(茶花海岸からの夕日・鹿児島県奄美群島与論島)——->
2012年8月18日
「話せば心が満ち足りて」
<話し上手は3部構成から>
娘二人は他家に嫁ぎ、40年近く連れ添ったカミさんと二人だけの生活となった今、毎日を明るく楽しく暮らすには、お互いの思いを素直に話せる会話が基本になる。「おはよう」の挨拶から始まり、話題が話題を呼ぶような会話が望ましい。「言葉は使わずとも、気持ちは通じ合う」関係を理想とはせず、「言葉を介して」お互いの思いを伝える会話の重要性を強く意識する。
ところが、長年上下関係のある企業組織の中にいた私は、会話を会話として楽しむことに慣れていないため、カミさんとの会話はついつい命令調になる。さらに、細かい間違いを指摘するので、会話が途切れてしまうこともある。とにかく、上下関係とは無縁のカミさんが、日頃から私との会話を楽しめないことに不満を感じているのは間違いない。
カミさんとの会話を弾ませる合いの手、三句、「そうやね、よう分かる、あんたの言うとおり」。会話を楽しみ、カミさんの気分を良くするはずの合いの手も、やり過ぎると二人の間に波風が立つ。「思ってもないことを、しらじらしい」。とにかく、カミさんの話をよく聞いて、適度な合いの手で二人の会話が楽しく続くように努めたい。
一方、町内会や地域のサークル活動、ボランティアグループ・・・・、およそ人が集まる場所ならばどこでも、違った価値観を持つ相手と意思疎通を図ることが人間関係の基本になる。そんな人の集まりで、なるべく目立たないようにと思っていても、仲間を前にして話をしなければならない場面が訪れる。
ただ話し上手といっても、相手や状況次第で得意にも不得意にもなる。仲間同士の雑談と人の集まりで話をするのとは、求められるものが違ってくる。人を前にして話をすなら、報告なのか、連絡なのか、相談なのかを、事前にはっきり示してしておく必要がある。そして、伝えるべき内容を落ち着いて分かりやすく話したい。さらに、仲間への気遣いや、その場の空気を読むことができれば、話の内容もさらに充実する。
そこで、人が集まったところで、あがらず、自分の考えをしっかり話したい。自己紹介も相手に分かりやすく表現したい。日常の会話でも、自分から話しかけたい。会話が弾むような質問をしたい。雑談はできるが、スピーチも上手に話したい。そんな願いを実現するために、上手な話し方を紹介した朝日新聞の4回にわたる連載記事を次に紹介させていただきたい。
ただ、いろんなタイプの人がいて、いろんな組み合わせがあって世の中面白い。もし、話し上手な人ばかりになったら、意思疎通を図り、人とのつながりを築くはずの会話から、細かい間違いをいちいち指摘し合ったり、お互いを批判するなど、争いごとの絶えない社会になるのではと、よからぬ想像をしてしまう。
(島根県立美術館から眺めた日本海に沈む夕日・松江市袖師町)
『<55プラス> 話し上手になる』①
「あがらず堂々と」が目標
2012年6月29日付け朝日新聞より引用
この日の講座のテーマは「インタビュー」だ。東京都港区六本木のテレビ朝日アスク話し方教室に集まった生徒は9人。4月から、「フリートーク」、「グループトーク」などで力をつけ、7回目の授業になる。インタビューは、交代で聞き役、話し役になって進めていった。最年長の藤田徹さん(60)がインタビューする番になった。内容は自由だ。
まず、相手の女性に、「趣味をお聞かせください」と切り出した。女性は、「映画をみることです」。「どういう映画ですか」。「えっーと、どういうのかな・・・。苦手なのはホラーです」。「洋画、邦画、どちらをよくみますか」。「洋画を見ます」。さらに質問を重ねる。「映画スターは誰が好きですか」。「メル・ギブソンです。監督・主演のブレイブハートは何十回もみて泣きました」。「何十回もというのは、すごいですね」。
インタビューが終わり、講師の元テレビ朝日アナウンサー棟方宏一さん(73)がアドバイスした。「映画を通じて何を得たのか聞くのが大切。質問が単発的なので、相手の答えを聞いて、その内容から話が続くようになるといいですね」。
