「森を育てて、猪名川の景観回復を」 <子どもたちとエドヒガンを守る>

(写真左奥は活動の拠点となる笹竹葺きの東屋)—->
2012年4月13日
「森を育てて、猪名川の景観回復を」
<子どもたちとエドヒガンを守る>

 川西市内の住宅地と猪名川の渓流に挟まれた斜面や川沿いに、樹齢40〜50年のエドヒガンが80数本群生している。水明台1丁目のバス停から、ほんの数分歩いたところに森(雑木林)が広がり、色鮮やかなエドヒガンを楽しむことができる。今年はエドヒガンの開花が半月ほど遅れたそうだ。

 その昔、この地域の斜面一帯は里山が広がり、段々畑があった。50年前の宅地造成で、森や段々畑は忘れられ、下草や灌木が生い茂り、手つかずのまま放置されていた。しかし、段々畑の跡地には、小鳥たちが落としたエドヒガンの種が芽を吹き、たくましく成長して、現在(いま)のエドヒガンの群生地になった。

 このエドヒガンは、猪名川を挟んだ対岸の清和台から、より一層美しく眺めることができる。ならば、この森を整備して、エドヒガンが群生する森に育てたい。そして、子どもたちが自然に触れ、渓(たに)の生物と友だちになって欲しい。そんな願いを持つ人たちが集まったのが、「渓のサクラを守る会」(代表・西澤孟治さん)。

 2008(平成20)年、市有地(約4ヘクタール)の管理許可を譲り受け、森の整備活動が始まった。当初は20名であったメンバーも、今では50名を超える。整備を始めた頃は、下草や灌木、そして背丈2〜3メートルの笹竹が生い茂り、木にはフジ蔓(づる)が巻きついていた。蔓が巻きつくと樹木は成長を妨げられ、やがては枯れてしまう。樹木にとっては厄介モノだ。

 同会の整備活動は、生息する樹木の特性を活かし、森としての本来の姿を甦らせることを目指し、対象地域を三つの区域に分けることから始まった。先ずは、かつては段々畑であった区域はエドヒガンの群生地。次に、里山だった斜面は、アカマツとコナラなどの広葉樹の林。そして、スギやヒノキの針葉樹の人工林と広葉樹が混在する隣接地域。

(写真は清和台側の川岸に咲くエドヒガン)——>

 森の整備にあたっては、地面一帯に生えていた笹竹を根元から切り、下草を刈り、樹木に巻きついたフジ蔓を木の根元あたりで切って、地表に引きずり下ろした。

 急な斜面での上り下りで転んだり滑ったりもした。夏の暑い日差しや冬の厳しい北風に耐えてきた。その甲斐あって、ネザサや背の低い照葉樹(常緑広葉樹)、そして絡まっていたフジ蔓が取り除かれると、再びサクラの根元に陽の光が射してきた。

 整備作業が進むにつれて、アカマツやコナラの林では、ツツジやガマズミ、ウグイスカグラなどの低木が可憐な花を咲かせるようになった。また、整備された地表には、フデリンドウやツルリンドウ、シュンラン、キンラン、ササユリなどの貴重な草花が育ち、スミレやハクサンハタザオの群生も出現した。

 森の整備活動を続けるかたわら、2009(平成21)年度から年間計9回、活動地域に地元の陽明・緑台両小学校の3年生と4年生を受け入れ、環境体験学習を支援している。さらに、2010(平成22)年の春、エドヒガンの開花に合わせ、整備活動が進む森を一般市民に開放した。そして翌年の9月、水明台のエドヒガン群落は、川西市の天然記念物に指定された。

 同会のメンバーは、エドヒガンの毎木調査や育苗、そして、ハサミやノコギリを使った実習を通じて子どもたちと接している。子どもたちが渓の草花や樹木など、いろんな生物と友だちになり、再び家族とともにこの森を訪れるなど、ふるさとの森として心に刻んで欲しいと願う。森の最も相応しい姿を目指す整備活動は、毎週木曜日の午前中行われている。

 ここで、同会のこの森での整備活動としての目標を次に紹介させていただきたい。
◆エドヒガンをはじめ、5種類のサクラを保護し、サクラの渓として市民に親しまれる景観をつくる。
◆アカマツやクヌギ、コナラ、クリ、そしてホオノキなどの高木を間伐して、光あふれる明るい森をつくる。
◆フデリンドウやツルリンドウ、キンラン、シュラン、そしてササユリなど、大切な山野草が増殖する植生環境をつくる。
◆子どもたちが笑顔で学び、遊んで、いつまでも心に残る、ふるさとの森づくりを目指す。そして、市民から信頼される保護活動を、明るく楽しく、息長く続ける。

(注)今回の記事は、「渓(たに)のサクラを守る会」のパンフレットを引用させていただきました。(了)