捨て、お金とよく使うカードだけを戻す。月に1度しか使わないカードは別のカード入れに移す。この手順はあらゆる整理に共通する。
仕事関係では名刺がたまりがちだ。顔が思い出せず、今後会いたいと思わない人、会ってから1ヵ月も連絡をとっていない人の名刺は捨てよう。本がたくさんある人は、①何度も読み返す本、②役立っている本、③思い出深い本を計100冊だけ選び、「ベスト100選」として本棚に戻す。図書館で借りられる本は手放そう。
小松さんは、「片づけが苦手な人は、゛とりあえず゛と軽い気持ちでモノを置くことが習慣になり、散らかるもとをつくっている」と指摘する。使い終えたら、すぐに元の所に戻す習慣をつけたい。
(生井久美子)