藤田さんは以前から、うまく話せないことが気になっていた。昨年9月、会社の所属部署が変わり、会議が多くなったことで、さらに実感した。思いを正確に伝えることができない。途中で何を言っているのか分からなくなり、まとまらなくなる。経験を積むのが一番だと考え、1月から3ヵ月間、話し方教室の初級講座を受けた。4月から、いまのスキルアップ講座に通う。
最近、小さな変化を感じる。電話はボソボソと小声で話していたが、大きな声で自信を持って話せるようになった。棟方さんも、「最初は話が短かったが、言葉をプラスして話せるようになり、説得力が出てきました」と評する。
藤田さんの目標は、あがらず、考えをしっかり話せるようになることだ。異業種の20、30代の講座仲間と授業後にお茶を飲み、会話するのも刺激になっている。「これまでで一番よく話をしている。充実しています」。(石井暖子)
(倉敷市下津井港から舟で15分の六口島からの夕日)——–>
『<55プラス> 話し上手になる』②
「3部構成で考え、練習を」
2012年6月30日付け朝日新聞より引用
なるべく目立たないようにと思っても、町内会やサークル活動などで話をしなければならない場面が訪れる。一刻も早く逃げ出したいという後ろ向きな気持ちで話して、しどろもどりになり、落ち込む。こんな状況から卒業するには、どうしたらいいのだろうか。
日本コミュニケーション学院グループ(東京都)の酒井美智雄総長が独自の「3部構成法」を教えてくれた。内容をざっくり三つに分けて話す方法だ。これを実践すると、話が散らかることはなくなる。自己紹介での三つは、①動機(その場になぜ参加したのか)、②抱負(何を求めているのか)、③よろしくお願いします、となる。
たとえば、歩こう会に入り、自己紹介をすることになった場合、こうなる。①「新聞で会を見つけました。運動不足が気になっていたので、よいチャンスだと思いました」。②「一人だと難しいけど、みなさんと一緒なら続けられそうです。3キロくらいはラクに歩けるようになりたいです」。③「飲むのも好きなので、そちらでも仲良くなれればと思います。よろしくお願いします」。
会合で、報告を求められることもあるだろう。その際の三つは、①計画、②実績、③分析だ。たとえば、盆踊り大会の収支報告をする場合、①「収支計画は、収入10万円、支出10万円でした」。②「実績は収入15万円、支出10万円で5万円残すことができました」。③「寄付が多かったからです。みなさんが多くの人を呼んでくれたおかげです。ありがとうございました」となる。結婚式のスピーチも3部構成で。①お祝いの言葉、②褒める、③励ます、に分けて考えるとよい。
3点を押さえて文章をつくったら、話す練習をしよう。酒井さんは、「何もせずにいたら、うまく話せなくてあたりまえ。雑談ができたとしても、スピーチは別の技能なので、練習するしかない」と話す。練習は、緊張をほぐすことにもつながる。口をしっかりあけて声を出そう。普段から、「アエイウエオアオ」といった発声練習をしたり、かるたを読み上げたりするのもお勧めだ。(了)
◆あがらないで話すためのポイント(酒井美智雄さんによる)
①事前に3部構成で内容を考え、話す練習をする
②普段からボイストレーニングをする。口をしっかりあけ、はっきり発声する
③話す時は動作をゆっくり。肩の力を抜く
④呼吸が浅くなりがち。十分吸ってゆっくり吐く
⑤聞いている人をまんべんなく見るのがいいが、はじめは一点を見ることから
(天然記念物のハマナスが自生する鳥取市白兎海岸からの夕日)
『<55プラス> 話し上手になる』③
「相手への思いやり忘れずに」
2012年7月1日付け朝日新聞より引用
「話し上手になるには、思いやりが大切です」。60年の歴史がある「日本話し方センター」(東京都)の島田浩子社長は、「相手への気遣いを忘れてはいけない」と強調する。こんなことがあった。ある女性が、PTAの役員になり、スピーチを学びたいと教室に来た。センターのモットーは、「言葉の前に心あり」。技術を身につける以上に、相手を思う気持ちを持とうと教える。
そのうち、女性は気づいた。いつの頃からか、夫や息子に声をかけなくなり、家庭は静か。パート先でも孤立していた。自分には思いやりが足りなかったと反省し、自分から話しかけるようにしたところ、家庭でも職場でも会話が始まった。PTAの会合でも、「お天気で気持ちいいわね」とこちらから始めると、その後の話がスムーズに運ぶようになった。
島田さんは、上手な自己紹介も、こうした考え方で教える。まずは、あいさつから始めよう。「こんにちは」と言って頭を下げる。自分を知ってもらうには、相手に分かりやすく表現しなければならない。「第一声をはっきり言いましょう。そして、名字と名前を続けて言うのではなく、間(ま)をとりましょう」。
その後、どういう字を書くのか知ってもらう。「海に浮かぶ島に、田んぼの田で島田です」。名前を繰り返すことにもなり、より覚えてもらいやすくなる。30〜40秒が目安。長くても1分以内がいいという。
町内会や民生・福祉委員などの集まりで話すなら、報告なのか、連絡なのか、相談なのかを初めにはっきり示そう。そして、一つ目は〇〇、二つ目は〇〇と順に話していく。とはいえ、事務的で冷たくならないよう注意。ここでも思いやりを忘れず、難しい言葉や専門用語は避ける。「ちょっとした心がけで、あの人の話は分かりやすいと思ってもらえます」。
日常会話でも、相手を大切に。①相手の話を受け入れる。細かい間違いをいちいち指摘せずに聞く。②普段から新聞やテレビなどで話題を集めておく・・・を意識するといい。衣食住や旅行、流行に関する話題なら、楽しく弾みやすい。(了)
◆日常会話、こんなときどうする?(島田浩子さんによる)
<話題がなくなった。広がりやすい話は>
●衣食住:「スカートを買った」、「おいしい店を見つけた」
●流行:「スマートフォンにはこんな使い方がある」
●旅行:「夏休みの旅行、お薦めはどこ」
<悪口が始まったら>
「ところで、スカイツリーに行きましたか」などと話題を変える
<同じ話を繰り返される>
「いつ聞いてもいいお話ですね」と言う
(三里ヶ浜から眺めた夕日・島根県益田市高津町)———>
『<55プラス> 話し上手になる』④
「1秒間に6文字の速さで」
2012年7月2日付け朝日新聞より引用
どのくらいの速さで、どのくらいの間(ま)をあけて話すのがもっとも理解されやすいのか。顔の表情、声の調子などの非言語情報について研究している東京女子大の田中章浩准教授(心理学)を訪ねた。
「同じような文章を聞き取ってもらう実験で、毎秒6モーラが最適でした」。モーラは聞き慣れない単位だが、文字数に近いものだという。たとえば、「リ・ン・ゴ」は3モーラだ。話の間は、0.2秒が聞き取りやすかった。「流暢なら話し上手というわけではない。詰まっても、理解されやすいこともある」。
口を見せることも理解につながる。どんな音を発したか当てる実験で、口の動きを見ないで聞いた場合、見て聞いたときよりも正答率が20%ほど下がったという。マスクをつけたり、口を覆ったりして話すと、伝わりにくいといえる。
人は、話す速度、顔の表情、声の高低や抑揚などでも何かを伝えている。「非言語情報はコミュニケーションに大きく関わっている。話の内容だけでなく、どのように話すかにも意識を向けるといいでしょう」。
さて、話す機会の多い人はどうやってうまくなったのだろう。「講演の妙手」と言われる評論家の樋口恵子さん(80)は、「上手な人の話をよく聞いて、いいなと思う点を採り入れました」と言う。お手本にしたのは、①聞いている人の目を見ながら話す、②話の途中で無言の間を入れ、聞いている人の理解を待つ、だ。
驚いたことに、30代前半のころは、90分の予定の特別講義であがってしまい、50分で終わってしまったことがあるという。会合で司会をしたとき、メモを持つ手が震えていたことも。「今、私の話を聴いて元気をもらったと言ってくれる人がいます。でも、聴く人が300人だったら、私のほうは300人分の元気をもらえています」。
樋口さんは、少人数だったとしても、人前で考えを話すことを勧める。「話せば満ち足りて、あなたの人生は豊かになります」。(石井暖子・完)
◆非言語情報の伝わり方(東京女子大の田中章浩准教授による)
①話す速度
毎秒6モーラ(1秒間に6文字話す速度とほぼ同じ)がもっとも理解されやすい
②顔の表情
日本人は目を重視。目が笑っていると、口がへの字でも「笑顔」と判断する傾向がある。
米国人は口を重視
③声の高低
高い声で聴くと「喜び」、低いと「悲しみ」と受け取りやすいが、声だけで判断すると間違いも多い
(完)